IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい 作:砂糖の塊
『僕、日本人か?』
『は、はい』
3本目に乗り換えたバスに乗ってうとうとしていると、おじいさんに訛りのある英語で話し掛けられた。
『こんな田舎に***かい?』
『あ、フランス語でも大丈夫ですよ』
聞き取り難かったので、こちらからフランス語で答えると、おじいさんは驚いた表情を浮かべた。若干誇らしい気持ちになる。ちなみに森本さんも英語、フランス語は話せるらしい。ハイスペックだな……。
『……おたくの弟さん凄いね』
『い、いえ。秀人さんは……』
『お、お兄ちゃん……俺、凄いでしょ!』
生真面目に訂正しようとした森本さんを遮り慌ててジェスチャーを送る。観光に来た兄弟を装う方が、印象に残らなくていいからだ。
『あ、あぁ、流石俺の弟!』
『あははは……』
2人で口裏を合わせ、なんとか誤魔化す。おじいさんは信じてくれたらしく、ニコニコとしていた。
『誰かに会いに行くのかい?』
『えぇ……この子なんですけど。知ってます』
俺はガサガサと報告書をめくり、シャルロット・デュノアの顔写真を見せる。文書自体は日本語で書かれているので特に見せても問題はないはずだ。
『どれ……あぁ、シャルちゃんか』
『お知り合いですか!?』
森本さんが驚いた声を上げる。確かにまだ乗り換えも残ってるのに、こんなところで知り合いに会うとは思わないよな……。
『村のはずれにお母さんと住んでる子じゃろ?可愛らしいし、優しい子でなぁ』
『へー……お母さんの具合が悪いとか聞いてませんか?』
『あー……そういや最近見てないな……具合良くないのか?』
『少し体調崩されてるみたいですね』
『そうか……お大事にって言っといてくれ。また見舞いにでも行くから、とな』
『わかりましたぁ』
そう言うとおじいさんは次のバス停で降りていった。ひらひらと手を振るおじいさんを見送った俺達はふぅ……と小さな溜め息をつく。
「どうやら、報告書の通りのようですね」
「流石情報部です」
「いやいやそんな……」
謙遜する森本さんを横目に、俺は先ほどのおじいさんのシャルロット・デュノアに対する評価を思い出していた。可愛くて、優しい。どうやら原作と変わりない人物らしい。少しホッとする。
「あ、秀人さん。次が終点みたいですよ」
森本さんにそう言われ、慌てて降りる。森本さんは荷物が多くて大変そうだ。アタッシュケースに2人分の黒スーツが入ったカバンまで持ってもらっている。
「少し持ちますよ?」
「これぐらい全然大丈夫です。『運転手さん。この住所の場所に行きたいんですけど』」
俺の申し出を手で制し、運転手に報告書の一部を見せる森本さん。運転手はすっと人差し指で前方を指さした。
つられて前を見るが1面背の高い向日葵畑が生い茂っていて、家らしきものは見えない。
『あの……』
『この畑をずっとまっすぐ、赤い屋根の家だ』
低い声でそれだけ言った運転手はそのまま走り去ってしまった。
「さて……歩きますか」
「はい……」
再び荷物を背負い、向日葵畑に向かって歩き始める。既に辺りには夕日がさしていた。ホントに日没まで着けるんだろうか……異国で野宿は嫌なんですけど……。
広い向日葵畑の中に細く続く道を歩き続けると、一気に景色が開けた。目の前にはちょっとした丘があり、奥は森になっている。その手前、今の俺達が丁度見上げるような位置に赤い屋根の家は立っていた。
「着きましたね」
「えぇ……」
流石に大荷物を持っての移動はきつかったのか、膝に手を当てて息を整える森本さん。ご苦労様です。
「着替えましょう。スーツを出してもらっていいですか?」
ジーッと布製のカバンを開ける森本さん。夕焼けに照らされた彼の顔がすぐに驚愕にゆがんだ。
「どうしました!?」
「あ、あの……間違えて……アロハシャツ持ってきちゃいました」
「え……?」
そう言ってピラっと中に入っていた布を広げる森本さん。水色をベースに赤いハイビスカスが大胆に施された、ハワイアンな服がお目見えする。
……普通、黒スーツとアロハシャツ間違えますかね。
「すみません、前日まで仕事で……寝不足だったものですから」
「修学旅行と勘違いしちゃいました?」
「……しちゃいました」
「はぁ……」
俺は深い溜め息をつく。機内では森本さんのこと有能とか言ってたけど全部撤回だボケ!どこの世界にアロハシャツで人身売買の取引に行く奴がいるんだよ。トロピカルランドで秘密の取引をしたジンとウォッカレベルの滑稽さなんですけど。
「一応サングラスはあるんですけど」
それも修学旅行セットだろうがぁ!!!ちょっと自慢げに出すんじゃねぇよ!!
そう言っても他に着替えはなく、着てきた私服は汗で湿っている。仕方なく俺達はアロハシャツに着替え、サングラスをつける。
「「……」」
はい、完全に観光客です。本当にありがとうございました。
「……出直します?」
「え?ここまで来て?」
とは言っても俺も結構やる気が削がれてしまっている。俺は形から入るタイプなのだ。Tシャツとジーパンで神輿担げって言われたら嫌だろ?それと同じです。
なんとなく出直す方向に意見がまとまりかけたその時だった。
「きゃーっ!?お母さんっ!?」
家の方向から女の子の悲鳴が聞こえた。俺は一目散に走り出す。森本さんもアタッシュケースを引っ掴んで俺に続く。
「大丈夫!?しっかりして!?」
泣きそうな少女の声が尚も聞こえてくる。大丈夫だ。シミュレーション通り、後は落ち着いて、金でシャルロット・デュノアを連れ帰るだけだ。
丘を登りきった俺は少し傾いた木製のドアに手を掛けると、走る勢いのまま家の中に飛び込んだ。