IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい   作:砂糖の塊

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7話

『シャルロット・デュノア!!お前の母親を助けてやる!!だから俺の奴隷になれこの野郎っ!!』

 

叫んだ後、俺はその内容を激しく後悔する。しまった。吐血しているデュノアの母親とシャルロット本人を見て思わず熱くなってしまった。

 

『……へ?』

 

シャルロット・デュノアもポカンとした表情で俺の方も見ているし、後ろから追いついてきた森本さんも「秀人さん……」と残念そうな声を上げている。

 

いかん、俺のペースに戻さなければ!

 

「森本さん。とりあえず救急車……いや、ヘリを呼んでください!情報部のフランス支部で1つ保有してましたよね?」

「は、はい。ただ今」

 

すぐに森本さんはどこかに電話を掛け、二言三言何かを話した。そしてシャルロット・デュノアの方に向き直る。

 

『こんばんは、お嬢さん。僕達怪しい者じゃないんだ。ちょっとお母さん診せて貰うね』

 

フランス語でそう言いながら、ベッドの上でぐったりとしている彼女の母親に近づき、脈を取ったり、瞳を開いたりしている。

 

「秀人さん、今すぐ生死に関わるようでは無さそうです」

「っ、そうですか」

「あ、僕ちょっと医学も齧ったことあるんです」

 

森本さんのハイスペックぶりに少し引きつつ、改めてシャルロット・デュノアの方に向き直る。

突然の来訪者に驚き、キョロキョロと心配そうにする彼女。写真で見るよりも実際のシャルロット本人は幼く、可愛らしく見えた。

 

『今すぐ死んだりはしないそうだ。安心しろ。ヘリを呼んだからもう少しすれば病院に運べる』

『は、はい……』

 

まだ状況を飲み込めていないらしく、俺の話にただこくこくと首を振るだけの彼女。ただ、死ぬことがないと聞いてやはり安心したのか、紫色の彼女の瞳にはじんわりと涙が滲んでいた。

 

『あの……どちら様ですか?』

『それも後でゆっくり話す。今は母親の手でも握っておいてやれ』

『は、はい……』

 

テキパキと動き回り、彼女の母親の口元の血を拭ったり、タブレットを見てはヘリの現在位置を確認している森本さん。彼に任せておけばなんとかなるだろう。ただ、やはりというか何というかアロハシャツを着ていることが状況のシリアスさをどこかに吹き飛ばしてしまっている。いや、まぁ俺もなんだけどさ……。

 

30分ほどしてヘリが到着した。情報部らしい数人の男性と白衣を来た女性がヘリから降りてくる。冷静に、そして迅速にシャルロットの母親をストレッチャーに乗せ、簡易な酸素導入を行った後、ヘリに運び込まれる。

 

「秀人さん、初めまして。紺野重工フランス支部長の朱里と申します」

「初めまして、いつもご苦労様です」

「今回フランスに来られたのは……」

「はい、そのことも明日お話させて頂きます」

 

わかりました、と朱里さんは短く言って、ヘリの方に駆け戻る。そして驚くことに操縦席に入ると、すぐにヘリは離陸していった。

 

「……情報部の人って何でも出来るんですか?」

「秀人さんがそういう方たちを集めたんじゃないですか……」

 

なにを言っているんだといった様子で答える森本さん。そうか……俺のせいだったのか。

 

『あ、あの……』

 

後ろから少女の声が聞こえる。そういえばすっかり忘れていた。今回の旅の主目的なのに。

 

『お母さんを助けて頂いて……ありがとうございました』

 

そう言って頭を下げるシャルロット・デュノア。だが心なしか彼女の顔色が悪い。

 

『どうした?何かまだ困ってることがあるのか?』

『あ、あの……今、家にお金が無くて……ごめんなさいっ、絶対お返ししますので』

 

泣きそうな顔で、申し訳なさそうに頭を下げてくるシャルロット。あぁ、そんなことか。

 

『ヘリを呼んだのも病院に運んだのもこちらの勝手だ。金は要らん』

 

手をヒラヒラ振りながら答えると、驚いて目を見開き、パクパクと口を動かす彼女。金のことはどうでもいいんだ。何なら俺達の方から更に払うくらいだし。

 

『それより、話があるんだが。聞いてくれるよな?』

こくこくと彼女が首肯するのを見て、俺と森本さんは再び彼女の家へと入る。

 

『ラタトゥイユの良い匂いがしますね』

 

へぇ、この匂いがそうなのか。俺もクンクンと鼻を動かし、家の中に漂う料理の匂いを嗅ぐ。確かに美味そうな匂いだ。それにしても森本さん……それフランス語で言っちゃいます?

 

『よ、良ければ召し上がってください……』 『いいんですか!?』

 

恐る恐るといった感じでシャルロットが答える。ほら!気ぃ遣わせちゃったじゃん!それに対して、森本さんはパァっと顔を輝かせて喜ぶ。頼むから有能なのかポンコツなのかはっきりしてくれ。

 

『えぇ、弟さんも食べられますよね……?』

 

そんな森本さんの様子が可笑しかったのか、クスリと笑った彼女は俺の分の皿も食器棚から取り出してくれた。あ、何かすみません。

それよりまた弟と勘違いされてしまったらしい。まぁ今なんてアロハシャツまでお揃いなんだからそう思われても仕方ないのかもしれないが……。

『はい、どうぞ』

 

促され、食卓についた俺達の前にラタトゥイユとやらが載った皿が置かれる。遅れて席についたシャルロットの方をチラッと見ると明らかに彼女の前の皿だけ量が少ない。

 

『おい……』

『いただきます!うおっ!凄く美味しいです!』

 

シャルロットに何か言おうと口を開こうとするが、森本さんの声によって妨げられる。てめっ、森本っ!やっぱりお前ポンコツだろ!?

 

申し訳なく思いシャルロットの方を見ていると、そんな俺の視線に気づいたのか彼女が優しく微笑み返してきた。

 

『お、弟さんも食べてください、ね?』

『……いただきます』

 

フォークで口に運ぶ。トマトベースの野菜煮込みって感じか?空腹だったのもあるが……ホントに美味い。

 

『……美味しい』

『ふふっ、ありがとう』

照れくさそうに笑う彼女。そういえば母親が病気で寝たきりということはこの料理はシャルロットが作ったのか。料理の腕といい、この人当たりの良い性格といい、報告書と原作の通りの人物のようだ。

 

***

 

『さて、話したいことがあるんだけど』

 

食べ終えて一段落したところでいよいよ本題を切り出した。それに反応した森本さんがアタッシュケースやら必要な物を取りに席を立つ。

 

『はい』

 

食器を洗っていたシャルロットだったが大人しく指示に従い、俺の正面に座った。森本さんが準備出来たという合図を送ってきたので、俺は話し始める。

 

『さて、シャルロット・デュノア』

『ちょ、ちょっと待ってください。私、デュノアなんて苗字じゃありません』

『……?』

 

俺と森本さんは顔を見合わせる。あれ?人違い?いや、そんな訳ないだろう。これはあれだ。シャルロットの母親が彼女に父親について何も教えてないんだ。俺はしばらくの間、脳内で彼女に話すことをシュミレートした後、口を開く。

 

『いや、君は確かにシャルロット・デュノアだ。デュノアという名前に心当たりは?』

『……デュノア社くらいしか……』

 

おぉ、やっぱり知っていたか。そりゃフランスを代表する世界有数のIS関連企業だからな。テレビか新聞で聞いたことはあるだろう。

 

『そう、君はそのデュノア社社長の娘だ』

『っ!?じょ、冗談ですよね……?』

 

シャルロットの瞳が動揺により激しく揺れる。

 

『いや、確かだ。なんならDNA鑑定でもしてやる。君は確かにデュノア社社長であるアレン・デュノアとお母さんとの間に生まれた子だ』

『そんな……』

『だが、そんなことは今問題にしていない』

『そんなこと!?』

 

シャルロット・デュノアの表情が驚愕と嫌悪に包まれる。確かに自分の出生に関わる秘密を軽く済ませればこんな反応されてもおかしくない。なので俺は素直に頭を下げる。

 

『すまん、確かに語弊があった。だけど聞いて欲しい話が他にあるんだ』

『……すみません。続けてください』

 

拍子抜けしたような様子のシャルロットもぺこりと頭を下げてきた。俺は森本さんに視線で合図を送り、アタッシュケースを食卓の上に載せる。

 

『な、何ですか?』

『シャルロット・デュノア。君をこれで買いたい』

 

そう俺が言うと、森本さんにアタッシュケースが開かれ、中から並べられた札束が出てくる。

 

『……へ?』

『50万ユーロある。これで君に我が紺野重工業のテストパイロットを引き受けて貰いたい』

『……ごめんなさい、状況が理解出来ないんですけど……』

『紺野重工業は3年後を目処に本格的なISの開発に移るつもりなんだ────────あぁ、ISって分かるよな?』

『あの、女性が乗るロボットですよね……?』

『その認識で間違っていない。我々も直にISを造る……ただ、残念ながら我々はまだ基礎研究に着手したばかりのレベルなんだ。このままでは世界基準に到達する前に倒産してしまう』

 

嘘ではない。ようやく国内に流通するIS消耗部品のシェアこそ絶対的なものになってきたが、自分達でISを開発するとなると、俺達はまだ赤ん坊のようなものだ。何も出来ないし、殆ど何も分からない。

 

『はぁ……』

『そこでだ。君にフランスの代表候補生になった上で、日本のIS学園に通ってもらいたい。そこで我が社のIS開発を手伝ってもらいたいんだ』

 

現在、代表候補生として選ばれている人達にはことごとく企業や研究所が既にバックについている。つまり俺達、紺野重工業が自由に研究開発を行うのには、まだ代表候補生の候補にも選ばれていない奴を『青田買い』するしかないのだ。

 

『わ、私がですか!?あ、ISも見たことないのに!?』

『それは大丈夫だ。君のIS適性はAだから』

 

俺は彼女に自信を付けさせるため、即座に断言する。原作ではそうだったのだから、この世界でもシャルロット・デュノアは素晴らしいパイロットになるだろう。

 

『……どうして分かるんですか?それに私の為にわざわざ日本から来られたんですか?』

 

初対面でこれだけ断言する俺にようやく胡散臭さを感じたらしい。俺や森本さんやアタッシュケースの中を訝しそうに見つめる。

 

『言いたいことは尤もだろう。確かに俺達は怪しすぎる。ただ、例え君が騙されたところで何のデメリットがあるんだ?』

『……?』

『金は置いていくからお母さんの治療費に使える。それにIS学園に入学出来る16歳まではフランスで過ごしていい。日本に来るまでの生活と身の安全も紺野重工業がサポートしよう。代表候補生になれば国家の後ろ盾もつくし、もしどうしても嫌になればISに乗ること自体辞めればいい。それで俺達との関係もなくなる。破格の条件だと思うがね?』

『お母さんの治療費に……』

 

やはり1番食いついたのはそこだったようだ。俯いて顎に手を当てゆっくりと条件の中に不利益がないか考えている。

 

「秀人さん……それでは我々に余りに不利です」

 

焦ったように森本さんが耳打ちしてくるが、俺は気にしない。知っているからだ。目の前に座る彼女が受けた恩をあっさり忘れるような子ではないことを。

 

『さて、どうするんだ?我々と手を組むか、このまま母親が死ぬまで一緒にここで暮らすか』

『……いします』

『聞こえないな』

『お願いします!私を貴方達の会社のテストパイロットにしてください。お母さんを助けるなら何だってしますから!』

『よし、なら契約成立だ』

 

俺は内心ほくそ笑みながら彼女に向かって手のひらを伸ばす。恐る恐るそれを受ける形で握手を交わしたシャルロットの前に森本さんが紙束を置いた。

 

『あの……これは?』

『契約書だ。こちらからは少なくともIS学園に入学してもらうこと。それとある程度の行動の制限等を課させて貰う。君の安全を守る為にもね』

『これ全部ですか?』

『今日じゃなくても構わない。明日か明後日にでも出してくれ』

シャルロットは小さく溜め息をつき、黙々と契約書に目を通し始める。文書はフランス語で書いたから問題ないはずだ。俺は契約が上手く成立しそうなことにホッとして小さく溜め息をついた。後ろで控えていた森本さんが話しかけてくる。

 

「お疲れ様です、秀人さん」

「あぁ、ありがとうございます」

「秀人さんって絶対年齢詐称してますよね」

「……えぇ、実は25歳なんです」

「……全く笑えない冗談ですね」

 

そんなことを2人で話していると、ふとシャルロットが口を開いた。

 

『あの、お二人はこのあとどうされるんですか?』

『どうって……ホテルに帰りますが』

『バス……多分もうありませんよ』

『えっ?』

 

森本さんが驚いた声を上げる。俺も壁際にかかった時計を見るが、まだ夜の8時過ぎだった。

 

『もうバス無いんですか?』

『この辺りは田舎ですから……』

 

マジか……。泊めて貰えないかな……。俺は期待を込めて森本さんの発言を待つ。

 

『仕方ありませんね、野宿しますか』

『えっ』

『の、野宿ってもうすぐ11月ですよ!?』

『仕方ないですね。女性と1つ屋根の下で眠るのは問題でしょうし』

 

慌てて反論するが、渋い表情を浮かべ『ねっ?』とシャルロットに同意を求める森本さん。急にどうしてそんな真面目なこと言い出すんだ!?このままいくとアロハシャツで11月の夜風を浴びることになるんだぞ!?

 

『わ、私は別に構いません。家で寝てください』

『え?いいんですか?』

 

よっしゃあ!!俺は心の中でガッツポーズを作りながら、目の前の天使に感謝を捧げる。

 

『ありがとう。デュノアさん』

『……いえ』

 

『デュノア』と呼ばれた彼女は馴れないらしく、しきりに首を傾げながら契約書の束を持って部屋に戻っていった。なお、自分のベッドを使うよう彼女は言ってきたが、それは断った。そこまで厚かましくはなれないです、はい。

 

ダイニングの床に雑魚寝した俺と森本さん。暗闇にぼんやりと浮かぶ天井を眺めていると、森本さんが口を開いた。

 

「こうしていると、大学時代を思い出します」

「……旅行ですか?」

「いえ、1度比叡山の方で仏教修行をしていた時期がありまして、その時は御堂に雑魚寝していたな、と」

「森本さんって人生経験豊富過ぎませんか?」

 

そんなことを話しているうちにいつの間にか俺達は眠りについていた。そして朝ふと目が覚めると俺達に1枚ずつ毛布が掛けられていた。シャルロットさん、マジ天使。

 


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