IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい   作:砂糖の塊

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16話

「ふぅ……」

 

フランスから帰国した夜、俺はお手伝いさんに手伝ってもらいながら、縁側に出してもらったソファーに腰掛けていた。風呂上がりの火照った身体に秋の涼しい風が気持ちいい。ここから一望できる日本庭園からはいつの間にか鈴虫やコオロギの鳴き声が聞こえてきていた。

 

たった1ヶ月だが、既に懐かしさすら感じる日本らしい景色を前に、俺は改めて帰ってきたことを実感する。

 

空港には父さんと母さんが迎えに来ていて大変だった。母さんは車椅子に乗った俺の姿を見るやいなや、駆け寄ってきて俺を抱きしめ、その後家に帰る車の中でもずっと俺にしがみつきながら泣いていた。俺が死にかけたことからくる不安と心配で、夜も満足に眠れなかったらしい。随分と迷惑を掛けてしまったようだ。

 

父さんには拳骨を浴びせられた。そして自分の命を大切にしなかったことをこっぴどく叱られた。正直今度は頭蓋骨が骨折したんじゃないかと思うくらい痛かったが、自分が招いた結果なので、この痛みも甘んじて受け止めることにした。

 

「秀人ぉ……隣いいかぁ?」

 

野太い声にふと顔を向けると、浴衣姿の父さんが立っていた。風呂上がりなのか身体からは湯気が立ち上り、手には水の入った大きなジョッキを持っていた。季節感のない格好だ。

 

「う、うん」

「よっこいしょっと……」

 

頷くと、父さんはソファーではなく、直接縁側に腰を下ろした。熱いから床に座る方がいいらしい。そして俺の側で控えてくれていたお手伝いさんに下がるよう声をかけていた。何か大事な話でもするんだろうか?

 

「秀人ぉ……殴って悪かったなぁ。母さんが泣いてる所見てついカッとなっちまった」

「ははは……俺が悪かったから、大丈夫だよ」

「そうかぁ……?……フランスはどうだった?何か得るものはあったのか?」

「う、うん」

 

父さんに聞かれ、俺は今回フランスでやってきたことを話した。シャルロットをテストパイロットとして雇うことにしたことがメインだ。

 

「───で、今回やってきたことは全部かな。デュノア社とは一応顔合わせだけは済ませたって感じ」

「うむ……そうかぁ」

 

俺の話を聞いた父さんは顎に手を当ててなにやら考える素振りを見せた。

 

「そのシャルロット・デュノアって子がお前が助けてやった女の子か?」

「そ、そうだけど……?」

「随分と1ヶ月の間に仲良くなったんだなぁ……顔赤いぞ?」

「そ、そうかな!?そんなことないよ!?」

 

父さんに指摘され、俺は反射的にシャルロットにキスされた頬を押さえる。頬は熱く感じるほど火照っていた。きっと風呂上がりのせいだけではないだろう。

 

「まぁいい……それでいよいよISの開発に入るのか?」

「う、うん。そのつもり。シャルロットがIS学園に入るまで、IS本体のデータは取れないだろうけど……うちの技術もこのままいけば丁度2年後くらいにIS開発に移れるくらいだと思うし」

「そうかぁ……」

 

父さんは小さく頷くと、どこか寂しそうに夜空を見上げた。

 

「これからはやっぱりISが世界の中心になっていくんだなぁ……」

「まぁ、今の時点では画期的な技術だしね」

「戦車にタンカー……俺たちもこの国の安全の為に貢献してたはずなんだけどな」

「……そうだね」

 

父さんの虚しそうな表情の理由はきっとそれだろう。今まで自分達が持っていた日本の防衛を支えているという自負。それがISの出現によって一瞬にして吹き飛ばされてしまったのだ。そして今ではかつての国防を担っていた男性は大きく見下される女尊男卑の世界になってしまっている。

 

だけど……。

 

「……俺はISが最強なんて思わないよ」

「……!だけどなぁ……戦車か戦闘機と戦ってもISが圧勝するだろ?」

 

父さんが言っているのは『白騎士事件』のことだろう。日本に向かう沢山のミサイル全てを1機のISが尽く撃墜したあの事件。実はあの出来事には続きがあった。

瞬く間にレーダーから大量のミサイルが消えたことを受け、日本の核武装をも考えた各国が威力偵察とばかりに戦闘機やイージス艦を送り込んできたのだ。容赦なく投入される各国最新鋭の兵器。だが、『白騎士』はそんなものがどうした、とても言うようにそれらをあっという間に無力化してしまったのだ。

それによってISがこの地球上のあらゆる兵器を凌駕したものであるということが世界中に知れ渡り、各国が国防の中軸をISへと変更するきっかけになったのだが、そのことについては今はいいだろう。

 

「ISが出来てから既に知り合いの防衛関連企業は何社か潰れちまった。分かるか?俺達男にはもう国は守れないつって見捨てられたんだよ」

 

父さんは悔しそうに顔を歪めながら続ける。

 

「紺野は秀人のおかげで何とかやっていけてるが……秀人……!俺は悔しい……!なんで男が女に絶対勝てないんだ!?俺達が今までやってきたことは何だったんだ!?」

 

月に向かって吼えるように父さんは叫んだ。防衛関連企業を経営する者として、国防を担う兵器を造ってきた技術者として、父さんは少なからず責任と自覚を持って生きてきたのだろう。ISは父さんから、いや全国の男性から国防に対する自覚を無くしてしまったのだ。

 

「父さん」

「……なんだ?」

「確かにISは強い。ミサイルなんか簡単に撃ち落とせるし、戦車も戦闘機もISには絶対敵わない」

「……あぁ、そうだ」

「でもそれは今の段階での話でしょ?昔、戦車や戦闘機が世界を蹂躙したように、今はISがその役割を担ってるだけ。……でもずっと最強な訳がない」

 

俺は身体をずらし、父さんの正面を向いた。そうだ。俺はISに負けたくない。性別によって自分の限界なんて決めさせない。だから俺は……。

 

 

「研究、それに新しい技術の開発。父さん達が今までやってきたことをこれからも積み重ねていけば、きっと────俺達はISに勝てるよ」

「秀人……」

父さんの目が真っ直ぐに俺を捉える。そう、それが俺の出したら結論。ISを超える男でも動かせる兵器を俺が造る。人類を2分する戦争の可能性も、戦闘の際の被害の拡大もあるかもしれない。だけど、それはどんな兵器に置いても同じだ。核兵器にしてもISにしても、世界を持つ者と持たざる者に分けてしまっている。俺はそんな世の中をひっくり返したい。

 

 

 

「……お前には俺とは違う世界が見えてるのかもなぁ……」

「そんなことないって。多分父さんと同じ方向を向いてるはずだよ」

「…………ははは 」

 

しばらくの沈黙の後、父さんは突然笑い出した。しんとした夜の庭園に父さんの笑い声が響く。

 

「はは……お前、いつの間にか逞しくなったなぁ……」

「まぁ……1度死にかけたし」

 

それに1度死んで生まれ変わってるし。

 

「分かった、これからもお前を信じて紺野は進もう。……紺野重工業をISに勝たせてくれ」

 

父さんが頭を下げてくる。その肩はとても大きく見えた。見た目の話だけではなく、1万人を越す従業員を雇う企業の社長という意味で。

 

父さんに言われなくてもそのつもりだ。俺は大きく頷いた。

 

「それでこれからどうするんだ?」

「そうだね……」

 

俺は顎に手を当てて考える。ISに勝つには、誰よりもISに近く、詳しくならなければならない。矛盾しているようだが、敵を知らないことには勝つ為の方法も見えてこないのだ。

 

ISのことを学べて、1番最新鋭のISが見れる場所。それはつまり……。

 

 

「父さん、俺はIS学園に行くよ」

「………………本気か?」

 

月夜に照らされ、父さんの呆れたような表情が見えた。


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