IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい   作:砂糖の塊

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4話

 

3週間後、午前8時。俺と森本さんは空港のロビーにいた。

 

「秀人さん、忘れ物はないですか?」

「……大丈夫ですね」

 

20代前半でまだ入社したばかりの森本さんと俺が並ぶと兄弟のように見える。だが精神年齢は……やっぱり森本さんの方が上だな。前世の俺は確か大学2留だったし。

 

「それじゃ行きましょうか」

 

心なしか森本さんのテンションが高い。

 

「いやー飛行機乗るの、高校の修学旅行以来です」

「へー、そうなんですか」

「秀人さんは初めてですよね」

「そうです。海外に行くのも初めてです」

 

前世の修学旅行は確か九州の方だった。森本さん……修学旅行海外行ったのかな……羨ましい。

 

「そういえばパスポートって間に合ったんですか?」

「ええ……まぁ……」

「……聞かないことにしますね」

 

森本さんが引きつった笑みを浮かべている。いけないいけない。暗黒スマイルが出てしまっていたらしい。俺は人差し指で無理やり口角を戻しながら、ガラガラとキャリーケースを引いて搭乗カウンターへと向かった。え?パスポート?あるよ……ただ、一応大企業の息子ですから、急に欲しくなったら……ね?用意できるんですよ……父さんのコネに感謝。

 

スムーズに搭乗手続きが終わり、飛行機の中に乗り込む。気を遣ってか、森本さんが窓際の席を譲ってくれた。正直嬉しい。

 

CAさんのちょっとした注意事項を聞き流し、いよいよ飛行機が滑走路の中を動き始める。こんなでかい機械が空を飛ぶなんて不思議だ。

 

「離陸しますよ」

 

何故か隣の森本さんが自慢げに声を掛けてくる。はははと笑って聞き流すとすぐに身体が僅かに後ろに引っ張られるような感覚があった。窓の外に目をやると白く大きな翼が滑走路からグングンと離れていくのが見えた。

 

おぉ……飛んでる。フランスまでおよそ12時間半。俺はゆっくりと背もたれにもたれ掛かり、目をつぶった。

 

今回、フランスに行く1番の目的は『シャルロット・デュノア』だ。男としてIS学園に転校してきたフランスの代表候補生。確か前世に読んだ展開ではデュノア社の社長を勤める父親に引き取られるまでは母親と2人で暮らしていたはずだ。そして残念なことに母親が病死してしまい、天涯孤独になってしまう、と。

 

そこで今回、母親がまだ治る見込みのある段階で彼女のもとを訪れ、強引に恩を売りつけてシャルロット・デュノアを我が紺野重工業専属のテストパイロットにしてやろうという作戦だ。既に森本さんをはじめとする情報部の働きで、シャルロットとその母親の実在(デュノア姓は名乗っていないようだが)と、現在住んでいる住所は判っている。

 

シナリオとしてはこうだ。

 

森の近くにポツンと建つ粗末な木造の平屋。窓際のベッドには見るからに具合の悪そうな女性が横になっている。

『こほっこほっ……しゃ、シャル……』

『お母さんっ!今お薬貰ってくるからっ!』

『だ、ダメよ……それは貴方のご飯を買う為の……』

『ううん!私お腹空いてないもん!それよりお薬飲んで早く良くなって、ね?』

 

バーン!ドアを乱暴に開け、土煙と共に俺と森本さんが家の中へとなだれ込む。勿論2人とも黒いスーツにサングラス姿だ。

 

『邪魔するでぇ!』

『だ、誰ですか!?』

『わてら通りすがりの紺野重工っちゅうもんや、そんなことはどうでもええねん、お嬢ちゃん。ちょっと取引せんか?』

『と、取引……?』

『あぁ、シャルちゃんにちょっと一緒に日本に来てもらってな。テストパイロットになってもらいたいねん』

『だ、ダメです……コホン……娘をそんな外国になんてっ……ゴホッ……連れていかせません!』

『……その見返りはなんですか?』

『だ、ダメッシャルッ!』

『おたくのお母さん。そこでしんどがってはるお母さん居はるやろ?わてらが責任もって面倒見たろ……森本はん』

『はい……』

 

俺がパチンと指を鳴らすと、後ろで控えていた森本さんが手に持っていたアタッシュケースを開ける。中にはギッシリと現地通貨のユーロが詰まっていた。

 

『こんだけあれば、どんな大病院でも入院さして貰えるやろ』

『こ……これでお母さんが……』

『だ、ダメ!シャルロット……私のことは大丈夫だから……』

『ほら、シャルちゃん。どうすんねん?何も捕って食おうなんて思てへんで』

『シャル!』

『…………お願いします。お母さんを助けてあげてください』

 

母親を守るようにベッドに覆いかぶさっていたシャルロット・デュノアが俺の前まで来て頭を下げる。

 

『へへっ、決まりやな……』

『ダメッ、シャル!行かないでっ!』

『ごめんねお母さん……またいつか会えるよね……』

 

シャルロット・デュノアはバイオレットの瞳に大粒の涙を浮かべながら、それでも気丈に母親に向かって微笑んだ。俺と森本さんはアタッシュケースを床に転がすと、そんな彼女の腕を強引に引き外に連れ出す。

 

『シャルっ!シャルぅっ!』

 

咳混じりの悲痛な叫びは何時までも草原に響いていた……。

 

最高にワルだな。ゾクゾクするぜ。

 

シミュレートを終えた俺はゆっくりと目を開け、満足げに微笑む。丁度目の前にCAさんが来ていたらしく気味悪がられた。あっ、オレンジジュースお願いします。

ストローでズゾゾゾとオレンジジュースを飲みながら、ふと隣の森本さんの方に目をやると雑誌を顔に被せて眠ってしまっていた。ビジネスクラスだから若干変な姿勢になってしまっている。……結構頑張ってくれてるからな。寝かせておこう。俺は有能な人には優しいのだ。CAさんにタオルケットを頼んで、森本さんに被せた後、窓の外をぼんやりと眺める。

 

既に雲の群れを見下ろせる高さにまで飛行機は上昇していた。これがよく言う高度1万フィートの世界なんだろうか。本来なら上に広がるはずの雲が下にあって、自分より高い物が全くない。そんな非現実的な景色に俺は見蕩れてしまっていた。

 

……『白騎士』もあの時こんな景色を見てたんだろうか。

 

* * *

 

気がついたら飛行機は着陸態勢へと入ろうとしていた。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。小さく伸びをして隣を見ると、森本さんはまだすやすやと寝息を立てていた。流石に揺り起こすと、むにゃむにゃと言いながらゆっくりと目を覚ました。早く夢の世界から着陸してください。

 

フランスのパリ国際空港に降り立った俺達。時差のせいでフランスは昼を少し過ぎた所だった。そういえば機内食食べてない。もしかしたら寝ぼけて断ってしまったんだろうか。

「着きましたね……どうしますか?」

「とりあえずどっかで昼食べて、住所の所に行きますか」

「了解しました」

 

カバンからタブレットを取り出し、何やら打ち込む森本さん。やがて俺の方に向けられた画面にはなかなか美味そうなサンドイッチの画像が表示されていた。

 

「そこにしますか」

「あ、すみません。これはこの前家で作ったクラブハウスサンドの画像でした」

「……」

 

紛らわしいわ!

森本さんの小ネタを流しつつ、市街地へと向かうバスに乗り込む。シャルロット・デュノアの住む地域までは市街地の中心を通る地下鉄に乗っていくのが便利だ。

 

昼を適当に食べ終え、ガタゴトと地下鉄に揺られ、目的地へ向かう。報告書に寄ると、地下鉄を降りて更にバスを数本乗り換えた後歩かなければならないらしい。日が暮れるまでに着くといいけど。

 


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