IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい 作:砂糖の塊
その年の秋のことだった。先月10歳の誕生日を迎えたばかりの俺は、いつものように小学校まで迎えに来てくれた車に乗り、家へと帰っていた。成金感漂う胴長の車の中で、俺は運転手さんの様子がどこか慌ただしいことに気がついた。
「どうかしたんですか?」
「い、いえ?何もありません」
そう言ってバックミラー越しに微笑む運転手さん。だが、その視線はキョロキョロとせわしなく泳ぎ、額からは汗が滲んでいた。腹でも痛いのかな……。トイレにでも寄ろうかと提案しようと思ったが、ふと運転手さんがさっきからチラチラと空を見上げているような気がした。
「何か飛んでるんですか?」
俺も釣られて窓の外に目をやると、そこには飛行機雲が幾筋も走っていた。いや、ただの飛行機雲ではない。交差していたり、大きく蛇行していたり、それに数が多すぎる。まるで────────ミサイルのようだ。
「これは……?」
「だ、大丈夫です。すぐにお家までお連れしますから……」
運転手さんは焦ったようにそう言うと、アクセルをゆっくりと──だが確実に踏み込んだ。
「ただいま」
「あぁっ!秀人!無事でよかった!」
玄関の扉を開けた途端、母さんに抱きつかれた。力加減を忘れているのか、腕
が首に回されて苦しい……。タンタンとタップして解放を求める。
「あ、ごめんなさい!大丈夫!?」
俺の顔が酸欠の為に真っ赤になっているのに気づいた母さんが慌てて俺から身を離す。
「だ、大丈夫……それより、何があったの……?」
前世の記憶では小さい頃にこんな戦争のような状況に陥ったことは無かった。2度目の世界でだけ起こっていることなのか……?いや、今日に至るまでの大体のことは、前世と同じように起こっている。国際情勢に変化がないとすれば戦争なんていう大事が簡単に起こるはずがない。
「おぉ……秀人。大丈夫だったかぁ」
奥から父さんも出てきた。心なしか顔色が悪い。俺を心配してくれていたのだろうか。それもあるかもしれないが、どうも違うらしい。その証拠に俺の顔を見るとそうそうに再び奥に引っ込んでしまったからだ。
一体何が起こってるんだ。俺はテレビを見るため、靴を脱ぎすてると慌てて父さんの後を追いかけた。
テレビには映画のような光景が写っていた。自衛隊や報道機関のヘリがバラバラと低空を飛ぶ中、遥か高空を凄いスピードで飛んでいく白い物体。ヘリに乗っているらしいカメラマンが必死にその姿を追おうとするが、全く捉えきれていない。そして次々と遠くの方で起こる爆発。距離がある為にイマイチ迫力に掛けるが、間違いなくミサイルが飛んできているらしかった。白い物体が飛行機雲を青空に描きながら飛んでいく中、風船を針で割るかのように飛行機雲の軌跡の近くで連鎖的に爆発が広がっていく。
「凄い……」
姿こそ見えなくても白い物体が俺達を守ってくれているのが判った。俺は思わず声を漏らしてしまう。他に飛行機雲が見えないからもしかしたら1機で戦っているのかもしれない。新型の戦闘機か?それとも無人機か?
少し考える余裕が生まれたせいか、画面の下方の方に表示されているテロップに目が行った。そこにはこう書かれていた。
『巡航ミサイル多数飛来。味方IS1機が迎撃中か』
「…… IS?」
前世でISと言えば中東を拠点とするテロ組織しか知らない。あと週刊誌でやってた恋愛漫画。残念なことにそのどちらも襲い来るミサイルを撃ち落としてくれそうにはない。
「……新開発された有人パワードスーツらしい」
首を捻る俺に、父さんが説明してくれる。そういえばニュースでチラッとそれらしいことを言っていた気がする。食事中はテレビを見ないし、自分の部屋にもテレビを置いていないのでほんとにチラッと聞いただけだったが。
「日本の篠ノ之博士とか言うのが開発したらしくて……何でも女性にしか操縦出来ないそうだぁ」
苦虫を噛み潰したような父さんの声が聞こえるが、俺はそれどころではなかった。IS?篠ノ之博士?女性にしか操縦できない?一つ一つの情報がまるでパズルのように組み合わさり、俺の記憶の中に1つの心当たりが生まれる。
「父さん……もしかしてISの正式名称って……インフィニット」
「あぁ、知ってたのか?そうだぁ、正式名称は────────インフィニット・ストラトス。厄介なことになりそうだなぁ……」
父さんはゴツゴツした指で顎をジョリジョリと撫でながら、独り言のようにそう呟いた。
俺は呆然とテレビを見つめる。迎撃をあらかた終えたらしい白い物体をやっとカメラがズームによって捉えていた。そこには確かに前世、ライトノベルやアニメで見た『白騎士』なんて名前のついた機体が映っていた。
ということは……ここはあの小説の中の世界と言うことなのか……?父さん、どうやらほんとに厄介なことになったみたいだよ……。俺は途方に暮れながら、ズームで映される白く輝くISを何時までも見つめていた。