IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい 作:砂糖の塊
一夏と共にアリーナの中にある待機所へと向かう。本来ならISの点検、動作チェックなどを行う場所である。だが専用機を持っていない俺は昨日のうちに、決闘に使う『打鉄』を待機所に持ってきていた。
「一夏」
女性の声に顔を向けると、篠ノ之さんが壁際に寄りかかって立っていた。どうやら決闘を控えた幼馴染みが心配で待っていたらしい。
「おぉ、箒。どうしたんだ?」
「い、いや……昨日の怪我がどうかと思って……」
鈍感な一夏と、素直でない篠ノ之さん。そんな2人のギクシャクとした会話を他所に俺は、上着を脱いでISスーツ1枚の状態で『打鉄』の起動準備を始める。
エネルギーが完全に充填されていることを確認し、脚部と背中についたスラスターの噴射テストを行う。ここまでは全てノートパソコンから『打鉄』の各所に接続してあるケーブルを使ってチェックをし、命令を出している。ISコアが使えないと、コアネットワークを通したエネルギー残量の確認も出来ないのでとても不便だ。
全ての動作確認を終えた俺はいよいよISに乗り込む。ノートパソコンを手に脚部装甲の上に乗り、腕部を除く装甲を順に装着していく。
プシッ、プシッという空気の抜けるような小さな音とともに装甲が身体にフィットしていく。傍らにパソコンを置き、両腕部装甲を手動でつける。腕部を最後にするのは、他の装甲をパソコンを使って装着することが出来るようにするためだ。いくら高性能マニピュレーター搭載で、細かい動作が可能と言っても細かいキーボードを打つのには向いていない。
ようやく全ての装甲を装着し終わり、ホッと一息ついた俺は、一夏と篠ノ之さんが呆れたようにこちらを見ていることに気がついた。
「えっと……何?」
「……ISの起動ってそんなに時間がかかるものなのか?」
「いや、俺が特別遅いだけだ。何せ男で適性Dだからな、殆ど使えないのと一緒さ」
俺は一夏の質問に答えながら、傍らに置いてある小さなコンテナの中から、銃火器類を取り出す。このコンテナは紺野重工の開発部から昨日届いたものだ。持ち運びを考えて本当はコンテナごと持っていきたいんだが、ISと直接関わりのない物の持ち込みは禁止らしい。
なので、銃火器を束にしてまとめると、腕部モーターを最大限回転させ、銃火器の束を両腕で抱えあげる。
「……大丈夫か?」
「ん?あぁ、やるだけやってみるさ」
「頑張ってくれ……あ」
ふと思い出したように声を上げる一夏。
「なんだ?」
「今更だけどさ……秀人が先に戦うってことでいいのか?」
「あぁ、俺の方が早く終わるだろうし……それに一夏のISはまだ届いてないだろ?」
一夏にはこのあと、専用機である第三世代型IS『白式』が届くことになっているのだ。何せ世界で唯一ISの動かせる男性なのだから、データを取るために専用機を与えられるのは当たり前とも言える。
その点俺は一夏より発見が遅かったとかで、専用機の発注は未だされていない。もしかしたら適性Dの
話を戻そう。
「そういえば俺のISってどうなってるんだ?」
一夏が少し不安げに呟いたところで、天井についたスピーカーからガガッ……とチューニングするような音が聞こえてきた。自然と俺達の意識がスピーカーへ向かう。
『織斑、お前には国から専用機が支給されている。そちらに着くまで待機しろ。紺野、お前が先にオルコットと戦え』
スピーカーから聞こえてきたのは織斑先生の声だった。言われなくても分かってますよ。現に今、出撃しようとしてるだろ。
「一夏、そういうわけだから先に行ってくる」
「お、おう。頑張ってくれ!」
「うん。篠ノ之さんも一夏のことよろしく」
「……分かった」
2人に挨拶を終え、俺はアリーナへと通じる通路に向かって歩き出す。と言っても余りに遅いのはかっこ悪いので、スラスターによる加速を借りながら、開始位置まで移動した。
開始位置となるピットは観客席の一部の床がせり出すようにして出来ていた。天井のないアリーナからは空が見える。既にオルコットが待っていた。青くカラーリングされたISに身を包み、俺の方を睨んでくる。
「レディーを待たせるなんて、日本の男性は本当に失礼ですのね」
「準備に手間取った、申し訳ない」
「てっきり、臆病風に吹かれてお逃げになったのかと思いましたわ」
「まさか」
オルコットの挑発を軽く流しながら、俺は改めて彼女の乗っているISを注視する。
イギリスの第三世代型IS『ブルー・ティアーズ』。先進的な巨大レーザーライフルを主武装とし、独立して攻撃を仕掛けられるビットというビーム兵器を4基搭載。まさにSF世界の兵器と言っていい。
また、それを操るセシリア・オルコット自体もIS適正A、
正面から戦えば勝ち目はない。いや、どう戦っても勝ち目はないのだ。機体スペック、操縦者の熟練度、その他もろもろがまるで違いすぎる。
そうならば俺のやるべきことは自ずと決まってくる。新武装の試験的運用と、データ収集に徹するだけだ。
『この試合のハンデマッチルールとして、セシリア・オルコットは開始1分間相手に攻撃を加えてはいけないものとする』
またもや織斑先生の声がアリーナに響き、設置された巨大モニターにデジタル時計らしきものが設置された。01:00と表示されている。あれがゼロになるまでオルコットは俺に攻撃を加えられないということだろう。
『両者準備はいいか』
PICによって俺に声の届く位置で浮遊を続けていたオルコットが、スラスターを使ってピットまで戻る。俺も両腕に抱えていた銃火器を足元に下ろし、両手にマシンガンを構える。
『それでは用意……はじめっ!!』
アナウンスが言い終わるや否や、マシンガンをオルコットに向けて放つ。ダダダダという大音量と共に、反動がIS越しに伝わってくる。
「どこを狙ってますの?」
全く意に介さずといった感じでスラスターをふかしマシンガンの射線から逃れるオルコット。大丈夫、想定内だ。
俺はマニピュレーターを引鉄を引いたままロック。続いて腕部を引き上げ、飛び回る彼女に合わせ、銃口の向きを変えた。弾丸の描く直線が彼女の動きに合わせ、変化していく。
「そのような攻撃が当たるとお思いですか!?」
まるで蝶のようにアリーナ内を縦横無尽に飛び回りながら、叫ぶオルコット。当たると思ってないし、反応する時間が勿体無いので無視。
あらかじめ距離を測っておいた2本の柱の前を順に通過する彼女。1秒かかっていない……つまり軽く200km/hは出てる計算になる。
両手からほぼ同時にカチッと弾の切れた音が聞こえた。気がつくと足元には大量の薬莢が転がり、銃口からは煙が上がっている。弾切れだ。
俺はマニピュレーターを解除して、サブマシンガンを足元に投げ捨てる。続いて持ち上げたのは、RPGなどに代表される対戦車ロケット砲……それを対IS向きに改良したものだ。それと左手には次のマシンガンを構える。
発射口をオルコットの方に向け、砲身を肩に担ぐ。PICが機能していないので、砲身の重量がダイレクトに肩にくる。重いけど我慢。砲身の中程についたスコープを覗き込み、オルコットまでの距離を測る。
左手のマニピュレーターを再起動させ、再びマシンガンの弾丸が描く直線がオルコットに向かって伸びる。
「同じことを続けるだけなら、猿でもできましてよ!」
馬鹿にしたように叫ぶオルコット。先ほどとは違い、今回は明確な目的を持った射撃だが、それを教えてやるつもりはない。俺はスコープを覗き込んだまま、小声で呟く。
「近接信管用意」
『近接信管換装中……発射準備完了』
耳元で聞こえる機械音声。その合図と共に俺は引鉄を引く。
バシュゥッッ!!
砲身の中に描かれた螺旋に沿って、凄い速さで砲弾が発射される。マシンガンの銃弾をそのまま大きくしたような直線的な攻撃。
だが、同じように避けようとしたオルコットの10mほど手前で突如砲弾が爆散する。
「きゃあっ!?ど、どうしてっ!?」
砲弾の破片によってシールドエネルギーが削られたらしい。オルコットが一瞬狼狽え、大袈裟なまでの回避行動を取る。
……よし。俺は心の中でガッツポーズを取った。今の攻撃が有効だと分かっただけでも大収穫だ。何しろ紺野重工製の砲弾が使われているからな。
信管とは砲弾に取り付ける起爆装置のことだ。信管には大きく分けて時間設定により爆発する『時限信管』と電波照射によって敵の近くで爆発する『近接信管』がある。
本来であれば、砲弾に信管を取り付けるのは発射前にするはずなのだが、俺の使った対ISロケット砲には大きな特長があった。それは砲身に装填した砲弾を電気信号によって『時限信管』か『近接信管』に換装できるのだ。これにより、装填までの時間の節約とより効果の高い信管の選択が可能となる。
俺は発射を終え、モクモクと煙をあげるロケット砲を地面に置き、もう一つある同じ対ISロケット砲を手に取った。冷却期間や装填スピードを考えると、砲身ごと替えたほうが効率がいいのだ。
左手のマシンガンでオルコットの飛行ルートを牽制しながら、右手のロケット砲で狙いを定める。
バシュゥッッ!!
「くっ!うっとうしいですわっ!」
先ほどと同じく近接信管に設定していた砲弾は、回避しようとした彼女のやや遠くで爆発する。直撃こそ与えられないものの、爆風と破片によってシールドは少しずつ削られていく。現に会場のモニターには2割ほど削られたオルコットのシールドエネルギー残量が表示されていた。
よし、もう1発。
そう思い、次のロケット砲を掴もうとしたところで、突如ブザーが鳴った。
もしかしてもう1分経ったのか!?
慌てて、顔を上げようとした瞬間、後方から衝撃が走った。振り向く間もなく、四方から鋭い衝撃が訪れ、ようやく攻撃されていると分かった。
周囲に目をやると、青いビットがぐるぐると高速で俺の周りを飛び回っていた。4基のビットから不規則に発射されるレーザー光線が正確に『打鉄』の装甲に命中していく。
モニターには見る見るうちに減っていく俺のシールドエネルギーが表示されていた。
なんとか反撃しないと……!
衝撃に翻弄されながらも、何とかロケット砲を持ち上げ、オルコットの方に向ける。
だが、勝負は既に決していたらしい。ロケット砲を向けた先にいたオルコットは、巨大なライフルを構え、俺に照準を合わせていた。ブルー・ティアーズに搭載された主力兵装、スターライトMk-IIIの銃口が真っ直ぐ俺に向けられている。
「これで終わりですわ……っ!」
ニヤリと笑みを浮かべ、引鉄を引くオルコット。高速で発射されたレーザーは次の瞬間には『打鉄』のシールドにとどめを刺していた。
シールドエネルギーを使い果たし、絶対防御を発動させた『打鉄』がレーザーの衝撃を受けてゆっくりと後ろに倒れる。
ドスン……。
ピットの固い感触を背中に感じながら、俺は初めて負けたことを実感するのだった。