IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい 作:砂糖の塊
「では、これよりISの基本的な飛行操縦動作の実践をしてもらう」
アリーナの中に織斑先生の凛とした声が響く。いつも着ているスーツから白いジャージに着替えたせいもあり、改めて織斑先生が世界的アスリートであったことが思い出される。
そんな先生の前にはISスーツに身を包んだ生徒達が綺麗に整列していた。皆、初めてのIS操縦を前にして、真剣さの中に少しの不安が混じったような表情を浮かべている。
俺?俺は紺野重工の研究所で何回も乗ったことがあるし、ついこの間模擬戦もしたばかりなのでISに乗ること自体への緊張感はない。
ただ、他の生徒に比べて操縦が格段に下手くそなことは分かりきっているので、それに対する鬱々とした気持ちはあるが。
「織斑、オルコット、試しに飛んでみろ」
「えっ、俺?」
突然の指名に、驚いて顔を上げる一夏。ちなみになぜ俯いていたかと言うと、周りの女子達が皆、ボディーラインの浮き出るようなピッチリしたISスーツを着ているせいだ。確かに目のやり場に困る。視線を前に向けているだけで変態扱いされかねない。
「わかりました」
先にセシリアが返答をして、隊列から少し離れる。そして、軽く目をつぶり意識を集中させると、耳に着けられた青いイヤリングが光を発する。
そのイヤリングこそ、セシリアの持つ専用機、ブルーティアーズの待機形態である。兵装を量子化して拡張領域に収納できるのと同じように、IS本体も量子化し、待機形態から呼び出すことができるのだ。
つまりパイロットの身体一つあればどこでも瞬時に強力な兵器の展開が可能になる。その運用の軽快さがISが世界各国の主力兵器として採用される理由の一つだと思う。
話を戻そう。
ものの5秒と掛からずに、ブルーティアーズを展開させたセシリアがそこに立っていた。
「おぉ……」というため息ににた歓声が生徒達から起こる。確かに当たり前のようにISを展開させるセシリアの動きは洗練されていて、無駄が無かった。太陽の光を反射し、蒼く輝くブルーティアーズに身を包んだ彼女からは美しささえ感じられた。
「織斑も早く展開しろ」
「えっと……」
「どうした、熟練した操縦者なら展開まで1秒と掛からないぞ」
まごつく一夏に織斑先生の檄が飛ぶ。一夏はチラっとセシリアの方に視線を向けたあと、右手につけた
そして
「来い!白式っ!!」
勢い付いた一夏の声に反応した
「出来た……」
ホッとしたような表情で腕部装甲を見つめる一夏。
「よし……飛べっ!」
「はいっ!」
織斑先生の声と共に、ブルーティアーズが空へと舞い上がる。
「よし……うわっ!うぉっ!?」
それに続こうと一夏も飛び上がるが、PICに全く慣れていないようで、見てるこっちがヒヤヒヤするような飛び方で、上昇していった。
みるみるうちに上昇していく2機を見て、歓声が上がる。ジェット噴射やプロペラエンジンもなく飛行するISは微かに青い粒子を後方に放ちながら、アリーナの上空を飛び回っていた。
「よしオルコット、急降下と完全停止をやって見せろ」
やがて、織斑先生がヘッドセットを通して指示を出す。上空の2人の声はもはや全く聞こえないが、了解したようだ。
先にブルーティアーズが垂直に近い形で、下降を初めた。自由落下に加え、スラスターによって更に加速させているのか、みるみるうちにその姿が大きくなる。
地面から3mほどの高さで旋回し、脚部スラスターを軽く噴かせたブルーティアーズは難なく地面へと着陸した。
途端に大きくなる歓声と共に、織斑先生も小さく頷く。
一夏もそれに続こうとしたのか、白式を降下させ初めた。みるみるうちに加速し、地面に近づいてくる白式。ブルーティアーズを上回ろうかという速度に生徒達からは息を飲む声が聞こえる。
期待が集まる中、降下してきた白式から一夏の表情が見えた。
その表情は引き攣り、地面を目前にした絶望に染まっていた。
ドォォォォォン!!
そのまま全く減速することなく、地面へ衝突する一夏と白式。大きな音とともに周囲に土埃が立ち込める。
「一夏っ!」
「一夏さんっ!?」
悲鳴が起こり、ブルーティアーズの装甲を解除したセシリアと篠ノ之さんが一夏の方へと走り出す。
土埃の収まったアリーナの中央にはクレーターが出来ていた。その大きさが全く減速されたなかったエネルギーの大きさを物語っている。その中央には目を回した一夏が倒れていた。幸い、怪我はないようだ。白式のシールドが一夏を守ってくれたらしい。
「隕石みたいだったねー……」
のほほんさんが小さく呟くのが聞こえる。凄く的を射た感想だと思った。
隕石が地面に衝突することを着陸と呼ばないように、一夏の操縦も『操縦』と呼ぶにはまだまだ早かったらしい。
「はぁ……」
篠ノ之さんとオルコットさんに介抱される一夏を見てか、織斑先生が額に手を当て大きくため息をついた。
***
昼休み。普通の高校であれば土曜日は休みなのだが、ここIS学園では半日ISの実習訓練がある。だから食堂は平日と何ら変わりない賑わいを見せていた。
「っく、痛ってぇ……」
昼食の載ったお盆を受け取った一夏が痛みに顔を引き攣らせる。先程の衝突のダメージがまだまだ残っているらしい。
「一夏……大丈夫か?」
「一夏さん、よければテーブルまでお持ちいたしょうか?」
一夏の前に並んでいたセシリアと篠ノ之さんが揃って心配そうな顔で振り向く。2人とも一夏が医務室から帰ってきて以来、ずっとこんな感じだ。
「ちょっと痛むだけだから、ありがとな」
一夏はハハハと乾いた笑い声と共にそう言うと、俺の方に振り返った。
「どこで食う?」
「そうだな……セシリアと篠ノ之さんも一緒に食べるだろ?どっか広いとこがいいよな……」
一夏にそう返して、周囲を見渡すとこちらに向かって手を振っている女子の姿が見えた。あのダボっとした制服の袖は……のほほんさんだ。
「こんちゃーん、おりむー、こっち座れるよー」
「ありがとう……って、え……?」
のほほんさんの声に移動してみるが、空いている席が見当たらない。キョトンとしてしまった俺にのほほんさんが慌てて袖をぶんぶんと振った。
「空いてるって意味じゃなくてー、私達がもう行くから座れるよーってこと」
「あぁ、なるほど」
のほほんさんはいつも通り、仲のいいクラスメートと一緒に昼食を摂っていたらしい。テーブルの上に目を向けると、空になった器が並んでいた。
「これからねー、2組の模擬戦を見に行くんだよー」
「へー、2組も決闘するんだ」
チラリと一夏とセシリアの方に目を向けると、2人とも気まずそうに視線を逸らす。
「そう、何でも2組のクラス代表に決まってた子に、転校してきた子が喧嘩売ったんだって」
「転校生?この時期にか?」
のほほんさんの友達の説明に、一夏が口を開く。
確かに入学してまだ1ヶ月も経っていないこの時期に転校してくるというのは、相当な違和感があるのは仕方がないだろう。
「まぁ、色々事情がある人が集まってくる学校だからな」
「それもそうか……どんな奴だろうな」
首をひねりながらも納得したらしい一夏。近いうちに闘うことになるだろう転校生の姿を想像しているらしい。
「まぁ……気が強い子だろうな」
2組の転校生と聞いて大体の想像がついた俺は、ぼんやりと一夏に答えながら席についた。
「それで、これから一夏はどうするんだ?」
「どうするって?」
「練習だよ、ISの。クラス代表戦まであと2週間もないだろ?」
「練習か……そうだなぁ……」
モグモグと口を動かしながら考える一夏。セシリアと篠ノ之さんの動きが一瞬ピタッと止まる。
「……また箒と一緒に練習かな」
「なっ!?わ、私かっ!?」
一夏の突然の指名に狼狽える篠ノ之さん。持っていたお椀をこぼしそうになっている。
「あぁ、駄目か?」
「い、いや……一夏がどうしても、と言うなら別に……鍛えてやらないこともない」
「なら───」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
つっけんどんな口調ながらも嬉しそうに少し口角の上がった篠ノ之さんとは対照的に、セシリアが慌てて口を開く。
「一夏さんっ!ISの訓練ならこの私とするべきですわ!イギリスの代表候補生で専用機持ちの私なら実戦的な訓練が出来ますわ!」
「なっ!?い、一夏の使う武器は刀だ!接近戦なら私の方が教えられる!」
「ふ、2人とも落ち着けって……」
ヒートアップする2人を、一夏が慌てて宥めようとする。だが、一夏を巡る争いを一夏本人が止めようとするのは、火に油を注ぐような物だった。
「一夏!お前が決めろ!」
「そうですわ!私と篠ノ之さん!どちらと一緒に訓練されますの!?」
「いや……えっと……」
一夏が助けを求めるように俺の方を見てくるが、俺は視線を合わすことなく味噌汁を啜る。俺が一緒に訓練してやることもできないし、何より痴話喧嘩に巻き込まれたくない。
「一夏!」
「一夏さん!」
「えっと……」
2人から眼光鋭く睨みつけられた一夏は、ライオンを前にした小鹿のように弱々しく見えた。
結局、クラス代表戦の日まで1日交代で一夏を指導することに決まったらしい。セシリアも篠ノ之さんもお互いを意識し過ぎて、超ハードな特訓になるのは間違いないだろう。
一夏……なんとか生き延びるんだぞ。