IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい   作:砂糖の塊

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3話

 

IS。インフィニット・ストラトスと呼ばれるパワードスーツが世間に発表されてから、早くも3年が過ぎた。結局あの夥しい数のミサイルを撃ち落とした『白騎士』の操縦者は分からないままらしい。だが、あの事件が良くも悪くもISの存在を世界中に知らしめるきっかけになったのは間違いなかった。

 

あの後すぐに各国の会議の場が開かれ、ISの使用、開発を強く制限する通称『アラスカ条約』が締結された。IS開発者である篠ノ之束博士を擁する日本も国際社会の強い要請を受け、その条約に批准することとなった。だが、国防の手段が今までの兵器からISに移り変わったことは誰の目にも明白であり、日本はISを保有することによって、核保有国以上の抑止力を持つ、世界トップクラスの軍事大国となった。

 

それは、思った以上に俺達の生活を根底から揺るがすものだったらしい。

 

まず、技術分野において。ISの絶対数こそは開発の鍵を握る篠ノ之博士の失踪によって、全世界で467機と大きく制限されてしまったが、副次的な装備やシステムに於いて多大な技術革新がなされており、俺達の生活に転用された技術のおかげで各分野において大きな進歩が見られている。例えば、液晶技術やディスプレイなんかは前世の世界に比べ、20年は先に進んでいるんじゃないかと思う。それぐらい篠ノ之博士の功績は偉大なものだった。ただ、失踪したせいで国内の評価はそこまで高くないのだが……。

 

次に社会構造について。ISが女性にしか動かせないものであると判明した結果、国防において、女性が主戦力となった。男性が殆どを占めていた自衛隊の中にもIS専用の部隊が創設され、女性の階級の方が高いなんてザラになってしまったらしい。それどころか基地司令部や幕僚の一部を除いて、殆どの要職を女性が占めるようになってしまった。いつか女性が国防の全てを担う日もそう遠くない、と感じてしまうほどである。

それによって起こっている問題が、行き過ぎた女性優遇社会だ。戦前、戦後の世界においてあった男性が女性より上の立場にあり、男性中心に回っていた社会は今や完全に逆転され、俺達男は若干肩身の狭い生活をおくらざるを得なくなっている。反論したいのは山々だが、ISの存在によって今や女性の方が喧嘩も強くなってしまったのだ。男と女に分かれて戦えばどちらが負けるかなんて火を見るより明らかだろう。

 

この世界は『女尊男卑』と呼ばれる時代を今迎えようとしていた。

 

「はぁ……」

「どうした?風邪か?」

「いや、ちょっと考え事してただけだよ」

 

さて、俺は今父さんに連れられて、紺野重工業の製造工場を訪れている。最近、ウチで製造しているのはISの消耗部品、主に駆動部のモーターなどである。

本来であれば、社長の一人息子とは言えまだ中学1年生の俺がここに居るのはおかしいのだが、ある理由があった。

 

* * *

3年前のあの日、テレビで『白騎士』を見たあの日である。あの晩、父さんは渋い顔をしながら焼酎を体格に合わないくらいチビチビと飲んでいた。

 

「あなた、大丈夫?」

「あぁ……」

 

心配して声を掛ける母さんに気のない返事を返す父さん。そんな父さんの様子にピンときた俺は口を開いた。

 

「……あのISのことだよね?」

「……そうだ。アレが天下を取る日はそう遠くない……そうなれば紺野重工はもう終わりかもなぁ……」

 

珍しく弱音を吐く父さん。いや、あれだけの性能を見た上で、ISがどれだけ価値のあるものかを理解したのだからむしろ有能なのだろう。だが、負けるわけには行かないのだ。俺達にも生活があり、紺野重工が雇う従業員とその家族にも守るべき生活がある。それに……行き過ぎた女尊男卑に俺自身いい加減腹が立っていた。

 

「……提案があるんだけど」

「なんだ?」

「重工業部門の中に新たに情報部を作ったら?ISに関する技術データとか部品の情報を集めるんだよ」

「それは紺野でもあのロボットを造るってことか?それはちと厳しいんじゃねぇか?」

 

突然こむずかしいことを言い始めた我が子を父さんが訝しげに見つめる。俺は首を横に振って、話を続ける。

 

「違うよ、多分あのISは篠ノ之博士にしか造れない技術が使われてると思う。だけど複製できるパーツもあると思うんだ。例えば消耗部品とか。大量生産に関しては完全に紺野の独壇場なんだから、早いうちにIS関連部品のシェアを取っておいた方がいいんじゃないかと思って」

「「……」」

 

夕方のうちに考えていたことをペラペラと話す。だが、自慢げに話し終えると同時に聞こえるはずだった歓声が聞こえない。父さんの方を見ると、パクパクと池の鯉のように口を開閉させながら母さんと顔を見合わせていた。

 

「……秀人……あなた、それ自分で考えたの……?」

「……う、うん、そうだけど」

「……キャー!!」

 

突然母さんが黄色い歓声を上げ、俺に抱きついてくる。何だよ!急に!?俺の案はどうなるの!?

 

「秀人、やっぱり貴方凄く賢いわね!私達から生まれたとは思えないわ!」

「ちょ!?母さん」

 

思い切り胸を押し付けてながら頭を撫で回してくる母さん。

 

「秀人ぉ……」

「な、何?」

「お前、明日から学校終わってからでいいから会社にも顔出せぇ」

 

俯いてブルブルと震えていた父さんだったが突然ガバッとはね起きると、俺の手を握りしめてきた。

 

「秀人、お前の言う通りだ。俺は社長だ。諦めちゃいけねぇ、どうしてでも生き残って家族と社員を守らなきゃならねぇんだ。その為ならネジでもバネでもなんでも造ってやるぅ!」

「う、うん」

「よぉし、明日から会社来て、お前も指示出せぇ!部下を何人かあててやるから」

「う、ぇ……?」

「ダメかぁ?」

 

俺の手をすっぽりと握りながら熱く話す父さんに俺は思わず首を縦に振ってしまった。

 

* * *

 

「秀人さん、例のデータ収集が一息つきそうです」

 

父さんと一緒に工場を見て回っていると、1人のひょろっとした若い男性社員が近づいて、ぼそぼそと耳打ちをしてきた。一緒にホッチキスで留められた紙束を俺に手渡してくる。

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

いかにも優しそうな雰囲気の彼にお礼を言うと、綺麗に90度腰を曲げたお辞儀をして立ち去っていった。いや、俺の方がずっと年下なんだからタメ口で良いのに……。そう思ったが、ふと隣に父さんがいた事を思い出した。そりゃ社長がいる横でその息子に馴れ馴れしくは出来ないよな。申し訳ない……。

 

「例のデータってなんだ?」

「あぁ、ちょっとデュノア社について調べて貰ってたんだ」

「デュノア……フランスのIS大手かぁ……流石に業務提携は相談しろよ」

 

流石に中学生の判断でそこまで決めねーよ!俺は内心ツッコミを入れつつ、慌てて手を横に振る。

 

「違うよ、調べてもらってたのはデュノア社の社長の家族関係だよ」

 

そう答えながら俺はペラペラと受け取った報告書を捲る。……あった。数枚捲ったページに探していた人物の顔写真がプリントされていた。俺と同い年の彼女……シャルロット・デュノア。これから彼女が俺の、いや俺達紺野重工業にとって重要な存在になるだろう。

 

「父さん、突然で悪いんだけど。フランスに留学してきていいかな」

「あぁ?お前、まだ中1だろぉ?」

「フランス語は話せるし、森本さんにも着いてきてもらうから」

 

ちなみに森本さんというのは、さっき俺に報告書を渡してくれた優しそうな青年社員のことだ。

 

「……何ヶ月だ?」

「うーん、1ヶ月もあれば充分かな」

「……秀人、お前何しに行くんだぁ?」

 

思ったより短かったのか、父さんが拍子抜けしたような声を上げる。確かに1ヶ月では語学留学にしろ何を学ぶにしろ短すぎるだろう。だけど、安心して欲しい。決して遊びに行くわけじゃないから。

 

「将来のコネを作ってくるよ」

 

俺は呆れたような表情の父さんにニッコリと笑い返した。

 

 




次回、シャルロット出します。微エロはそのうち。エロは気長に待っててください

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