IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい   作:砂糖の塊

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19話

3月。あるニュースが全世界を激震させた。日本の15歳の男性がISを起動させたのだ。今まで女性にしか動かせないと思われていたIS。それが男性にも動かせると分かり、世界中で男性及び男子を対象とした検査が行われていた。

 

 

「ったく……だるいよな。男にISが動かせるわけねーじゃん」

「まぁそう言うなって。ここで起動させたらモテまくるぞ」

「マジで!?俺もお前も一気にハーレムが作れるってことか?」

 

前に並んでいる高校生の2人組が話しているのが聞こえてきた。いや、こんな狭い範囲で2人もISが動かせる奴が出るとは思えないんだが……。

 

ここは俺の通う私立中学校の体育館。放課後になって運び込まれた2機のISの前にずらっと列ができている。集められたのはこのあたりに住む6歳から25歳までの男性。皆係員の指示に従い、順番にISに手をかざしては少し残念そうに体育館を出ていく。

 

「ったく……受験が終わってからで良かったよな、秀人」

 

後ろに並ぶクラスメートがうんざりという感じで話し掛けてきた。検査に使われるISの数が少なく、それと反対に検査しなければならない男性の数が膨大である為、かれこれ3時間は待たされているのだ。俺も後ろの彼も暇で仕方がなかった。

 

「まぁ、そうだな」

「お前はいいよなー、難関高校の推薦断るくらい余裕だったんだろ?」

「ははは……」

 

まぁ、多分行かないだろうからな。行かないと分かっているのに貴重な推薦枠の1つに居座るのは忍びない。そもそも俺の『受験』はまだ終わっていない。今日俺はこの場でIS学園に入学する切符を獲得するのだ。

 

前にいた2人組の男子高校生が案の定、反応しないISを恨めしく睨みながら体育館から出ていった。ついに俺の番がやってきた。

 

パッドは既に耳の裏に装着してある。係員に促され、ISの前に立つ。日本の国産第二世代型IS『打鉄』。実証実験でやったのと同じ機種だ。大丈夫。意識を集中させて……。

 

ウィィ……ン

 

モーターの作動する音と共に打鉄の腕部装甲が持ち上がった。

 

「えっ!?」

担当していた女性係員が驚きの声を上げる。

 

「うぉっ!?今動いたよな!?」

「2人目の男性操縦者が出たぞ!!」

「アイツ、秀人か!?」

 

体育館は瞬く間に歓声や驚きの叫び声に包まれた。体育館に響くその声を聞きながら、俺はホッとため息をつくのだった。

 

 

俺が1人目の男性操縦者として名乗りを挙げなかったのは大きな理由がある。それは『関心度の高さ』だ。言い換えれば『疑惑の大きさ』と言ってもいい。

3月に世界で初めて男性でISを起動させた男、織斑一夏は発覚後、徹底的に検査を受け、その後正式に認定されたとニュースでやっていた。それもそうだろう。それまで世界中の男が誰1人としてISを動かせなかったのだ。

 

だが、神のいたずらか、『天災』とも呼ばれる兎耳をつけた科学者のいたずらか、織斑一夏は正式にISが動かせるのだ。俺みたいにバグ技を使うことなく、IS適性Bという女性にも劣らない検査結果を出すことが出来る。だからこそ厳しい検査の目にも耐えられたのだろう。

 

だが、俺にはそれが出来ない。1人目として名乗りを上げれば世界の常識を覆す為の過酷な検査が待っている。その過程できっとISコアを反応させているわけではないことがバレてしまうだろう。

 

『前例』が出来てからの一斉検査によって発見された2人目。俺が滑り込むことが出来るのはそれくらいのポジションしかないのだ。

 

 

ともあれ、織斑一夏よりは非常に簡単な検査を終え俺は帰宅することが出来た。2週間以内にIS学園に入学する為の書類が家に届くらしい。IS適性は案の定Dだった。これが女性なら恐らくIS学園の入学許可は下りていないだろう。大切なのは『例えDでも男がISを動かせる』ということなのだ。

 

検査場から家までは政府機関に属しているらしい女の人が送ってくれた。

誘拐を恐れてか、入学までの3週間ほどを政府の用意するホテルに宿泊するよう勧められたが、俺が紺野重工業の家の者であることを伝えるとすんなりと引き下がってくれた。

まぁ、家の場合、下手なテロリストは入ってこれないようなセキュリティは整ってるからな。最終兵器として、筋肉ゴリラ(父さん)もいるし。

 

家に戻った俺は、父さんと母さんに正式にIS学園に入学することが決まったことを告げた。以前からIS関連技術の進捗状況は話していたので2人ともそこまで驚きは無かったらしい。

 

ただ、IS学園が全寮制の学校であることを話すと、途端に母さんが反対しだした。

 

「秀人と何ヶ月も離れて暮らすなんて嫌よ……1ヵ月フランスに行っただけでも危ない目に遭ったのに」

 

大分2年前に俺が死にかけたことがトラウマになっているらしい。それについて言われると俺も何も言い返せなくなってしまう。後日送られてくるらしいIS学園のパンフレットを見て、セキュリティの高さを納得してもらうしかないな……。

 

とりあえず全寮制の話は保留ということにして、俺は自分の部屋へと戻った。カバンをベッドの上にほおり投げ、机の上のデスクトップ型パソコンのスイッチを入れる。もはや習慣となったメール受信欄のチェック。うん、今日もシャルロットからは来ていない。もう気がつけばここ半年は送られていない気がする。

 

シャルロットは現在、デュノア社の保護の元、生活している。だから怪我や病気でメールを送れないという心配はないと思う。

ということは何か他の理由があるのだろう。俺とメールするのが飽きたとかなら、ちょっとショックだけど、別に構わない。

考えられる中で最悪なのは、デュノア社長、或いはデュノア社自体が何らかの形で関与しているということだ。

 

俺はチラッとメニューバーに表示された時刻に目をやった。時刻は夜の9時半を回ったところ。ということはフランスは……昼過ぎか。なら大丈夫だろう。

 

引き出しからヘッドセットを取り出し、頭に装着する。そしてパソコンを操作し、俺はある人物へとテレビ電話を掛けた。

 

数回のコールの後、ラフなTシャツを着た気の良さそうな男性が画面に映る。

 

「はい、こちら紺野重工フランス情報支部、森本です」

「森本さん、お久しぶりです」

「大分身長伸びましたね」

「そうですかね?自分ではあんまり……」

そう、テレビ電話の相手は2年前に一緒にフランスに行った森本さんである。あの1ヶ月の間に現地で彼女を作ったらしい森本さん。それなら、ということでフランス支部への転勤を提案すると喜んで食いついてきた。それ以来、2年間フランスで情報収集や交渉にあたってもらっている。

 

「彼女とはどうですか?」

「あぁ、ジョセフィーヌのことですか?もう毎晩求められて大変ですよ。情熱的でねぇ……」

「あの……俺一応中学生なんですけど」

「あぁ、すみません。忘れてました」

 

森本さんには以前、彼女(ジョセフィーヌさん)の写真を見せてもらったことがある。確かモデルかと思うくらいの美人だった。そんな美人と毎晩……くそっ、うらやまけしからん。

 

俺は画面の向こうの彼にバレないよう舌打ちをして、本題に入ることにした。

 

「今回電話したのはシャルロットのことなんですが」

「あぁ、彼女も毎晩情熱的に……」

「分かりました……森本さんは来週から南極支局長に就任ということで」

「……冗談ですよ。デュノアさんがどうかされましたか?」

低い声で脅してみると森本さんはホールドアップをしてきた。……ったく、心臓に悪い冗談はやめてほしい。

 

「半年ほど前からメールが来ないんですよ」

「それは、恋愛に関するご相談ですか?」

「違います。今、彼女どうしてます?」

「ちょっと待ってくださいね……デュノアさんは私の担当ではないので……」

 

森本さんはそう言いながら、画面の向こうで何やら別のパソコンを弄っているようだった。

 

「……でました。どうやら昨年の11月の頭からデュノア本社で生活しているようですね」

「本社で?シャルロットの母親は?」

「同じ時期に母親も本社の方に呼び寄せたようです。それからはデュノア社の方からの情報規制が厳しく、今は何をしているかは……」

「それでもデュノアの本社にはいるんですよね?」

 

俺の問いに森本さんはこくんと頷く。デュノア社本社に親子を呼び寄せる……そんな大胆なことをすれば本妻にバレてしまうんじゃないのか?うーん……社長の考えていることが分からない。

 

「その他に進展はありますか?」

「そうですね。社長関連のゴシップなら山ほど出てきてます。どうやら相当の遊び人だったようですね」

「そうですか……」

「それとつい先日、デュノア社の幹部の方と会食に行ってきました」

「おぉ、どうでした?」

「ステーキがめちゃくちゃ美味しかったですね、会社のお金だと思うと余計に……っと、ちゃんと交渉はしてきましたから。落ち着いてください」

 

氷のような目で画面を見つめる俺に、慌てて付け足す森本さん。会社の金で美味しいもの食べれて良かったですね。でも、俺その会社社長の息子なんだよね。

 

「……報告を」

「はい……まず、ISに使われている規格統合についてですが、次の重役会で提案してもらえることになりました。試験的に日本のIS学園で使われている分の『ラファール・リヴァイヴ』の起動部品を紺野重工業で取り扱うことになりそうです」

「それは凄いですね」

 

規格統合が勧めば、紺野重工のIS関連の収益が更に伸びることになる。それに、ISでは練習機として『打鉄』の他に『ラファール・リヴァイヴ』も採用しているのだ。紺野重工業のモーターを『ラファール・リヴァイヴ』にも組み込むことができれば、俺が動かせる機体が増えることになる。

 

「技術部が電気信号でISを動かすことに成功したと秀人さんから聞いていたので、IS学園にある分の『ラファール・リヴァイヴ』の規格統合を優先しました」

 

くぅぅ……有能!森本さんは1を聞いて10を知った上で50のことをしてくれる人だ。これだからこの人を首には出来ない。マイナスに振り切れていた森本さんの印象ゲージが今度はプラスへと振り切れる。

 

「それと、デュノア社長ですが、独断による企業経営が災いして余り幹部からの評判は良くないそうです」

「そうですか。これからも情報収集お願いします。あと、シャルロットの方の情報もできる限り……」

「分かりました。デュノアさんの生理周期からパンツの色まで調べあげますね!」

「南極は涼しくていい場所でしょうね」

「じょうだ───」

 

ブツっと森本さんの顔が映る画面が消え、デスクトップ画面に戻る。俺がテレビ電話を切ったのだ。フランス人の彼女が出来てから下ネタが増えた気がする。……彼はフランスで何をやっているんだろうか。

 

さて……。俺はメールソフトを起動させ、シャルロット宛てのメール作成画面を開いた。

 

『久しぶりだなシャルロット。もうすぐIS学園に入学する時期だが、準備は出来てるか?日本に来るに当たって必要なものがあればメールしてくれ。また会えるのを楽しみにしている。

日本の友人 紺野秀人より』

 

「送信っと……」

 

彼女に届くように、と祈るように両手を合わせながら、俺はエンターキーをタップした。

 

 

IS学園入学まであと3週間。これからの毎日に期待したい。


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