IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい   作:砂糖の塊

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17話

 

紺野重工業は日本では有名な防衛関連企業である。戦前から戦車や飛行機などの開発・生産に携わり、戦後の財閥解体に巻き込まれながらも不死鳥のように再興し、今なお日本の機械生産における重要拠点の一つとなっている。

 

そんな紺野重工がIS普及以降、生産しているのが、ISに使われるパーツ。主に関節部、機動部に使われているモーターやスラスターなどである。全世界におけるISコアの個数が467個と限られている為、すぐにIS本体を新規生産するのは難しい。その為、ISに使われているパーツの中でも、比較的消耗の激しいモーターに目をつけ、生産を開始。モーターは戦車などにも使われていた為、信用基盤はあり、瞬く間に国内ISに使われるモーターのうち、紺野重工業が占めるシェアは98パーセントを占めるようになった。

 

ちなみに残りの2パーセントは現在使われていない第一世代のISのパーツであったり、100パーセントを自社開発にこだわった専用機であったりする。

つまり、日本における量産型IS全てに紺野のモーターが使われていると言える。

 

「秀人さん、準備出来ました」

 

白衣を着た男性研究員から声がかかり、俺は椅子から立ち上がった。

 

ここは紺野重工業本社の中にある第5研究室。ISに関する研究開発を行うべく父さんが今から2年ほど前に立ち上げたものだ。

 

フランスでシャルロット・デュノアをテストパイロットとして獲得してから2年。俺は中学3年になった。世間は相変わらず、というかより酷い女尊男卑社会に突入し男性の多くは権力を握った女性の陰に隠れるようにして暮らしている。

 

一刻も早く、ISに勝てるような兵器を造らなければならない。今日はその為の重要な一歩を踏み出す日である。

 

今俺が身につけているのはピチッとした黒いボディスーツ。気密性、断熱性に優れた飛行パワードスーツ専用ボディスーツ……所謂ISスーツというやつだ。

 

それに加え、耳の裏あたりに小さな肌色のパッドを付ける。これひとつで脳波を捉え、電気信号に変換し、微弱な電波を出せるという優れものだ。

 

用意を終えた俺は改めて研究室の中央に置かれた機械の方に向き直る。黒みがかった銀色の光を放つボディ。鎧武者を彷彿とさせる装甲。日本の第二世代型IS、『打鉄(うちがね)』である。父さんのコネを使って防衛省から1週間だけ借りてきたものだ。基本的な解析を済ませ、今日がそのレンタル期限の最終日。

 

「よし……」

 

俺は短く深呼吸をすると、ハシゴを使って打鉄の脚部装甲の上に降り立った。すぐさま数人の作業員が近づいてきて、手作業でアームとレッグのIS装甲を装着してくれる。肩から腰に掛けての装甲は研究員がカタカタとパソコンを弄ると、ウィーンという機械音と共にそれぞれ装着された。

 

「IS起動反応なし。ISコア発光確認出来ず」

 

モニターに目を凝らす研究員が報告していく。……予想通りだ。ISは男には起動出来ない。だが、原作と違うのはここからだ。

 

「分かりました。予定通り脚部、腕部の動作チェックに移ります」

 

周りに待機していた作業員がサッと距離を置く。よし……俺は出来る。ISを前に動かす。それに腕を持ち上げるだけだ。頭の中でそう強くイメージする。

 

ウィィ……ン……

 

するとどうだろう。数瞬遅れてISの右脚が前へと出されたではないか。途端に研究室内にワッと歓声が起こる。

 

「右脚部動作確認。続いて歩行と腕部の確認に移ります」

 

俺はそのまま部屋の中をゆっくりと歩き回り、腕で指定されたダンベルを持ち上げて見せた。研究室の中に割れんばかりの拍手が響く中、俺は心の中でガッツポーズを作る。

 

「やりましたね!秀人さん!」

 

動くのをやめた俺に駆け寄ってきた作業員の1人が声を掛けてきた。

 

「皆さんのおかげです。紺野重工業は技術革新を達成したのです」

 

そう返すと、研究員達は互いに肩を叩きあったりして労をねぎらっていた。俺はIS装甲を外してもらい、モニターを見つめ、渋い表情を浮かべる研究員の元へと向かう。

 

「やはり駄目ですか?」

 

「あっ、秀人さん……はい。モーターとスラスターに反応はあるんですが……拡張領域、ハイパーセンサーなどのIS基本技能は使えそうにありません。唯一ISが起動したと見なされているのか、シールドと絶対防御だけは作動反応がありました」

 

研究員が申し訳なさそうに言うのを俺は手を振って答える。研究員が悪いわけではない。初めから想定していたことなのだ。

 

なぜ、男の俺がISを動かせるのか?それはISに使われている紺野重工製のモーターに秘密がある。IS1機には大小30を超えるモーターが使われている。そのひとつひとつに特定の電波受信によって駆動する仕掛けがついているのだ。そしてその特定の電波は俺の耳の裏についたパッドから流れる仕組みになっている。

 

つまり、IS本体を起動させ、それによって動かすのではなく、モーターという機動部のみを狙い撃ちして全体を動かしているのだ。それはさながら手足に糸のついた操り人形がダンスを踊っているように見せるように。

 

ただし、インタフェースに働きかけている訳ではないので、IS本体についた基本性能はまるで使えない。ハイパーセンサーもイグニッションブーストも、コアネットワークも使えなければ、拡張領域から武器を取り出すことさえ出来ない。

 

だが、それで十分なのである。

 

「本当にこの技術を公開しないのですか?」

 

作業員が声を掛けてくる。心底もったいないといった感じの声だ。

 

「はい。来年の3月までISを動かせる男がいることは秘匿しておきます。その後もこの方式によってISを動かすことは公開しません。なので皆さん、今日のことはくれぐれも内密にお願いします」

「……分かりました」

 

研究室の室長を務めてくれている男性が皆を代表して頷く。つくづく残念といった表情だ。男性の地位向上の為には、今すぐにでもこの技術を世間に向けて公表したいのだろう。

 

だが、それによって得られる男性のメリットは実は極々少ない。電波によってISを動かすこの方法は正攻法とは違う、いわばバグ技のようなものである。

機動部に使われているモーターを遠隔操作しているだけで、あくまでもISを自由に使えるようになったわけではないのだ。その為、これを使えなくするのは容易いだろう。1番簡単な方法は紺野重工業のモーターを外せばいいのだから。

 

「もう少し待っていてください。すぐに篠ノ之博士でさえも驚く開発を皆さんなら達成できますから」

 

俺はそう声を掛けて研究室を後にした。会社の中にある更衣室でISスーツを脱ぎながら、この後のことを考える。

 

とりあえずはこれで俺にもISが動かせるようになった。後は原作通り、受験シーズンに織斑一夏が間違ってISを起動させてしまうのを待つだけだ。その後行われるであろう男性を対象とした一斉検査で俺もISが動かせることが判明するはずだ。何、適性はDでもISを動かせる男であるというだけでIS学園には入学できる。その後は殆ど乗る機会もないだろうしね。

 

着替え終わった俺はポケットからスマートフォンを取り出し、父さんへ電話を掛けた。

 

『はい。紺野です』

『あ、もしもし父さん?俺俺』

『!?か、母さん!つ、つつついにオレオレ詐欺が来よった!これだから俺は携帯なんぞ……』

 

スピーカーから聞こえる野太い叫び声に俺は思わず耳を話した。昔の電話ならまだしもこれだけ音質が向上したこの世界でも俺だって分からないのか……。

 

『父さん……秀人だよ』

『なんだ、驚かせるな』

『……今日、予定通りISが起動出来たからその報告』

『おぉっ!本当かぁ!?まさか本当に入学する気だったとはな……』

 

驚く父さん。

 

『うん。話した通り、IS学園に入ることになりそうだから。あと、この話は誰にも言わないようにね』

『母さんにもか!?』

『母さんにはちゃんと事情話してるから大丈夫。他の人にはバレないようにね。じゃあ』

 

俺はそう言って電話を切った。ほんとつくづく母さんに甘い人である。

 

そういえば……ふと俺はシャルロットのことを思い出した。そういえばここ3ヶ月ほどメールが来ていない。日本に帰ってきたての頃なんて毎日来てたのに……。忙しいのかな?まぁ俺も返す暇ないほど今は忙しいしな。

 

織斑一夏がISを起動させるまであと3ヶ月。それまでにやれることをやらないと。俺は再び研究室に向かって歩き出した。




とりあえずこれで主人公がIS学園に入学することができそうです。次回シャルロット視点で入学するまでのことを少し書いて、本編に入ります。

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