IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい   作:砂糖の塊

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21話

 

のほほんさんに手を引かれ、教室のドアを潜ると一気に視線が俺のもとに集まってくるのを感じた。好奇心半分、「なんでこんな所に男子が」みたいな嘲笑半分といったところか。

 

のほほんさんと離れ、席につく。俺の席は中央列の前から2番目。中々視線が集まりやすい席であるが前を向ける分楽だ。

 

周囲を見渡すと教室の席は既に8割ほどが埋まっていた。それにしても日本人が多い。クラスの殆どが日本人らしい。

 

「なぁ」

 

そんなことを考えていると、突然前の席から声が掛けられた。視線を前に戻すと、前に座っていた奴が身体ごと俺の方に向けていた。黒髪に曇りのないこの少年のような笑顔。

 

織斑一夏(コイツ)が前の席だったのか。

 

「2人目の男の操縦者って君のことか?」

「多分そうだな、『1人目』の織斑一夏君」

「なんだ、俺のこと知ってたのか?」

「そりゃあれだけニュースでやってれば名前くらい覚えるって」

 

実際にはISの存在がニュースになった時点で君の存在は認識してたんだけどね。あと、なぜかのほほんさんの顔が頭に浮かんだ。いや、彼女は違う。きっと家に電波受信環境がないんだ。それこそN○Kも諦めるくらいに。だから男性操縦者の名前くらい知らなくても当然なのだ。

 

「そうか、じゃあ改めて……織斑一夏だ。よろしくな」

「紺野秀人。仲良くしてくれ」

「秀人が見つかってよかったよ、男は俺1人だけになるところだった」

「ははは……織斑と違って適性はDだけどな」

「一夏でいい」

「そ、そうか?」

 

のほほんさんにせよ、織斑……いや、 一夏にせよ、なんなんだこの距離の詰め方は?俺が消極的過ぎるのか?

 

自分の対人能力が思ったより低かったことに内心凹んでいると、教室の扉が開いた。そして眼鏡を掛けた童顔の大人しそうな先生が入ってくる。

 

「皆さん、入学おめでとう。私は副担任の山田真耶です」

 

教壇に登った先生が手をかざすと、黒板前の空間ディスプレイに『山田真耶』とローマ字付きで表示される。……これ、いるかなぁ。教室前のクラス名簿にせよ、この自己紹介にせよ技術の無駄遣い感が凄い。

 

同じことを思ったのか、単に先生の話を真面目に聞いているのか、クラス全体がシーンと静まり返る。

 

「えっ?えっと……み、皆さんは今日からIS学園の生徒です。この学校は全寮制で───」

 

反応の薄さにたじろぎながらも、なんとか説明を始める先生。遠慮がちな反応がいちいち可愛い。それに本人は意図していないんだろうけど、服からはみ出た豊かな胸が童顔とミスマッチしていて、背徳的なエロさを醸し出している。

ここにオッサンがいれば「おい、誘ってるのかこの巨乳ちゃんは?げへへ」みたいなヤジが飛ばされるのは必至だろう。俺?俺はそんなことしない。ただ、先生の説明に集中するフリして至近距離からの眺めを堪能しただけである。

 

じきに先生の説明が終わり、クラスメイトの自己紹介が始まった。皆が順調に自己紹介を終える中、俺は前の席に座る彼のことが心配になる。

 

そういえば、原作では一夏(コイツ)、一言二言しか自己紹介しなかったんだったな。

 

「次、織斑一夏くん。お願いします」

「はい」

 

山田先生に促され、少し緊張した様子の一夏が立ち上がる。無理もない、クラス中からの視線が集中しているのだ。それに男子生徒という物珍しさもあってかその視線は他の女子生徒に向けられるものよりずっと強いものになっている。

 

「織斑一夏です。たまたまIS適性が見つかり、この学校に通うことになりました。よろしくお願いします」

 

パラパラと拍手が起こる。俺も手を叩きながら内心感動していた。おぉ、普通に自己紹介できるじゃないか。なんだ?他に男子生徒がいるから、そこまで緊張しなかったのか?

 

その後これといった盛り上がりもなく自己紹介は終わった。俺?俺も普通にやったよ、まぁクラスからの視線の強さには参ったけど……。一夏はずっとこれを1人で受け止めてたのか。今更ながら彼には敬意を払わなければならないかもしれない。

 

その後、授業が始まるまでは休み時間となった。一夏はポニーテールにした黒髪の可愛い女の子に連れられて、どこかに行った。

彼女が確か、篠ノ之箒さんだ。箒なんて結構アレな名前だと思うけど、彼女の姉はあの篠ノ之博士だ。下手に名前のことを弄ったりすれば、次の瞬間には頭と胴が離れている、なんてこともあるかもしれない。

「こんちゃん、休み時間だよ〜。お話しよ〜」

「あ……ごめん、ちょっと知り合いを探してくる」

「分かった〜、見つけたら私にも紹介してね〜」

 

俺の傍まで来てくれたのほほんさんにそう断って、俺は立ち上がった。IS学園は1学年4クラス編成だ。ということは1組を除いて残りは3クラス。

3クラスもあればどこかにシャルロットはいるだろう。そんな甘い予測のもと、俺は他のクラスを見に、教室を出た。

 

 

結論から言うとシャルロットはどのクラスにもいなかった。クラスの中を覗くだけでなく、未だ表示されていたクラス名簿のディスプレイにも目を通した。だが、シャルロット・デュノア、あるいはシャルロット・リシャールという生徒はどこにも在籍していなかった。

 

これはどういうことだろう。シャルロットはまだフランスにいるってことか?だがIS学園に入学させるのはデュノア社側も認めたはずだ。向こうとしてもISのデータをより多く取るために学園に入学させるメリットは大きいはずだ。何かが起こっているらしい。早急に森本さんに連絡して状況を確かめないと。

 

そこまで考えたところでチャイムが鳴り、俺は足早に教室へと戻った。

 

教室に戻ると、黒髪のスーツを着た怖そうな先生が前に座っていた。山田先生と何やら笑顔

で話しているが、周囲に発する不機嫌そうなオーラが拭えていない。

あれが1組の担任であり、1年の寮長、更には一夏の姉という中々濃い関わりを持ちそうな肩書きを持つ織斑千冬先生である。ちなみにモンド・グロッソというISを使った競技が行われる世界大会で優勝した経験を持ち、この学園最強の称号をも手にしている凄い人だ。

チラッと織斑先生が俺の方を見た気がした。なんだろう。やはり男子生徒は珍しいのだろうか?

 

織斑先生の軽い自己紹介が終わり(女子生徒からの反応は全く軽くなかったが)、いよいよ授業が始まった。

IS学園入学して1番はじめの授業はやはりISに関することだった。国語や数学もあることにはあるが、この学園には『IS』の座学と実技の時間が週のかなりの時間を占めている。土曜日なんか1日『IS』だ。

 

本当にISへの熱意とやる気がなければすぐに音を上げてしまうことになるだろう。

 

だが、そうは言っても今日は初日。授業内容は半分ガイダンスのようなもので、若干入った教科書の内容もIS開発の歴史という極々初歩的なものだった。

 

「えっと、ここまでで誰か質問はありませんか?」

 

ディスプレイを見ながら授業をしていた山田先生が俺達の方を振り返る。

 

おいおい、先生。こんな基礎の基礎で詰まる奴なんて誰もいやしないぜ。的な雰囲気がクラスを包む。

 

そんな中1人の生徒が、具体的に言えば俺の前に座るもう1人の男子生徒が、恐る恐るといった感じで手を上げた。

おい……お前、まさか……。

 

「はい、織斑くん」

「……わかりません」

「えっと……どこがですか?」

「ほとんど全部……分かりません」

 

クラス内が静寂に包まれる。山田先生もぱちくりと瞬きをした後、オロオロとした様子で「えっと、全部ですか?」なんて言っている。

 

「織斑……入学前の参考書は読んだか?」

 

扉の傍に座って控えていた織斑先生が凛とした声と共に立ち上がった。

 

「えっと、あの分厚い奴ですか?」

「そうだ、必読と書かれた参考書だ」

「……電話帳と間違えて捨てましt──あがっ!?」

 

間髪入れずに名簿でどつかれる一夏。名簿によって起こった風が後ろの俺にまで届く。頭を抑えてうずくまる彼の後頭部にはたんこぶが出来ていた。うわぁ、痛そう。

 

「……後で再発行してやるから1週間以内に覚えろ」

「いっ、1週間であの厚さはちょっと……」

「……やれと言っている」

「……はい」

 

織斑先生にギロリと音のしそうな目で睨まれた一夏は青い顔で頷いた。勉強苦手なんだろうな……。

 

授業が終わり先生2人が教室を出ていく。ぐったりと机につっ伏す一夏。表紙にあれだけ大きく『必読』と書かれた参考書を電話帳と間違えて捨てるのはありえないが、間違いは誰にでもあるし、若干同情の余地はある。

 

「おい、一夏」

「ん?なんだ……秀人?」

「よければ俺が───」

 

「ちょっとよろしくて?」

 

一夏に救いの手を差し伸べようとしたところで声を掛けられた。振り向くと、金髪の美少女が立っていた。くるくると縦に巻かれた金髪。さっそくカスタムされたロングスカート。そして自信に満ち溢れた青い瞳。

 

言わずとしれたイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットがそこに立っていた。

 

 


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