IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい   作:砂糖の塊

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33話

セシリアを連れ、中央モニタールームを目指す。既に無人機との交戦が始まっているのか、アリーナの方からは断続的に爆発音が響いていた。

 

「あった……!失礼します!」

 

自動扉が開くのと同時に、モニタールームに飛び込む。途端に織斑先生が鋭い視線を向けてきた。

 

「誰だっ!?」

「い、1組の紺野です!」

「あぁ、紺野くんでしたか。それにオルコットさんも……」

 

侵入してきたのが敵でないと分かってか、ホッとため息をつく山田先生。先生達の前に並ぶ複数のモニターには、爆発による炎と、もうもうと立ち上る煙が映っていた。

 

「あ、あの……一体何が起こっているのでしょうか?」

 

未だ状況が全く飲み込めていないセシリアが不安そうに口を開く。

 

「……アリーナにて、未確認機の襲撃を受けている。織斑と凰が応戦しているが、侵入の際に制御装置が損傷を受けたらしく生徒の避難が進んでいない」

「そんなっ!?」

 

織斑先生がそう言って悔しそうにモニターに目をやる。そこには、アリーナの中心に陣取り、一夏と凰さんに発砲し続ける巨大な黒いISが映っていた。これが未確認機らしい。

 

そして別角度から撮られた映像には、スラスターをふかしながら未確認機の攻撃を避け続ける一夏達の姿があった。

 

相手の戦力を測りかねているのか、避難誘導の為の時間を稼いでくれているのか、その意図は定かでないが、未確認機と一定の距離をとりながら戦闘を続けている。

 

「お前達どうやってここまで来た?観客席にはシェルターが展開されているはずだ」

 

ふと、俺達がここまで来れたことが変だと気づいたらしい。織斑先生が再び疑念のこもった鋭い目を向けてくる。

 

「えっと……」

 

言い淀む俺の隣で、セシリアが口を開いた。

 

「そ、それは!紺野さんがお手洗いに行かれて、私は落とし物を届ける為に観客席から離れたのです!丁度そのタイミングで爆発が聞こえたましたので、こちらに……」

「……そうか」

 

セシリアの説明を受け、しばらく考え込む織斑先生。やがて、俺達に対する一応の疑惑が晴れたのか、再び視線をモニターに戻した。

 

「山田先生、増援要請は」

「は、はい。既に他の先生方がアリーナに向かっています。ただ……出入口のシェルターの突破に時間を要しているようです」

「そうか……くっ」

 

眉間にシワを寄せ、モニターを睨みつける織斑先生。アリーナで今なお戦っている一夏達だったが、未確認機の火力の前に苦戦を強いられているようだ。表示されるシールドエネルギーの残量がぐんぐんと目減りしていく。特に一夏の方はもう数分と持たない減り方だ。

両手に装備された機関砲を主兵装とする未確認機と、近接攻撃専用の『白式』の相性は最悪らしい。

 

「お、織斑先生っ!私に出撃許可を!」

 

そんな一夏を見てか、セシリアが織斑先生に向かって叫ぶ。今にも飛び出して行かんばかりの勢いだ。

だが、織斑先生は静かに首を横に振った。

 

「駄目だ。敵の交戦能力がはっきりしていない以上、むやみに生徒を出撃させられない」

「ですがこのままだと一夏さんがっ!」

「お前が行ったところで何ができる?模擬戦用に出力調整した武器で充分に戦えるのか?織斑や凰との連携は?」

「そ、それは……」

矢継ぎ早な織斑先生の指摘に言い淀むセシリア。確かに今現在の彼女の実力を持ってしてでも未確認機に勝てるとは限らない。下手をすれば格好の的となってしまうかもしれない。

 

だがセシリアからすればどうだろう。モニターの向こうでは自分の気になる異性が命がけで戦っているのだ。そして、運良く自分には苦しんでいる味方を助けられるかもしれない能力があるのだ。

何としてでも出撃したい、というのは理解できる。

 

それに、俺にとっても彼女が出撃してくれたが都合がいい。というよりモニタールームから出ていって欲しいと言った方がいいか。

 

だから俺は俯いて唇を噛みしめるセシリアに近づき、囁いた。

 

「おい、一夏を助けに行かないのか?」

「……貴方もお聞きでしたでしょう?織斑先生の許可が……」

「そんなことどうだっていい」

 

俺の言葉に思わず顔を上げるセシリア。彼女の2つの碧眼が真っ直ぐに俺を捉える。

 

「確かに教師として生徒の命を守るのが織斑先生の仕事だ。だけど、セシリア。お前は自分の命と一夏の命を天秤に掛けられるんじゃないのか? ……自分がどこで命がけになろうと、自分の勝手だ」

 

セシリアに話しながら俺は、数年前、シャルロットを助ける為、誘拐犯の家に忍び込んだときのことを思い出していた。

あのときの俺もそうだ。後で森本さんに言われて大分反省したけど、確かにあのときの俺にとって『シャルロットを助けること』に自分の命を賭ける価値があるように思えたのだ。

 

「だから、自分で決めろセシリア!」

「紺野さん……私、行って参りますわ……!一夏さんを連れて必ず戻ってきます!」

 

小声ながらも力強い声で呟くセシリア。その瞳には強い決意と覚悟の色が宿っていた。

 

「あぁ頼んだ」

「それでは……」

「……あぁそうだ」

 

こっそりとモニタールームから出ていこうとするセシリアに俺は声をかける。言い忘れるところだった。

 

「……何ですの?」

「敵は地上戦闘が得意なタイプらしい。出来るだけ空中に留まっていた方がいい」

「……分かりましたわ!ありがとうございます!」

 

今度こそセシリアはモニタールームから出ていった。とは言っても自動扉の開閉の音で先生達には気づかれてしまうだろう。

「行ったか……あの馬鹿者が」

「止めなくて良かったんですか?」

「止めても聞かないでしょう……それに、紺野にも唆されたようですし」

「えっ!?」

 

織斑先生のため息混じりの声に、山田先生は驚いた声を上げる。どうやら織斑先生には聞こえていたらしい。マジかよ……大分小声で話してたのに……。元世界王者は色々規格外らしい。

 

「女を戦場に行かせるとはいい度胸だな、紺野」

 

冷たい視線と言葉が織斑先生から飛んでくる。どこか敵意のこもったその視線には迫力があり、思わず後ろに下がってしまいそうだった。

 

「そうですか?俺よりセシリアの方がずっと強いですよ?」

「もし、オルコットに何かあったら……お前はどうするつもりだ?」

「エネルギー残量の少ない一夏と凰さん2人に戦わせるより、セシリアにも出撃させた方が3人とも無事に帰ってくる確率は高いですよね。それに……」

「それに?」

「……きっと、一夏とセシリアなら無事に帰ってくると、俺は信じてます」

 

真っ直ぐに織斑先生に向けて言い放つと、先生は一瞬呆れたような表情を浮かべ、俺に背を向けた。

 

「……あまり動き回るな。じっとしていろ」

 

そして、俺の方を見ることなくそう言った織斑先生は、再び一夏達に向けてオペレーティングを始めた。俺達の会話をオロオロと聞いていた山田先生も各種機器類のチェックと、増援との交信作業に戻っている。

 

ようやく……ようやく俺に関心を向ける人間が居なくなった。俺は小さくため息をつきながら、先生にバレないようにポケットから小さな電子機器を取り出した。

 

 

『……きっと、一夏とセシリアなら無事に帰ってくると、俺は信じてます』

 

織斑先生に俺は確かにこう言った。だが、この台詞には誤りがある。確かに一夏とセシリア、凰さんが協力すれば生きて帰ってこれるだろう。そのことについては確信に近い信頼を一夏達に置いている。

 

だが、俺が『信じてるから』だけの理由で友人を戦場に送り出すように見えるだろうか?

 

……うん、見えないだろう。俺は優しいからな。

 

勿論、今日に備えて用意していたに決まってる。

 

 

EMPというフレーズを聞いたことがあるだろうか? 漫画やSF映画で耳にしたという人もいるかもしれない。

正式名称はElectroMagnetic Pulse、日本語では電磁パルスという名称がついている。

 

電磁パルスは、核爆発や雷によって起こる電磁波の1つであり、周辺の電子機器類に過剰な電流を流すことで、電子機器類をショート、故障させることが出来る。

 

つまり、EMPは見えない爆弾といったところだろうか。

 

前の世界では、アメリカ軍が極々狭い範囲内で電磁パルスを発生させる装置を開発していたが、半径100メートルほどの範囲でしか効果がなく、その使用用途は非常に限定されていた。

 

ましてこの世界において、EMPの戦略的価値はゼロに近い。半径100メートル、地面から数メートルにしか効果のないEMPでISが撃ち落とせるだろうか?

 

答えは勿論NOだ。空を自由に飛び回るISには、その効果が届かないし、電気を貯めておくコンデンサが破壊されてしまえば、EMPは発生させられない。それだけのエネルギーがあるならレーザー兵器にでもチャージした方がまだ有効である、そんな切ない評価を下されているのが、このEMPという兵器である。

 

だが、よく考えてみて欲しい。今日、この場に関して言えば、EMPは絶大な威力を発揮するのではないだろうか。

 

範囲は半径100メートル少しのアリーナの中、しかも敵はその中心に陣取り、殆ど飛行しないことも原作知識から分かっている。

もっと言えば、今回の未確認機は無人機であるのだ。中のパイロットが感電死するという心配もなくフル出力の電磁波を発生させることができる。

 

これほどEMPが効果を発揮しやすいシチュエーションもそうはないだろう。

 

だから、俺は1週間ほど前に紺野重工に依頼し、極秘裏のうちに大型コンデンサを複数基、このアリーナに運び込んで貰っていた。

 

電力の供給源をIS学園から賄っていた為、ブレーカーが落ちやすくなってしまう弊害もあったが、何とか誤魔化すことが出来た。

 

あとは何とかクラス代表戦当日、このモニタールームに侵入し、一夏や凰さんが空中にいるタイミングを見計らって、コンデンサを放電させればいいだけであったのだ。

未確認機の襲撃に合わせ、シェルターも閉じられているから観客席に被害が及ぶこともない。

 

俺のうっかりでセシリアが着いてくるというハプニングもあったが、計画に支障をきたすレベルではない。

 

俺は手元のスイッチを握りながら、モニターを見つめた。

 

アリーナでは、一夏とセシリア、そして凰さんの3人が協力して未確認機の攻撃を防いでいる。セシリアの操る『ブルー・ティアーズ』が増援に来たことで遠距離攻撃が増え、少しずつではあるが未確認機にダメージを与えているようだ。

 

だが。

 

「織斑先生!白式に敵の攻撃が命中!シールドエネルギー残り僅かです!」

「増援はまだか!」

「もうすぐシェルターを突破できるそうですが……織斑くんに退避命令を!」

 

一夏に限界が来たらしい。無理もない。凰さんの操る『甲龍』との模擬戦から、休むことなく未確認機と今現在まで交戦を続けているのだ。近接戦闘用の機体である『白式』のシールドエネルギーが底を尽きるのは当然と言える。

 

俺は手元のスイッチの安全装置を外し、つまみに手を掛けた。タイミングは、未確認機が地上近くに発砲した時。

 

そんな俺の思いが伝わったように『ブルー・ティアーズ』が低空で未確認機の周りを旋回し始めた。

 

未確認機がセシリアを捉えようと、両手に備えつけられた2基の機関砲から弾丸をばら撒く。そのうちの幾つかがアリーナの壁面に命中した。コンクリートが剥がれ、一部の配線がむき出しになる。

 

俺はつまみを回した。

 

 

バリバリバリィッッッ!!

 

雷が落ちたような轟音が響き、一瞬モニターが真っ白になる。

 

「な、何ですかっ!?」

 

山田先生が目を覆いながら悲鳴に似た叫び声を上げる。

やや時間を置いて、その機能を取り戻すアリーナ内のカメラ。電子機器であるはずなのにやけに復旧が早い。もしかしたらテロ攻撃か何かを想定してEMPに対しての対策を施してあったのかもしれない。

 

未確認機はどうだ……?俺は祈るような気持ちで土煙の中に立つ未確認機を見つめる。

 

『バチッ……バチッ……!』

 

未確認機からは黒煙が上がっていた。ボディーの所々は焦げたように茶色く変色し、モーターが使われているような関節部からは火花が散っていた。

 

そして、モニタールームに無線の声が響く。

 

『こちら、セシリア・オルコット!突然の閃光の後、未確認機が沈黙!』

「な、何が起こったんだ……?」

「さぁ……?」

 

突然の事態に、揃って目を丸くする先生達。何が起こったのかも分かっていないだろう!

 

よっしゃああああああ!!!!!

 

俺は心の中で絶叫していた。未確認機に損傷を与えた。サージ電流によってショートしたモーター類はもはや機能しないだろう。

つまり、紺野重工が初めてISを倒したのだ。

 

『これより、遠距離から追撃を加え、未確認機を完全に無力化します』

「了解」

 

無線からはセシリアの声が聞こえてくる。無線越しながら澄んだその声は、まるで俺の勝利を祝福しているようだ。

 

あぁ、これでやっと撃破1だな……。

 

『……って一夏さんっ!?』

 

セシリアの慌てた声に、モニタールームにいた全員に再び緊張感が走る。

 

『うぉぉぉ!これで……トドメだぁっ!!』

「おい!一夏!むやみに接近するな!」

 

無線から聞こえる一夏の雄叫びに、思わず素の喋り方に戻った織斑先生の注意が飛ぶ。

 

モニターの向こうでは、動かなくなった未確認機に一夏が雪片弐型を振りかぶり、高速で接近しているところが映っていた。

「一夏!先生の言うことを聞け!」

 

俺も思わず叫んだ。ヘッドセットをつけていなければ、一夏に声が届くはずもないと言う事を忘れて。

 

沈黙した未確認機。その装甲にはEMPによって起こった電流が大量に残っている。つまり未確認機自体が電気を貯めるコンデンサのようになっている。

そこへ金属製の刀剣で切りつけたらどうなるだろう。

 

『ぐあああああああっっっ!!??』

一夏の叫び声が聞こえてきた。刀剣を介して伝わった電気が、『白式』と一夏を襲ったのだ。

 

「一夏っ!」

「織斑くんっ!?」

 

先生2人の悲鳴がモニタールームに響く中、一夏の乗った白式はプスプスと煙を吐きながら、地面へと倒れ込んだ。それと同時に白式の装甲が解除され、煙を上げる一夏だけが残る。

 

「白式……シールドエネルギー0です……」

 

山田先生の小さな声が聞こえてきた。幸い、一夏の心拍を表すゲージは正常値を指していた。どうやら気絶しているだけらしい。

 

「……」

 

モニタールームの中を微妙な空気が流れる。モニターの向こうでプスプスと煙を上げる一夏は、すぐに飛んできたセシリアと凰さんによって救助された。

 

なんだこの勝ったのに負けたような雰囲気は……。

 

「はぁぁ……馬鹿者が……」

 

静寂に包まれたモニタールームには、織斑先生のため息だけが響いていた。

 

 

 

 




紺野重工の戦果︰撃墜2機(うち味方機1機)←New!

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