IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい   作:砂糖の塊

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24話

 

「ハンデはどうする」

 

俺を巻き込んだまま、一夏がふと思い出したような声を上げる。

 

「あら、早速お願いかしら?」

「いや……俺がどのくらいハンデつけたらいいのかな……と」

 

途端に周囲から笑い声が上がる。何事かとキョロキョロと辺りを見回す一夏。

 

「あはは、織斑くんそれ本気で言ってるの?」

「男が女より強かったのってずっと前の話だよ?」

 

そんな女子生徒達の発言に、自慢げに胸を張るオルコット。ISという女性専用の兵器があり

、それが世界中の兵器を凌駕している今、『女は男より強い』というのはもはや常識になってしまっている。

 

「今からでも、ハンデをお付けしてよろしくてよ?」

「男が1度言ったことを変えられるかよ!なぁ、秀人!」

 

オルコットの提案に即答し、俺の方を見てくる一夏。もう俺も決闘に参加するのは決定事項なのか……。

 

絶対に嫌だと断ることも出来るが、そうしてしまえばクラスメイトからの心象が悪くなり、後々のISデータの収集の際などに協力して貰える可能性が低くなってしまうだろう。なにより俺が決闘に応じればイギリスの第三世代型ISの戦闘をより長時間見ることが出来る。

 

ここは受けておいた方がいい。ただし……。

 

「いや、俺はハンデを貰う」

「ひ、秀人?」

「あら、昨日あれだけ大きな口を聞いておいて、よくハンデなんて頼めますわね。プライドはありませんの?」

 

オルコットが鼻で笑いながら、心底軽蔑したような表情を向けてくる。だが、ここで挑発に乗るような馬鹿ではない。

 

俺には『ISに勝てる兵器をつくる』という目標があるのだ。既に多くの人をその目標に向けて巻き込んでいる。俺1人のチンケなプライド如き簡単に切り捨てられなければ、男がISに勝てる日なんてやってこないだろう。

 

「専用機持ちで仮にもイギリスの代表候補生が、専用機もない男と普通に戦うつもりなのか?イギリスでは変わった『正々堂々』があるんだな」

「くっ……いいですわ!お好きなようにハンデを決めなさい。どのような条件でもわたくしが貴方に負けるなんてあり得ませんもの」

 

祖国を馬鹿にされたことで一瞬顔を真っ赤にして憤慨したオルコットだったが、すぐに冷静さを取り戻し挑発するような笑みを浮かべる。

 

「そうだな……じゃあはじめの1分間、そっちは攻撃することが出来ない、ってのは?」

「ふんっ、それで勝てるとお思いですの?」

「いや、思っちゃいないさ。だけどこれで多少勝負にはなるだろ?」

 

もし初めから相手の攻撃を許した状態で戦えば、ISを走らせること自体ままならない俺は文字通り瞬殺されてしまうだろう。それではデータが殆ど取れず、俺が敗北するというデメリットしかないことになる。

 

「ふんっ、すぐに終わらせて現実を思い知らせて差し上げますわ。織斑一夏、貴方にもね」

 

そう言って俺たちに力強い視線を向けるオルコット。その碧眼には男に負けるはずがないとう絶対の自信が宿っていた。

 

その後、決闘は訓練用アリーナを借りられる週末に行うことが織斑先生の口から告げられ、中断していたホームルームが再開した。

 

 

授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると、オルコットは何やら用事があるようで教室から出ていった。

 

「てっきりお前もハンデなんか貰わないと思ってたよ」

 

前に座る一夏がくるりと俺の方に身体を向け、意外そうに聞いてくる。

 

「あぁ……昨日も話したけど、俺のIS適性はDなんだ。適性Aのオルコットと普通にやりあったらまず勝負にならないだろうからな」

「え、アイツってIS適性Aなのか?」

 

そうか、まだこの時点ではオルコットがIS適性Aだと、俺達は知らないはずだった。

 

「……代表候補生に選ばれるくらいだから、Aじゃないかと思っただけだよ」

「なんだ、そうだったのか」

「一夏はハンデ無しで大丈夫なのか?」

「男が1度言ったことを無しにはできないだろ?」

 

当たり前のことのように話す一夏。だが、女尊男卑が進んだこの世界において、今や一夏のように「男だったら〜するべき」と言う奴はそう多くない。なかなかに旧態依然でレアな考え方だと言ってもいいだろう。それを悪いというつもりは全くないが。

 

「それにISのことは全然分からないけど、教えてもらえる心当たりがあるんだ」

「そうなのか?」

「あぁ、秀人も一緒に教えてもらうか?」

「……いや、いい」

俺は首を横に振った。一夏の視線の先には篠ノ之箒の姿があったからだ。

 

一夏が俺とばかり一緒にいるせいで、既に篠ノ之さんの視線を感じ始めている。そんな状況に加え、ISのトレーニングにまで着いていけば、篠ノ之さんからはビームが出そうなほど強い視線を受けることになるだろう。それにトレーニングと言っても篠ノ之さんは剣道しか教えてくれないことは知っているし。

 

「そうか……?お互い頑張ろうな」

 

少し残念そうな表情の一夏は、案の定席を立ち、篠ノ之さんの方へ歩いていった。そして何やら言葉を交わす2人。篠ノ之さんがチラチラと俺を見ながら「……んだ?……紺野とか……奴は?全く男らしくない」とか言っているのは気にしないようにしよう。なんで大事なとこだけハッキリ聞こえてくるんだ。

 

ふと教室を見回すと、大体の生徒が先ほど決まった決闘について話題にしていた。聞き耳を立てたつもりはないが、聞こえてくる声にはどれも、「代表候補生に挑んだ無謀な織斑一夏」と、「敵にハンデをもらった紺野秀人(オレ)」という要素が含まれていた。

 

まぁ、好きに言えばいいさ。いつかは俺が勝つのだから。

さて、決闘の日は週末日曜日。今日を入れてあと4日だ。俺は専用機を持っていないから、恐らく学校の所有する訓練機『打鉄』を使うことになるだろう。

 

そうなると、1人で装着する為に『打鉄』の装甲装着プログラムを紺野の研究室から借りなければならない。それに開発中の武装も取り寄せた方がいい。記録する為の機材も設置しなければならないし……忙しくなりそうだ。

 

***

 

慌しく準備に追われているうちに、あっという間に決闘の日がやってきた。

 

いつも通りの時間に目を覚ますと、珍しいことに一夏は既に起きていた。丁度着替えるところだったらしい。

 

「お、起きたのか?おはよう」

「……おはよう」

 

爽やかな笑顔の一夏に挨拶を返す。いつもなら朝ギリギリまで寝てるくせに……。

 

「痛そうだな、それ」

「……なにかだ?」

 

首を傾げる一夏に俺は無言で彼の腹部を指さす。Tシャツから覗くうっすらと腹筋の割れた彼の腹部には、青痣がいくつも出来ていた。痛々しい内出血の様子から見て、比較的最近ついたものだろう。

 

「あぁ、これか。箒……あ、篠ノ之箒な。俺の幼馴染みなんだけど、剣道やっててさ。久しぶりに扱いてもらったんだよ」

「……ISの訓練は?」

「……そういえばしてないな」

 

ハッとした表情の一夏。

ISのこと何も知らないまま剣道に熱中してしまった。彼はたった今、そのことに気づいたらしい。

 

はっきり言って馬鹿だ。だけど、その愚直なまでに目の前の課題に取り組めるのは凄いことだと思う。きっと、セシリア・オルコットも一夏(コイツ)の愚直さに惚れたのだろう。

 

まぁ、俺には一夏の真似はできない。俺は俺なりにずる賢く、目標に向かってコツコツとやっていくだけだ。

 

 

 

朝食を終えた俺達は、訓練用の第1アリーナへと向かう。決闘する張本人の俺達の他に、パラパラと生徒がアリーナへの道を歩いていた。代表候補生と男のIS操縦者が戦うという噂を聞いて観戦にきたらしい。

 

心配しなくても、記録用のカメラはあらかじめ仕掛けてある。「決闘するアリーナの下見がしたい」と山田先生に頼んだら快く了承してくれた。好きに下見していいと言われたので、遠慮なく観客席の各所に小型の高性能カメラを仕掛けさせてもらった。

 

そのうちのいくつかは撮影した映像が無線でパソコンに送られるものなので、もし見つかって没収されても安全だな。

 

「ねぇ、こんちゃん……大丈夫?」

 

アリーナへと向かう生徒の中にのほほんさんがいた。何故か俺より緊張しているらしく、いつもの間延びした話し方がどこかに行ってしまっている。

 

「まぁ、やるだけやってみるよ。ハンデももらったしね」

 

わざと『ハンデ』という言葉を使ってみてものほほんさんの様子に変化はない。どうやら男女を問わず実力差に応じてハンデをつけることを当たり前だと思ってくれているらしい。俺は少し嬉しくなる。

 

「が、頑張ってね〜……」

「ありがとう。織斑の方も応援してあげてね」

 

俺の様子に少し安心したのか、若干話し方が元に戻ったのほほんさん。彼女に手を振りながら、俺はアリーナのIS待機フロアへと向かうのだった。




次回、主人公の戦闘シーンです。多分あと2、3回しか主人公は闘わないと思いますので、どうかお付き合いください。

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