IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい   作:砂糖の塊

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26話

 

 

セシリア・オルコットとの決闘に負けた俺は、ピットに戻ってISの解除作業をしていた。

 

シールドエネルギーが0になり戦闘続行不能になった俺は、ピットまでISを動かすことも出来ない。そのため仰向けに倒れたまま整備科の先生にレッカーしてもらったのだが、非常に恥ずかしかった。それに観客席から注がれるクラスメイト達からの冷ややかな視線も堪えた。

 

 

「はぁ……」

 

何とかノートパソコンでISを解除し終え、自分の足でピットの床を踏みしめた俺は、思わずため息をついた。

 

ISを動かすのはやはり疲れる。自分よりずっと大きなパワードスーツを思い通りに動かさなければならないし、それと並行して兵装で相手を狙ってダメージを与えるという動作も行わなければならない。

 

俺は歩行と攻撃を同時に行うことも出来なかったのに、オルコットは飛行と4基のビットを使った攻撃も行っていた。IS基本機能のPICや兵装の補助システムを使えるのもあるだろうが、やはり努力と経験による差が大きいだろう。改めてセシリア・オルコットが並の努力をしてきていないと思い知らされた結果になってしまった。彼女の実力は認めなければならない。まぁ、嫌いなのは変わりないけど。

 

 

アリーナの方からは大きな歓声が聞こえてくる。多分、俺と入れ違いに出ていった一夏と、彼の操る第三世代型IS『白式』が健闘しているのだろう。この決闘で一夏は初めてISを操縦しているとは思えないほどの粘りを見せ、オルコットをギリギリまで追い詰めるのだ。そして辛くも勝利を収めた彼女から、クラス代表の座と手のひら返しの好意を受けることになる。

 

アリーナから一際大きな歓声が聞こえてくる。おそらく決着がついたのだろう。俺は惜しくも負けて帰ってくるだろう友人を迎える為、ノートパソコンを閉じて、立ち上がった。

 

今日は負けてしまった。だが、いつか勝つその日まで俺は諦めないし、勝つための努力を惜しまない。

努力することをやめれば、『ISを操れる』という才能だけで全てが決まるこの世界を認めてしまう気がするからだ。

 

 

***

 

 

「くっそぉ……あと少しだったんだけどな……」

 

時刻は昼過ぎ。アリーナから寮に戻った俺達は、部屋で身体を休めていた。

 

隣でベッドに寝転がった一夏が何度目になるか分からない台詞をぼやく。

 

「初めてでそれだけ出来たなら十分だろ」

 

俺のこの台詞ももう何度言ったか忘れてしまった。

 

「秀人も初めてだったんだろ?撃ちまくってたの、モニターで観てたよ」

「俺は思い通りにISを動かせないから、ああするしかなかったんだよ」

「それでもシールドは削ってただろ?それに、あれだけ撃ちまくれるのもカッコいいよな……」

 

羨ましそうな声を上げる一夏。はじめはボロ負けした俺を慰めてくれてるのかと思ったが、あることを思い出した。

 

「……あぁ、そうか。『白式』には近接兵装しかついてないのか」

「そうなんだよ……どう戦えっていうんだ……」

 

不満げな表情を浮かべ、枕に顔を埋める一夏。

 

そう、彼の乗る第三世代型IS『白式』には、『雪片弐型(ゆきひらにがた)』という近接戦闘用の刀剣しか装備されていないのだ。

それは本来、数種類の兵装を量子化し収納できる拡張領域の殆どが、『零落白夜』という『白式』だけが発動できる単一仕様能力の為に使われているからである。

 

その『零落白夜』も相手のシールドを破り、直接斬撃が通るという近接戦闘に特化したものであるから、尚更始末に負えない。

 

遠距離攻撃、先制射撃による敵の無力化が最も重視されるこの現代に置いて、刀一本で戦うのは少々時代錯誤が過ぎるのではないだろうか。一対一の模擬戦ならともかく、実戦であれば斬撃の攻撃範囲へ接近するまでに確実に撃ち落とされるだろう。

 

もしかしたら『白式』の開発者は戦国時代から来たのかもしれない。

 

そう思えるほど、近接戦闘しか出来ない『白式』の性能には首を傾げるばかりだ。紺野重工の装備開発が進んだ暁には、『白式』にも射撃兵装を装備してやろう。

 

「悩んでても仕方ない、そろそろ昼食いにいこうぜ」

 

『白式』の活用法に悩む目の前の彼の姿に声を掛けながら、心の中で約束してやるのだった。

 

全寮制であるIS学園の食堂は休日ながらも結構な混雑を見せていた。学食を受け取る列にはちらほらとクラスメイトの姿も見え、俺達が列に加わると声を掛けてきた。

 

「2人ともお疲れー、織斑くんは惜しかったね!私、びっくりしちゃった!」

「ほんと、男の人なのに凄いね!」

「やっぱりISの訓練沢山したの?今度私にも教えてくれないかな?」

やはりというか何というか、ろくに移動もせずに敗北した俺より、男でありながらも代表候補生に善戦した一夏に興味の対象はいくようだった。

 

「えっと……」

 

矢継ぎ早に話しかけられた一夏が困惑したような視線を俺に向けてくる。助けてやりたいのは山々だが、俺にはどうすることもできない。

 

「先、座ってるからな」

「え、ちょ、待ってくれよ!」

 

女子に囲まれる一夏を横目に俺は座れる席を探す。できれば俺と一夏の分の2席分確保したいところだが、結構な混み具合だしな……。

 

そう思い、キョロキョロしていると丁度空きのあるテーブルを見つけた。幸い4人がけのテーブルに1人で座って昼食をとっているらしい。

 

相席を頼もうとした俺の動きが止まる。なぜならテーブルに座っていた生徒の後ろ姿はとても見覚えのある金髪だったからだ。

 

セシリア・オルコット(コイツ)……1人で食べてたのかよ……。

 

俺はお盆を持ったまま考える。他の席が空くのを待つか。できればオルコットと一緒のテーブルを囲みたくない。負けて気まずいから、というのもあるが、何より俺は彼女のことが好きではない。

 

だが、食堂はこの混み具合だ。他に空いてる席を探すとなるとそれも一苦労だし、何より早く食べ終えてアリーナの観客席に仕掛けたカメラ類を回収したい。

 

声を掛けようか迷っていると、

 

「あら……」

 

オルコットの方が俺に気付き、見るからに不快そうな表情を浮かべてきた。

 

「何かご用ですの?」

「いや……一夏と席を探してるんだけど空いてる所が無くて」

「……そうですか」

 

オルコットはしばらく悩んだような様子を見せたあと、食べ終えた自分のトレイをテーブルの端に寄せた。そしてティーカップを持ったまま、フンと顔を背けてしまう。

 

場所を空けてくれるとは……正直意外だ。

 

俺は彼女の斜め前の席に昼食の載ったトレイを置き、席につく。

 

「……ありがとう」

「……貴方の為ではありませんわ。一夏さんが温かい食事を召し上がれないのは可哀想だと思っただけです」

「そうですか……」

 

俺にそっけない返事をしながら、彼女はチラチラと周囲に目をやっていた。

 

「あぁ……一夏か?向こうで女子に囲まれてるよ」

「っ……そ、そうですか」

若干残念そうな表情のオルコット。俺と話す間も視線は一夏を取り囲む人混みに向けられている。

 

もしかしてもう惚れたのか……?まだ決闘から2時間も経ってないぞ?チョロインとか言われてるにしても早過ぎる気がするんだが。

 

「そわそわしなくてももうすぐ来るから」

「べ、別に待ってる理由ではありませんわ!ただ、先ほどの試合での健闘を讃えて差し上げようと……」

「そうか」

 

たどたどしい言い訳に付き合うのは面倒なので、適当に返事をし、俺は昼食に手をつける。

 

そんな俺の様子に拍子抜けしたのか、オルコットは自らを落ち着かせるように少し紅茶を含んだ後、再び嘲るような笑みと共に口を開いた。

 

「それに比べて……貴方は期待はずれも良いところですわ。2人目の男性操縦者と聞いていましたけど、あれで本当に『操縦』していますの?」

「まぁ、自分でも酷かったと思ってるよ」

 

言い返さない俺にたじろぐオルコット。先日言い負かされたことが相当堪えているらしい。

 

「っ……そ、それに攻撃も旧式の実弾に頼ってばかりで、美しくありませんわ」

「そっちだってBT兵器にレーザーライフル、エネルギー兵器に拘りすぎだろ。いくら最新鋭つってもさ」

「そ、それは……」

 

言いよどむオルコット。彼女の乗るIS『ブルー・ティアーズ』の主力兵装は言わずもがなレーザー、ビームを使った所謂エネルギー兵器である。

前の世界では、莫大なエネルギーロスや威力等の問題からSF兵器の域を出なかったが、この世界ではISの出現により、一気に実現化の目処がたっている。

イギリスとしても最新式のISにレーザー兵器を搭載し、それをIS学園で運用することで効率よくデータを取りたいのだろう。

そして、それはオルコットにも伝えられているに違いない。だから目の前の彼女は、兵装の話をされ、ここまでわかり易く動揺しているのだ。

 

「オルコットさんも大変だな……」

「な、何ですの急に!?」

「ふと思っただけだ。家のためか国のためか知らないけど……イギリスの代表候補生になって、知り合いもいない日本にまで来て、それで1人で昼ご飯食べてるんだもんな」

「最後のは余計ですわ!?低俗な文化圏にお住まいの方と食べるより、ひ、1人で食べる方が気楽なだけです!」

 

途中まで黙って聞いていたオルコットだったが、最後のフレーズを慌てて否定する。

 

「ふーん……」

 

顔を赤くして、必死に否定するオルコットを見て、俺は彼女のことが嫌いな理由が分かった気がした。

 

オルコット(コイツ)、俺に似てるんだ。プライドが高くて、カッコつけで、人に頼るのが苦手。俺の中の嫌いな部分が写し取られたようにそのまま彼女の中にもある。ようは同属嫌悪というやつだろう。

 

ようやく理由が分かりすっきりした俺は、なおも顔を赤くして如何に自分が1人が好きかを力説する彼女の方に向き直った。

 

「ま、折角こうやって一緒の学校に通ってるんだしさ、仲良くしてよ」

「……あ、貴方とは余り仲良くしたくありませんわ……」

「安心して。俺もオルコットさんのこと大嫌いだから」

「なっ!?貴方っ!?」

「……それでもさ、時々ご飯でも一緒に食おうよ。一夏も呼ぶから」

 

彼女のことは嫌いだが心底悪い奴という訳ではないことは知っている。 人一倍の努力家だが、人一倍不器用。そんな彼女、セシリア・オルコットは俺の提案にしばらく沈黙したあと、

 

「そ、それなら……仕方ありませんわね……」

 

小さく頷くのだった。

 

ちなみに一夏はそれから30分ほどして、食堂の中に少し空席が目立ち始めた頃にようやく解放された。あれ……これなら別にオルコットに相席頼まなくても良かったんじゃ……。まぁ少しは良いこともあったから、良しとしよう。


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