IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい   作:砂糖の塊

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27話

その晩、俺は寮のベッドの上でノートパソコンと向き合っていた。

パソコン画面には、午前中に行われた模擬戦の映像が流れている。回収したカメラ映像の取り込みがつい先程終わったのだ。

 

定点カメラの前をすごい速さで通過する『ブルー・ティアーズ』。俺と戦ったときと一夏と戦ったときをそれぞれ比べてみると、後者の方が速度も早く、運動にキレがあるのが判った。俺のときは100パーセントの力を出していなかったということか。随分舐められていたらしい。

 

「いつか本気で戦わせてやる……俺以外の誰かとだけどな」

 

俺は画面に映るセシリアに向け、ボソッと呟いた。できれば俺自身はもうあまりISに乗りたくない。モーター機動によるIS操縦がいかに難しく、鈍重なものであるか、今日の模擬戦で充分思い知らされたからだ。これからは開発者としてできるだけ裏方にいたい。

 

「ん?何してるんだ?」

 

丁度一夏がシャワー室から出てきた。肩に掛けたタオルで頭を拭きながら、ノートパソコンの画面を覗こうと近寄ってくる。

 

まだ今の段階で模擬戦の隠し撮りがバレるわけにはいかない。一夏だけならまだいいが、コイツなら織斑先生や他の代表候補生にポロッと漏らしてしまうかもしれないからだ。そうなれば、俺の行動を悉く深読みされ、いらぬ誤解や敵意まで持たれてしまうかもしれない。

 

というわけで誤魔化そう。俺はすぐに再生している動画を模擬戦の映像から切り替えた。

 

 

「何って、普通にエロ動画観てるけど?」

「なっ!?うぉっ!?」

「一夏も一緒に観るか?」

「観ねーよ!……ってかそんなこと堂々とするなよ!?」

 

チラッとノートパソコンを覗き込み、あられもない姿の男女がアンナコトやコンナコトをしているのを確認した一夏が、顔を赤くしながら慌てて俺と距離をとる。なんだこの男子高校生にあるまじきうぶな反応は。

 

「見たことないのか?」

「い、いや、弾……中学の友達なんだけど、そいつの家で見せられたことはある」

「へぇ」

「で、でも正直、そのときはあんまり何やってるかよく判らなかったんだ。弾が拾ってきた奴で画質も悪かったし」

 

なるほど、完全に興味がないというわけではなさそうだ。だが、それを理性がガッチリ押さえつけていると。両親のいない一夏を姉として、教育してきた織斑先生の影響だろうか?

 

「そうか、俺のは4時間くらいの大作で高画質だから安心して観ていいぞ」

「長すぎるだろ!?観ねーよっ!」

 

一夏はそう言うと勝手に部屋の電気を消してベッドに入ってしまった。ベッドとベッドの間の仕切りを引っ張りだし、完全に姿が見えなくなった向こう側から声が聞こえてきた。

 

「音とか聞こえないようにしろよっ」

「あぁ……あと夜中、シャワーとかでゴソゴソするかもしれないけど放っておいてくれ」

「今日に関してはお前より早くシャワー浴びれて良かったよ……」

 

ホッとしたような呆れ返ったような一夏の声が最後に聞こえ、後は静かになった。どうやらあっという間に寝てしまったらしい。なんだかんだ言って、今日の模擬戦が応えたんだろう。

 

さてと。

 

俺は改めてパソコン画面に向き直る。画面右下には10:22と表示されている。大体7時間ほど時差のあるフランスは今3時過ぎ。ということはデュノア社側と面会のある頃にはこっちは夜中か……。

 

それまでに寝ておきたいのはやまやまだが、今日中にセシリアとの模擬戦の映像もある程度分析しておきたい。

 

「今日は完徹(オール)だな……」

 

最悪なことに明日は月曜日。寝ずに授業にでなければならない可能性もある。俺はため息をつきながら、改めて模擬戦の映像ファイルを開くのだった。

 

 

***

 

午前3時過ぎ。生徒はおろか寮監の先生も流石に眠っているであろう時間帯。シンと静まり帰った部屋には、一夏の微かな寝息と俺がキーボードを打つ音だけが聞こえていた。

 

「ふぁあ……眠ぃ……」

 

目を擦りながら呟く。まぶたの重くなった目にウィンドウの灯りは眩しすぎる。

 

傍らにある目薬を落としていると、ピコンという小さな通知音がパソコンに繋いだイヤホンから聞こえてきた。視線を画面に戻すと、新着メールが1件入っている。差出人は森本さん。まだフランスは夜の8時過ぎ。もうデュノア社との面談が終わったんだろうか。少々不思議に思いながらメールを開く。

 

『こんばんは。つい先ほどデュノア社長との面会が終わったのでご報告させていただきます。まずシャルロット・デュノアさんの件についてですが、どうやらデュノア社の開発した専用機の調整が難航しているそうです。その為テストパイロットとしてシャルロットさんも付きっきりになっているとのこと』

 

なんだそれ。俺は思わず声が出そうになった。

 

確かシャルロットがデュノア社から受け取る専用機は第二世代型IS『ラファール・リヴァイヴ カスタムⅡ』。その名の通り、デュノア社の主力量産機である『ラファール・リヴァイヴ』を改装したものだ。新しい機体を開発するならともかく、既存のISの調整がそこまで難航するだろうか?

どうもシャルロットの身柄引き渡しを引き伸ばす為の口実に思えてならない。

 

森本さんには是非そこの所を追及してもらいたい。俺は期待を込め、続きの文面を追った。

 

『それに関してですが、契約期間の延滞に伴い、紺野重工が負う損害に応じた賠償金をデュノア社が支払うことで合意しました。

また、シャルロットさんの専用機の調整も遅くとも5月上旬までに完了もしくは放棄し、身柄を完全に紺野側に引き渡す旨の覚書も交わしました。

 

それともうひとつ。デュノア社側から正式に紺野重工とIS分野で技術提携をしたいと打診がありました。秀人さんが男性操縦者としてIS学園に入学したことが背景にあるそうです。フランス支部では判断できない案件なので、その件に関しては保留ということにしました。

 

報告は以上2点です。できるだけ早く連絡を頂けると幸いです』

 

メールを読み終えた俺は、ベッドサイドに置いたスマートフォンを手に取り、森本さんに電話を掛けた。

 

「こちら森本です。……秀人さんですか?」

 

数回のコールの後、森本さんの驚いたような声が聞こえてくる。無理もない、向こうもこちらが夜中の3時過ぎということは知っているのだ。

 

「こんばんは、お疲れ様です。できるだけ早く連絡を、ということだったので電話しました」

「早すぎます。他の部屋の方に聞こえたりしないのですか?」

 

そう言われ、俺は一夏の方に目をやる。相変わらず寝息しか聞こえてこないが、深夜に電話していたことを知られない方がいい。

 

「同室の男子がいるので、こちらからはテキストメッセージに切り替えます」

「怪しまれることは避けてくださいね……了解しました」

 

俺は森本さんに断りをいれ、スマートフォンとノートパソコンを無線で繋ぎ、テキストメッセージソフトを起動させた。これでキーボードで打った文面を森本さんに送信できるようになる。

 

『見えますか?』

「大丈夫です」

 

スマートフォンに繋いだイヤホンからは森本さんの返事が聞こえてくる。これで準備は万端だ。

 

『それでは……まず、シャルロットのIS学園入学のことですが』

「はい、メールでお伝えした通り、専用機の調整の難航が主な理由だそうです。シャルロットさんも毎日のように機体チェックに駆り出されているとのことです」

『なるほど、賠償金のことですが森本さんの方から提案されたんですか?』

「いえ、社長の方から提案がありました。それどころか、結構な金額でシャルロットさんとの契約を買い上げ、紺野重工には代わりのテストパイロットを寄越すという話まで出ました」

『それは……断ってもらえましたよね?』

「勿論、充分な信頼関係を築くまでに時間がかかるという理由で、代替パイロット案は断りました。だから安心していいですよ」

どこかからかうような森本さんの声が聞こえる。俺が個人的な理由でもシャルロットと会いたがっていると思われているらしい。……まぁ外れてないけど。

 

「ゴホン……シャルロットさんの身柄は遅くとも5月には引き渡し、それまでの日数に応じて契約延滞金の支払いということで合意しました」

『……ありがとうございます。それと技術提携の件ですが』

「……デュノア社長の口から突然提携の話が出ました。男性操縦者を抱えることになった紺野重工に対して、IS開発の基本的な技術支援を行ってもいいと」

『随分急ですね』

「どうやらデュノア社の第三世代型ISの開発が上手くいっていないことが原因らしいですね。フランス政府から国家指定企業の解除通告もありえるとのことです」

『それはデュノア社側から聞いた話ですか?』

「いえ、紺野の情報部が調べたものですが」

森本さんの話を聞いて、俺はふむ、とモニターの前で考え込んだ。

どの企業にも言えることだが、新製品の開発には結構な額の費用が投じられる。 ISのような先端科学工業ならそれこそ国が傾くような費用が投入されることもあるのだ。それが上手くいっていないとなると、当然トップの責任になる。

つまり今回の件は、第三世代型ISの開発が難航し、経営不振によるリコールを恐れたデュノア社長の策だと考えられる。男性操縦者である俺(ニセモノだが)を擁する紺野重工とパイプを結ぶことで社長としての実績を作りたいと。

 

確かに紺野重工業にはまだまだISの開発に必要なノウハウは不足しているのは事実であるし、デュノア社という世界的企業と提携することはそれだけで大きなメリットとなる。

 

だが……。

 

『技術提携の件ですが、断ってください』

「いいのですか?」

『紺野は既存の企業とは違う形でIS開発に(たずさ)わります。こちら側の技術を漏らしたくありません。それに』

「それに?」

『デュノア社には提携するほどの信用がありません。少なくとも現社長体制では』

 

電話口から笑い声が漏れる。森本さんが笑っているのだ。それもそうだろう。まだ高校に入ったばかりの俺が、世界的企業を信用できないと断言したのだから。

 

「ははは、自分もそう感じます。今の社長はどうも誠実さに欠けているようです。きっと今回の提携の提案も社長の独断によるものでしょう」

『現社長を解任することは可能ですか?』

「まだ無理ですね。今、情報部で必死になってデュノア社幹部の懐柔とスキャンダル集めを進めています」

『分かりました。そのまま継続して情報収集に当たってください』

「はい、また何かあれば連絡します」

 

俺は通話の終了ボタンを押す。イヤホンからは何も聞こえなくなり、再び夜の静寂が耳に入ってきた。

 

デュノア社長のリコールについては今日昨日思いついたものではない。シャルロットを勧誘しにいった6年前から計画ははじまっている。というか、フランスに情報部を常駐させ続ける1番の理由もデュノア社長をリコールし、新しいデュノア社と契約を結ぶためだ。実の娘を会社の存続の為に犠牲にするような奴と、紺野重工業は肩を並べて歩くわけにはいかないのだ。

 

何はともあれとりあえずシャルロットの問題の区切りはつきそうだ。

 

時計に目をやると、4時半。もうすぐ外が白み始める時間だ。

 

「やっと寝られる……」

 

ノートパソコンを片付けた俺はゴソゴソとベッドに潜り込む。問題がやっと一区切りつきそうな安心感からか、瞼はすぐに落ちてしまった。




2016/07/19 曜日を修正しました。日曜日が2日続くことになりそうだったので。

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