IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい   作:砂糖の塊

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30話

 

月曜日。目覚ましの電子音で目を覚ました俺は、ベッドの上で大きく伸びをした。カーテンの隙間からはつい先ほど昇り始めたのだろう陽の光が部屋に差し込んでいた。いい朝だ。久しぶりに走りに行こうか。

そう思い、ジャージに着替えていると隣に寝ている一夏がもぞもぞと布団の中で身じろぎした。

掛け布団の隙間から覗く頬には絆創膏が貼られ、部屋の中にはうっすらと湿布の匂いが漂っていた。

 

これはまた扱かれたんだろうな……。

 

俺は痛々しい姿の一夏に心の中で合掌すると、静かに部屋を出た。

 

30分ほど学園内を走り部屋に戻ると、一夏はまだ布団の中で眠っていた。幸い今日はまだ時間に余裕がある。まだ寝かせといてやろう。

 

シャワーを浴び、制服に着替えた俺がシャワー室から出ると、一夏はベッドの上で体を起こし、寝ぼけた顔で壁を見つめていた。

 

「なんだ、起きてたのか?」

「もう……朝か……?」

「そうだ、月曜の朝。気持ちいい朝だぞ」

「そうか……」

 

そう呟く一夏の目はどこか虚ろで、疲れてきっているようだった。昨日1日ゆっくりして、体力が完全に回復した俺とは対照的だ。

 

「大丈夫か?」

「……なんとか生きてる」

「昨日も1日特訓してたみたいだな」

「あぁ、午前中は箒と剣道して……午後はセシリアとISの訓練……死ぬかと思った」

「……何というか、お疲れ」

 

悲壮感漂う一夏に、俺はそう声を掛けるしかなかった。

 

そんな一夏だったが、顔を洗い、朝食を終える頃にはある程度目が覚めたらしくいつもの調子に戻っていった。

 

朝食を終えた俺達は、教室へと向かう。

 

「そういえば今日はセシリア居なかったな」

「あぁ、そういえばそうだな……」

「もしかして、昨日何かあったのか?」

 

尋ねられた一夏は、ふむと顎に手を当て黙り込んだ。昨日の様子を思い出しているようだ。

 

「いや、特に……あ、でも特訓終わりに、説明が細すぎて分かりにくいことは伝えたな」

「へー、セシリアは何て?」

「『合理的かつ科学的な説明が分からないなんて、一夏さんの理解力不足ですわ!』って叫んでた」

「そうか……」

 

大方寮に帰ったあと、一夏に嫌われたんじゃないかと不安になったんだろう。それを気にしすぎて今朝は一緒に朝食を摂ることもしなかったと。

 

だがセシリア、幸か不幸か分からないが、織斑一夏という男は君が考えているよりずっと鈍感だ。気にしすぎても良いことはないだろう。

 

 

教室に入ると、1番にのほほんさんが声を掛けてきた。

 

「おりむー、こんちゃん、昨日の模擬戦見た?」

「いや、見てないけど」

「そんなに凄かったのか?」

「凄かったよー、あっという間に試合が終わっちゃって。転校してきた方が勝ったんだけどねー中国の代表候補生なんだってー」

 

特撮ヒーローを見た小さな子どものようなキラキラした目で昨日の模擬戦の様子を話すのほほんさん。周りを見ても多くの生徒が、昨日の模擬戦について興奮気味に話しているようだった。

 

「へー、一夏も見ておけば良かったな」

「あぁ、どんな奴なんだろう」

「ツインテールでー、私と同じくらいの背の子だったよー」

一夏の呟きに、自分の頭の上に手の平を当てながら答えるのほほんさん。大体150cmくらいか……。

 

「……それってもしかして……」

 

何か思い出したのか、口を開こうとする一夏。

だがその時、ざわざわと廊下の方が騒がしくなった。クラス中の視線が扉の方へと向かう。

 

ウィーンと自動扉が開いたそこには1人の女子生徒が腰に手を当てて立っていた。

 

「一夏!いるんでしょ!2組のクラス代表が挨拶に来てあげたわよ!」

 

小さな背丈とは裏腹に、気の強そうな表情の彼女は、ツインテールにした髪をひらひらと揺らしながらお目当ての人物の姿を探す。

 

「やっぱり……お前、(りん)か?」

 

突然名前を呼ばれ、一瞬驚いた様子の一夏だったが、やはり彼女に見覚えがあったらしい。

 

「そうよ!中国の代表候補生、凰・鈴音(ファン・リンイン)!久しぶりね一夏!」

「久しぶりだなぁっ!帰ってきてたのか?」

 

一夏が覚えていたことが嬉しかったのか、凰さんはニッコリと笑顔を浮かべる。突然のクラス代表の訪問に驚いた周囲がざわざわと騒がしくなっているが、全く気にしていないようだ。

 

「お、おりむー、知り合いなの……?」

「え?あぁ、まぁな。小学校の時の幼馴染みなんだ」

 

クラス全員の気持ちを代弁するように口を開いたのほほんさんに一夏が何でもないことのように答える。

いや、今の返事で2名ほどが物凄く不機嫌な顔になってるのだが、一夏はそれに気づかない。

 

「一夏、あんたもクラス代表になったんでしょ?良かったらこのあと一緒にうぎっ!?」

 

最後まで言い切る前に、彼女の頭にクラス名簿が振り下ろされる。

 

「チャイムはもう鳴ったぞ。早く教室に戻れ」

「ち、千冬さん……」

 

名簿を構えたままじろりと睨む織斑先生に、頭を押さえ、涙目の凰さん。横で一夏が小さく「うへぇ」と呟くのが聞こえた。どうやらあれは食らった人にしか分からない痛みらしい。

 

「織斑先生と呼べ。ほら、早く他の諸君も席につけ。ホームルームを始めるぞ」

「い、一夏っ、また来るからっ!」

 

越えられない壁が織斑先生との間にあるらしく、凰さんは最後にそう言って自分の教室へと走っていった。

 

* * *

 

4時間目の授業の終わりと昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴る。教科担当の先生が出ていった教室では、ガヤガヤとした話し声と、弁当を広げたり、食堂へと席を立つ物音が大きくなる。

 

「秀人ー、食堂行こうぜ」

「い、一夏!ちょっと待て!」

「少しお聞きしたいことがありますわ!」

呼び止められた一夏が振り向くと、セシリアと篠ノ之さんが立っている。

 

「凰さんとはどのようなご関係ですの!?随分仲がよろしいご様子でしたけど!」

「お、幼馴染みと聞こえたが、お前の幼馴染みは私だろっ!?」

「とりあえず落ち着けって、2人とも……」

 

相当な剣幕で詰め寄る2人をまぁまぁと宥める一夏。

「とりあえず食堂行かないか?もしかしたら凰さんも居るかもしれないし」

「そ、そうだな!秀人達にも紹介出来るしな!」

 

一夏は俺の出した助け舟に凄い速さで飛び乗ってきた。そして納得のいっていなさそうな2人に背を向け、そそくさと教室から出ていこうとする。

 

「むぅ……まだお話は終わってませんわ」

「はぐらかしたな……一夏」

「きっと後で話してくれるって」

 

不機嫌そうな2人。他の女子と仲良くしてるだけでこれだけ嫉妬されるのか。俺は一夏の人気っぷりに呆れる反面、少し気の毒に思いながら彼の後を追いかけた。

 

食堂はいつも通り混んでいた。俺達は一足先についただろう一夏の姿を探す。

 

「おーい、秀人。こっちだ」

 

向こうから一夏が手を振りながら歩いてきた。隣には件の凰さんもいる。手に丼の載ったお盆を持っているところを見ると、食事中に一夏に呼ばれたのだろうか。

 

「ちょ、ちょっと一夏?一緒に食べるんじゃないの?」

「えっ?一緒に食べるだろ?秀人達も紹介するからさ」

「はぁ……」

「どうした?」

「何でもないわよっこのバカッ!」

 

一瞬にしてテンションが下がったらしい凰さん。案の定一夏との間に行き違いが生まれていたらしい。なんでこんな鈍感野郎に女の子が寄ってくるのか不思議だ。

 

「じゃあ俺達も昼飯持ってくるから。ちょっと待っててくれるか?」

「……分かったわよ。早くしてよね!このバカ一夏っ!」

 

罵声を浴びせられながら凰さんの元から離れる一夏。

 

「お待たせ、並ぼうぜ」

「……あの方も苦労されてますのね」

「あぁ、こいつのせいでな」

「ど、どうしたんだよ」

凰さんと一夏のやり取りを見て、ある程度2人の関係性が分かったらしいセシリアと篠ノ之さん。凰さんには同情の篭った目を、一夏には絶対零度の視線を向けていた。

 

 

「じゃあ改めて紹介するな。俺の小学校の頃の幼馴染み、鈴だ。転校して中国に行ってたんだけど、IS学園に入学するのを機にこっちに戻ってきたらしい」

 

テーブルに全員がつくのを待ち、一夏が隣に座る凰さんを紹介してくれた。

 

「凰鈴音よ。よろしく」

 

彼女は短くそう言うと、特にそれ以上何もすることなく視線を逸らす。どうやら俺達にそれほど興味がないらしい。そんな凰さんに一夏は俺やセシリア、篠ノ之さんのことを紹介していった。

 

「凰さん、でいいかしら。代表候補生同士仲良くしてくださいな」

「あー、うん。よろしく」

「なっ……」

 

礼儀正しくお辞儀をするセシリア。だが、凰さんは興味無さそうに目を合わすことなく返事をする。

 

「それより……あなたも一夏の幼馴染みなの?」

「そ、そうだ。私が4年生で転校するまで一緒に剣道をやっていた」

「ふーん。ま、どうでもいいけど」

「どうでもいい、だと……?」

 

またしても無愛想かつ無遠慮な言い方に、篠ノ之さんもイラッときたらしい。眉間にシワをよせ、嫌悪感を露わにしている。

 

「ねぇ、そんなことより一夏。アンタもクラス代表になったんでしょ?良かったら一緒に練習しない?」

「え?でももう箒とセシリアが……」

 

戸惑った様子の一夏を後押しするように、セシリアと篠ノ之さんが大きく頷く。

 

「あぁ、残念だが……一夏は私と一緒に鍛えることになっている!」

「わ、私もですわ!それに、闘う相手の2組の方と一緒に練習なんて出来るはずありませんわ!」

「え?関係ないでしょ?クラス代表同士が一緒に練習しちゃいけないなんて決まりもないし。ねぇ、一夏。私の専用機も見せてあげよっか」

 

2人の反論などまるで意に介さずといった態度の凰さん。2人にとる態度とは対照的な人懐っこい笑顔を一夏に向ける。

 

「ま、まぁ1回くらいなら……いいかな」

「やった!じゃあ今日の放課後、待ってるからね!」

 

凰さんは嬉しそうにそう言うと、いつの間にか空になった器を持って立ち上がった。

 

「じゃ、また後でね一夏っ!」

 

そう言ってさっさと食堂から出ていく凰さん。途端にテーブルに残ったセシリアと篠ノ之さんからどす黒いオーラが放出される。

「い、いい一夏さんっ!何ですのあの方はっ!無礼にも程がありますわっ!?」

「一夏!お前は何を考えてあんな奴と仲良くしてるんだっ!?」

「い、いや……前はあんな奴じゃ無かったんだけどな……」

 

顔を真っ赤にして怒る2人を宥めながら、一夏も不思議そうに首を傾げる。

 

「紺野さんもどうされたんですの!?いつもは1つ棘を刺されたら猛毒を返すくらいの方ですのに!」

 

怒りが収まらないのか、セシリアの矛先が今度は俺を向いた。ひどい言い様だ。間違ってはないが。

 

「俺、そもそも話しかけられなかったし……それに見てたら何か可哀想でさ」

「可哀想?鈴がか?」

「どこを見ればそう見えますの?眠ってらしたのですか?」

「いや起きてたから。セシリアが凰さんに相手にされてないところもちゃんと見てたよ」

「ぐっ……」

 

八つ当たりのように衝突してくるセシリアにお望み通りの毒を吐き、俺は一夏の方に向き直った。

 

「多分だけど……凰さん、中国で仲いい人あんまり出来なかったんじゃないか?」

「鈴がか?アイツ、全然大人しいタイプじゃないぞ?」

「いや、性格の問題じゃなくてさ。多分、中国で代表候補生になる為に、色んな物を犠牲にしてきたんじゃないかな?何か見ててそんな気がしたよ」

 

セシリアが何かに気づいたようにハッとした表情を浮かべる。国家こそ違えど同じ代表候補生として、凰さんの苦労が想像できたらしい。

 

「鈴のヤツ……そうだったのかな」

 

一夏がポツリと呟く。

 

自分が傷つかない為に、人1倍刺々しい棘を周囲に張り巡らせ、人を傷つける。まるでハリネズミのようだ。それが凰鈴音という女の子から受けた印象だ。

 

「全部俺の勝手な想像だけどさ。もしかしたら本当に性格最悪なだけかもしれないし。だけどさ、一夏。多分お前にしか凰さんは頼れないだろうから、あんまり冷たくしない方がいいぞ」

「そ、そうだな……気ぃつける。ありがとな」

「いや、それにしても俺、凰さんと全く話せなかったわ」

「……一夏さん以外の方に興味がない様子でしたからね」

「一夏しか見えていないようだったな」

一旦はシーンと静かになったテーブルも、食事を終える頃にはいつもの和やかな雰囲気が戻っていた。

 

 

「そろそろ教室戻るか、一夏」

「あ、わるい。ちょっとトイレ行ってくるわ。先に戻っといてくれ」

 

そう言ってトイレへと向かった一夏を置いて、俺達は教室へと戻る。途中、篠ノ之さんも剣道部の部室に用事があるらしく、俺とセシリアの2人になった。

 

「……紺野さんって意外と他の方のこと見ていらっしゃるのですね」

 

隣を歩くセシリアが、ボソッと独り言のように口を開く。

「そうか?」

「えぇ、初めてあった凰さんのこともあそこまで想像出来るなんて……優しいんですのね」

「初対面の人には基本優しいよ、俺」

「私に酷いことを仰られたのは確か初対面の時だった気がするのですが……」

「そうだっけ?そもそも酷いことなんて言ったっけ?」

「……貴方の性格こそ1番厄介な気がしますわ……」

ため息をつきながら呆れたように言うセシリアに、俺はハハハと満面の笑みを浮かべ、笑い返してやった。

 

 




お読み下さり、ありがとうございます!シャルロット再登場までの目処が立ちました。多分40話くらいまでには出します。

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