IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい 作:砂糖の塊
空腹感に目が覚めると、眩しいほどの光が目に入ってきた。枕元のスマートフォンを見るといつもより大分遅い時刻が表示されていた。
「起きたのか?」
足元の方から聞こえる声に寝起きの顔を向ける。制服姿の一夏は、机に向かい何やら勉強していたようだ。
「爆睡してた……もう飯食ったか?」
「まだ。もうすぐ起こそうと思ってたんだよ」
ポリポリと頭をかくと久しぶりに寝癖がついていた。変な姿勢で寝てたのか。というか変な姿勢でも寝続けられるほど疲れてたのか。
「ちょっと待ってくれ……今用意するから」
「……大分疲れてるみたいだな」
ヨロヨロと立ち上がり、顔を洗いに行く俺を見て一夏が呟く。
「まぁ、昨日寝るの遅かったからな」
「本当に4時間観てたのかよ……」
一夏の心配そうな表情が一転、呆れ顔に変わる。そういえばエロ動画観てたことになってるんだった。こっちはそんな暇もなく夜中まで作業してたんだよ!自分でついた嘘がこんなにも精神を削ってくることになるとは……。
身支度を済ませた俺は、一夏とともに食堂へと向かった。普段より大分遅い時間帯のためか食堂には空席が目立っていた。
カウンターで朝食を受け取り、席を探すと見知った顔があった。大きなテーブルの隅に独りで座り、不機嫌そうな顔で紅茶の入ったティーカップを傾ける彼女。そう、セシリア・オルコットである。
「おう、おはよう」
「全然お早くありませんわ。授業に間に合いますの?」
俺の持つボードに載った手付かずの朝食を見て、セシリアが呆れた声を上げる。
「ちょっと寝坊しちゃってさ」
返事をしながら何も言わずにセシリアの斜め前に腰を下ろす。だが彼女は何も言ってくることはなかった。それにこの間は少人数掛けのテーブルに座ってたのに、今日は大勢で座れるようなテーブルの端に座っているのも少し不自然だった。。
「もしかして待っててくれたのか?」
「ななななにを仰るのですか!?そんなはずありませんわっ!!」
顔を真っ赤にして否定するセシリア。いや、そんな必死にならなくてもいいんじゃない?
「悪い秀人。目の前で味噌汁にハエがダイブしてさぁ」
そこへ、アホなことを言いながら一夏がやってきた。俺の前に座るセシリアに気付き、あからさまにゲッというような表情を浮かべる。
「お、おはようございます!……い、一夏さん」
モジモジと両手をすり合わせながら一夏に尻すぼみの挨拶をする彼女。一夏のせいでその仕草がハエのように見えた気がしたのは内緒だ。
「お、おはよう……」
昨日とは打って変わったような彼女の態度に驚いたのか、ぎこちなく挨拶を返し、俺の隣の席に着こうとする一夏。だが、それを俺は手で制する。
「おい待て、どうして俺の隣に座ろうとしてるんだ?普通は正面に座るだろ?」
「え?でも秀人の正面って……」
そう言いながら視線を動かし、セシリアを見る一夏。俺の目の前に座ろうと思えば必然的に
彼女の横に座ることになるのだ。
「こ、紺野さんっ!?」
セシリアも俺の意図に気づいたのか、慌てて俺の顔を見てくる。どうせもうすぐセカンド幼馴染みやら、ドイツからの転校生やらで一夏の周りが女子で溢れかえることになるんだ。ならせめて今のうちに甘い汁を吸わせてやろう。
「嫌なのか?」
「い、いえ!そういうわけではありませんが……」
「一夏は?」
「オルコットさんが良ければ、俺も別に構わないけど……」
「なら決まりだな」
一夏から半ば強引に朝食の載ったボードを受け取り、目の前に置く。気まずそうにセシリアの隣に腰掛けた一夏だったが、おとなしく朝食をとりはじめた。
「き、昨日はお疲れ様です……お強かったですわ」
「ありがとう。けどオルコットさんの方が強かっただろ」
「オルコットさんだなんて……せ、セシリアと呼んで頂いて結構ですわ」
「え、でも……」
「分かったーセシリアー」
「あ、貴方に言ってませんわ!?私は一夏さんに……!」
はじめはぎこちなく話していた2人だったが、徐々に打ち解け朝食を終える頃には普通に話せるようになっていた。
「そういえばこの間はごめん。つい言い過ぎた」
「わ、わたくしの方こそ……よく日本のことも知らずに勝手なことを言ってしまって……ごめんなさい。紺野さんにも……」
そう言って俺の方を向くセシリア。申し訳なさからか若干俯き具合になり、憂いを帯びた表情になる。くるくると縦ロールのかかった金髪の髪の奥で儚げに揺れる青い瞳。そんな今まで見た事がない彼女の表情は、お淑やかさが出ているせいかとても綺麗だった。
「え?俺とも何か揉めてたっけ?」
そんな彼女の表情にやりにくさを感じた俺はキョトンとした表情を作り、セシリアに向ける。
「わ、忘れましたの!?一夏さんの仰ったことより大分心に刺さりましたのに!」
「そうだっけ?」
「謝罪を取り消します!やっぱり紺野さんとは仲良くしたくありませんわ!」
頬を膨らませながらそっぽを向いたセシリア。だが、その表情はどこか微笑んでいるようにも見えた。
***
一夏にクラス代表の座を譲るという話はセシリアの口から唐突に朝のホームルームで告げられた。いや、原作を知ってる俺からすればいきなりでもなんでもなかったんだけど。
「クラス代表は織斑ということで本当にいいんだな?」
織斑先生が念を押すようにセシリアに尋ねる。ついこの間まで、高すぎるプライドと女尊男卑思考を持っていたセシリアの心がわりに、何かあるのではないかと疑っているのだろう。 クラスの女子達も驚いた表情で、彼女の方を見ているし、前に座る一夏なんて固まったまま動かない。
「はい、代表候補生としてわたくしも少し大人げなかったですし……男性にも悪い方ばかりでないことは理解しましたので」
優雅に、それこそ中世の貴族のような仕草でセシリアはお辞儀をすると席についた。
「……と、というわけで……クラス代表は織斑君に決定しましたー。皆さん拍手ー」
静まり返った教室を何とかしようと、教壇に立っていた山田先生がパチパチと両手を叩く。それに倣うかのように徐々に拍手が増え、最後には教室にいる全員が一夏に向けて称賛の拍手を送っていた。
模擬戦には負けこそしたものの、男性ながら代表候補生相手にあそこまで食い下がった一夏を内心では皆評価していたのだろう。
「一夏、頑張れよ」
「お、おう」
拍手に恐縮した様子の一夏に小声で声を掛けると、何とも頼りなさげな声が一夏から返ってくるのだった。
さて、クラス代表トーナメントまであと2週間。それまでに中国からの代表候補生が転校してきたり、トーナメントに向けた特訓が始まったりと一夏の周りはドタバタと揉めるはず。
その中で俺はやれるだけのことをやるだけだ。目指せ、最小被害最大利益。
約束とか健気に守って待ち続ける女の子って可愛いですよね。セシリアをヒロインに昇格すべきかどうか迷っています。シャルロット一筋にしないとお叱りをいただく気もするので。
次回鈴ちゃん出します。