IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい 作:砂糖の塊
「んぁ……?」
「まぁ!なんですのそのお返事は!?」
突然割って入ってきた声に間抜けな返事をする一夏に、セシリア・オルコットはわざとらしく驚いた表情を浮かべる。
「この私に話しかけられるだけでも光栄だと言うのに!」
「は、はぁ……」
ぱちくりと瞬きをする一夏。状況があまり理解出来ていないらしい。
俺、こういうタイプ嫌いなんだよなぁ……。
そう思いながらも一夏とオルコットの間に割って入る。
「えっと、何かな?」
「貴方……紺野さんと言いましたかしら?貴方に用はありませんわ。こちらの織斑一夏さんが余りにも不勉強なようですので一言ご忠告を、と思いまして」
「ちょっとうっかりしてただけだろ?それ以上、一夏の何を知って『不勉強』なんて決めつけてるんだ?」
「秀人……!」
後ろで一夏が感動したような声で呟く。やめろ、お前に惚れられたくて言ってるわけじゃない。
「あ、貴方……この私が誰だか知った上でお話されてますの……?」
「あぁ……セシリア・オルコットさん。イギリスの代表候補生で、入学試験主席合格した才女だろ?」
「なっ!?お知りでしたらどうしてっ!?」
ペラペラと答える俺に、目に見えて狼狽えるオルコット。
「だけど残念だったな……筆記試験なら俺がトップだ」
「あ、貴方が……?う、嘘に決まってますわ!私はキチンと先生から……」
「それは筆記と実技を合わせた得点だろ?筆記試験満点だったのか?」
出来るだけイラつくような笑顔を心掛け、驚愕の表情を浮かべた彼女を見下ろす。いくら勉強頑張ったって言ってもなぁ。こちとらアラスカ条約締結前からISの勉強始めてるんだよ!
ISにも乗れて、勉強まで俺よりできるなんてたまるかってんだ!!
「そ、それでも貴方は実技は駄目でしたのでしょう?私は唯一試験官の方を倒して……」
「ん?俺も倒したぞ?」
予定通り、一夏が何でもないことのように口を挟んでくる。
「う、嘘……」
「いや、倒したっていうか……何か突っ込んできたから、避けたら壁に突っ込んだまま動かなくなっちゃってさ」
一夏が頬をポリポリとかきながら話す。恐らく男に負けてられない、と試験官の先生が気合を入れすぎた結果だと思うが、それでも彼が試験官を『倒した』ことには変わりないのだ。
「私だけだと聞きましたが……」
「女子ではってオチじゃないのか?」
一夏の返答に完全に言葉を失うオルコット。彼女の中では今、『自分こそNo.1』というアメリカ人的思考が足元から崩れようとしているだろう。イギリス人なのにね。
「な?分かっただろ?入試主席のセシリア・オルコットさ・ん?」
「っっぅ!?覚えてらっしゃい!いつかこの借りは返してみせますわっ!!」
最大限に挑発してやると、彼女は悔しさのあまり目に涙を浮かべながら、教室から出ていった。
「ふっ、雑魚が……」
捨て台詞をはいて逃げていった彼女の背中に笑みをこぼしていると、のほほんさんが見ていることに気づいた。
「の、のほほんさん……これは……えっと」
「こんちゃん今、凄い怖い顔だったよ〜?」
「ははは……そう?」
「こんちゃんって意外と怖いとこもあるんだね〜」
のほほんさんは苦笑いのような表情を浮かべながら自分の席へ戻っていった。遠くから俺の様子を伺っているようで、近づこうとするとビクッと肩を震わせる。
どうやら完全に怖がられてしまったらしい。ははは……セシリア・オルコット……許すまじ。
「ありがとな秀人」
「いや……俺が腹立っただけだから、気にしなくていい」
「お前……いい奴だな」
肩を落として席に戻った俺にお礼を言ってくる一夏。のほほんさんの俺に対する好感度と反比例するかのように一夏の中での俺の株が急上昇したようだ。まるで尊敬する先輩を見つめるようなキラキラした目で俺を見てくる一夏。そういえば原作では、コイツホモ疑惑を掛けられるくらい男との距離が近いんだった。……セシリア・オルコット……マジ許すまじ。
今日の授業はさっきので終わりだったらしく、俺達はパラパラと寮に向かって移動する。
「なぁ、秀人。お前部屋どこなんだ?」
「えっと……1025番だな」
先程渡されたルームキーの数字を読み上げる。あれ、この番号どっかで見た気が……。途端に一夏の顔がパァっと明るくなった。
「なんだ!俺と一緒の部屋かよ。仲良くやろーぜ」
そう言って肩を組んでくる一夏。何度も言うが凄く近い。なんだよ、男と一緒か……。
よくよく考えてみれば当たり前の部屋割りに俺は少し気を落とすのだった。あ、あと原作では一夏と一緒の部屋になる予定だった篠ノ之さん、ごめんなさい。よければ代わってください。
「おおっ、中々豪華だな」
部屋を開け、中を覗き込んだ一夏が感嘆の声を上げる。
「窓際のベッドどっちが使うかジャンケンしようぜ!」
「いや、一夏が使っていい。俺はこっち」
「そ、そうか?悪いな」
テンションの違いに少し恥ずかしくなったのか、顔を紅くしてはにかむ一夏を横目に俺はベッドの上に荷物を広げる。荷物検査場の係員さんの話通り、俺のキャリーケースは部屋に届いていた。
寮生活に備え、いろいろと詰め込んだ荷物の中からお目当ての物を引っ張り出す。付箋やらメモ書きやらで使い込まれたソレを一夏の方に投げてよこす。
「おい、一夏。これ」
「なんだ、これ……あ、必修の参考書か?」
「そう。そこの付箋がついてるページのマーカーがしてある所を優先的に覚えればいい」
「おおっ、マジで!?」
一瞬顔を輝かせる一夏だったが、すぐにその表情が曇る。
「って8割くらい付箋付いてるんだけど……」
「そうだな。さすが必読、覚えることを出来るだけ絞ってまとめてある」
「あんまり変わらないんじゃないか?」
「よく考えてみろ。覚えることが8割でいいってことは睡眠時間が2割増えるんだぞ?」
「そ、それは凄いな!ありがとな秀人!」
途端に喜んで参考書をパラパラとめくる一夏に背を向け、俺はノートパソコンを起動させ、メール送信ソフトを開く。送り先は森本さん、用件は勿論シャルロットの件についてだ。
『入学式に出席せず、どのクラスにも在籍していないらしい。どうなっているか調べてほしい』
といった簡単な内容のメールを送ると、5分程で返信が来た。
『未だにデュノア本社から出てきていないようです。社長に確認のメールを送りますので、しばらく待ってください』
やっぱりシャルロットはまだフランスにいるらしい。何してるんだ……?
疑問に思いつつ、俺は先に風呂に入ることにした。
「先にシャワー浴びていいか?」
シャワールームを覗きながら一夏に尋ねる。洗面所と簡単なシャワー室があるだけの簡単なつくり。トイレは共用らしいが、女子トイレだろ。あと女子には大浴場もあるとか……。これは早々に待遇改善を要求しなければならないようだ。
「あぁ、いいぞ。参考書写してるから」
「あ、あとルールを決めよう」
「ルール?」
「あぁ、シャワー室を使うルールだ」
「綺麗に使うとかか?」
一夏が不思議そうに首を傾げる。純粋無垢に見える彼だが、原作では男だと思っていたとか何とかでシャルロットがシャワーしているところに入っていったというエピソードがある。
俺はれっきとした男なので、『男装していたことがバレる』とかはないが、シャワーくらいゆっくり浴びさせてほしい。
なので鉄のルールを提案することにした。
「あぁそれは当たり前だが、『他の奴が使ってる間は洗面所を含めて使ってはいけない』というルールをつくろう」
「それも当たり前じゃないのか……?」
キョトンとした表情の一夏。当たり前だよ、ただ残念ながら目の前にいるお前はいささかお人好し過ぎるんだ。
「確かに当たり前だ。だが、一夏。例えばの話だが、もしお前が先にシャワーを使ったとする。後で俺が入っている時にふと気づくんだ。『あっ、ボディーソープ切れたんだった』って。その時一夏はどうする?」
「どうするって……ボディーソープの替えを渡しに……」
俺は激しく首を振りながら叫ぶ。
「はいアウトォォッ!いいか、もしボディーソープ切れ、シャンプー切れ、その他トラブルに気づいても絶対入ってくるなよ?」
「ひ、秀人はそれでいいのか?」
「あぁ、俺の手の平からは石鹸の成分が出てくるんだ」
「嘘つけっ!?すぐわかる嘘つくなよっ!それに、俺が困った時はどうしたらいいんだよ!?」
悲痛な叫びを上げる一夏。なぜそんなボディーソープ切れを忘れた前提の話をするんだ。ボディーソープ切れで死にかけたことでもあるのか?
「大丈夫だ。意外と手でこすって水で流しただけでも垢は落ちるらしいから」
「全く大丈夫な要素がなかったんだけど……まぁいいや。分かったよ」
ようやく納得してくれた一夏に、謎の達成感を覚えながら俺はジャージとバスタオルを片手にシャワーへ向かうのだった。もしこれで覗いてきたら、通報しようという決意を胸にして。
はい、セシリア登場回でした。別にセシリアのことが嫌いなわけではありません。そのうち仲良くします。あと、一夏はホモではありません。女の子にそれほど興味がないだけ。