IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい   作:砂糖の塊

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15話

 

3日前、俺はある人物宛てにメールを送っていた。相手は世界第3位のIS生産シェアを誇る大企業、フランスデュノア社の社長である。

 

内容は、デュノア社のテストパイロット生を民間から募集し、『厳正な審査』の結果シャルロットを採用しろ、というもの。

また2年後、IS学園に入学できる年齢になるまで彼女と彼女の母親の生活を保障することも要求として書いておいた。

 

突然、差出人の名前もなくいきなり届いたメールにデュノア社長はどんな反応をするのか、内心ヒヤヒヤしていた。だが、そんな俺の心労は良い意味で裏切られ、メールを出した翌日、社長の方からコンタクトを取ってきた。

メールの内容をどこにも漏らさないことを条件に会って話したいとのこと。どうやら流石に元愛人とその間に出来た子どもの名前は覚えていたらしい。

 

怪我が治っていないことに加え、中学生の俺が交渉しにいけば足元を見られてしまうと言うことで、当日は森本さんにいってもらった。

 

話し合いの場にやってきたのが紺野重工業という日本の企業に勤める人間ということでデュノア社長は驚いていたらしいが、ニコニコした笑顔とは裏腹に、ハッキリと物事を伝える彼は、やはり交渉の場でもいい仕事をしてきてくれた。

 

森本さんが持ち帰ってきてくれた話し合いの結果は以下の通りである。

 

まず、シャルロットと彼女の母親の生活を2年間保障し、そのうえでシャルロットに適性があればデュノア社のテストパイロットとして契約すること。

この件に関してはほぼこちらの要求が通った形になる。デュノア社長にも昔の愛人と、その間にできた血の繋がりのある娘が貧しい生活を送っていることに後ろめたさがあったらしい。それにテストパイロットにする条件も『適性があれば』とのことだが、原作でもシャルロットにはAという人並み外れたIS適性があった。まず安心していいだろう。

 

一方こちら側が守る条件としては、

1.紺野重工業もしくはそれに属する人間がデュノア社長とシャルロットとの関係を口外せず、また公表するとしてもそのタイミングはデュノア社側に一任すること。

2.この契約が紺野重工業とデュノア社が業務提携することを意味せず、あくまでもシャルロットが複数の企業と契約している状態であること。

3.フランスにいる間の、シャルロットとその母の居住先についてはデュノア社側に一任すること。

かなり上から目線な契約を結ぶことになってしまった。森本さんは若干申し訳なさそうにしていたが、しょうがないと思う。世界第3位のデュノア社とつい先日やっとISの開発研究を始めた紺野重工業との間にはそれ程の差が開いているのだ。むしろこちらの要求が両方通せただけで、大成功と言っていいだろう。

 

何はともあれこれでシャルロットは安心して2年間、母親とフランスで暮らせるのだ。母と死別したことで、デュノア社に引き取られ、義母から『泥棒猫の娘』なんて言われて引っぱたかれることもないだろう。

 

 

 

『───というわけで、生活の方は安心していい』

 

俺は少し自慢げに胸を張りながら、デュノア社との契約をシャルロットに話した。正確には契約をまとめてきたのは俺じゃなくて森本さんだけど。ま、まぁ俺にもサッカーで言うならアシストくらいはつくんじゃないかな?

 

シャルロットは突然の話に頭がついてこないのか、目をぱちくりさせながら俺の方を見ていた。

 

『どうした、嬉しくないのか?お母さんと一緒に暮らせるんだぞ?まぁ、ISの訓練とか色々制約はあるだろうけどな』

『…………ぅして?』

『ん?』

『……どうしてそんなに……私の為に色々してくれるの……?』

 

シャルロットの目にはいつの間にか涙が溜まっていた。紫色の瞳を潤ませながら真っ直ぐに俺の方を見つめてくる。

 

『えっ?えぇっと……』

 

突然泣き出したシャルロットにギョッとしながら、俺は質問の答えを探す。

『……シャルロットが必要だから、かな?』

『え……えぇっ!?』

『ん?あ、あっ!?いやそういう意味じゃないから!落ち着いて!』

『そ、そそそうだよね!すぅ……はぁ……』

 

意図せず告白のようになってしまい、一瞬で顔を茹で上がらせるシャルロット。俺は慌てて右手を振って誤解をとく。深呼吸をした彼女が落ち着くのを待って、俺は口を開いた。

 

 

『ごほん……紺野重工業はまだまだIS産業に関しては弱い。生まれたての赤ちゃんみたいなものだ。これから色々なことを学んで、経験して大きくなっていかなきゃならない』

『う、うん』

『そのためには優秀なテストパイロットが必要なんだ。誠実で、勤勉で、こちらの要望を100パーセント満たしてくれるような、そんな奴を俺達は探してたんだ』

『それが私……なの?どうして?私、学校もちゃんと行けてないような子だったんだよ?』

『偶然だったんたけどな……デュノア社と社長について色々調べてる時にシャルロットを見て、こう……ビビビッと来たんだ。この子こそ俺達のテストパイロットに相応しいって』

 

フェイクを入れながら、彼女に熱く語りかける。まさか『原作でIS適性Aだった上に、家庭環境その他諸々の事情を鑑みて判断しました』なんて説明出来るわけがない。

 

『ヒデトに……相応しい……』

 

俯いた顔を若干赤くして、うわ言のように呟くシャルロット。大分その気になってくれているようだ。彼女の様子からそう判断した俺はさらに畳み掛ける。

 

『だからシャルロット。改めて紺野重工……俺達に君の力を貸してくれないか?』

 

そう言って彼女の方に手を伸ばす。彼女は少し驚いた表情を浮かべた後、躊躇うことなく両手で手を掴んできた。これで本当に契約成立だ。

 

『私……絶対ヒデトの役に立てるよう頑張るね』

『おう、シャルロットが強くなるまでは俺達が守ってやる。だから────安心して強くなれ』

シャルロットの瞳の中に強い意志が宿ったように見えた俺は、満足げに彼女の声に頷いた。

 

***

 

とうとう日本へと帰る日がやってきた。朝、いつもより早く起きた俺は車椅子に乗って空港へと向かった。まだ右足と左腕の骨折が治っていないからだ。アロハシャツを着た森本さんがゴロゴロと俺の乗った車椅子を押してくれる。

 

『奥様に見せたら気絶されるかもしれませんよ?』

『ははは……』

 

森本さんの台詞に苦笑いを浮かべながら俺達は空港の出国カウンターへと向かう。

 

『ね、ねぇヒデト。次はフランスにいつ来てくれる?』

 

隣を歩くシャルロットが声を掛けてくる。このあと、シャルロットはデュノア社が所有するホテルに居を移すことになっている。新しい生活が待つ不安も会ってか、病院で別れようという俺を遮って、シャルロットは空港までついてきた。

 

『そうだなぁ、帰ってからも色々忙しいだろうからな……』

 

紺野重工業の経営もまだまだ不安定なものだし、俺が高校をどうするかも考えないと行けない。

 

『ま、また会いに来て……ほしいな』

『来れそうだったらな。ま、どっちにしろ2年後にはシャルロットの方が日本に来るだろ?』

『それは……そうだけどさ』

 

少し拗ねたように顔を膨らませるシャルロット。まぁ、彼女を知り合いのいるあの村から引き離して新しい環境に置こうとしているのは俺だ。シャルロットの精神安定という意味で何かした方がいいかもしれない。

 

『そうだ、これやるよ』

『これって……も、貰えないよ!』

 

ふと思いついた俺は、膝の上に載せていたノートパソコンをシャルロットに差し出す。彼女は慌てて手をブンブンと振り、断ろうとしてくる。薄水色のワンピースが彼女の動きに合わせて揺れた。そういえばワンピース好きだなこいつ。

 

『大体のデータはもう移してあるし、俺のメールアドレスが入ってるから。暇な時にでもメールしてくれ』

『……ホントにいいの?』

 

俺のメールアドレスと言ったくらいから、若干物欲しそうにノートパソコンを見つめてくるシャルロット。まぁ確かに結構高価なものだから貰いにくいのはあるだろう。前世の俺だった

らパソコンを人に譲るなんて考えられないような話だ。

 

『あぁ、時差もあるから電話番号教えてもしょうがないだろうし。受け取ってくれるか?』

『う、うん……ありがとう……』

 

そう言うと、ようやくシャルロットはノートパソコンを受け取ってくれた。ISの技術革新によって小型化の進んだノートパソコンを彼女は大事そうに胸に抱える。

 

『それじゃ、そろそろ行きますか』

 

話しているうちにいつの間にか出国カウンターが目の前に来ていた。ここまで押してくれた森本さんに感謝しつつ、俺はシャルロットの方に改めて振り返る。

 

『えぇ……もう行っちゃうの?』

『あんまり時間ないし、ね?森本さん』

『もう少しだけなら大丈夫だと思いますけどね』

 

寂しそうなシャルロットと俺とを交互に見て、ニヤニヤと笑みを浮かべる森本さん。いい大人が何を面白がってるんですか……。

 

『そうですか……シャルロット、しっかり勉強しろよ?』

 

シャルロットと最後に握手をしながら親戚のオッサンのような台詞を吐く中学生(オレ)。彼女も名残惜しそうに俺の手を握ってくる。

 

『わ、分かった……』

『日本語もな、IS学園では共通語だぞ?』

『分かってるよ!それに……デトの国の……とばだし』

『ん?』

『な、なんでもないっ』

 

ボソボソ話すせいで最後なんて言ったか聞こえなかった。しばらく話せなくなるんだから、はっきり話せよ……。

 

『秀人さん、そろそろ……』

『はい。────じゃあな、シャルロット。また────────』

 

────────チュ

 

最後にシャルロットの顔を見ようと首を傾けた瞬間、彼女の柔らかいいい匂いがして、頬に柔らかい物が触れた。シャルロットの紫の瞳がくっつきそうなほど近くに見えた。やがて離れていく彼女の顔と……唇。一秒一秒がまるでスローのように長く感じた。

 

……え?何……?俺、キスされたの……?

 

『しゃ……シャルロットさん……?』

 

頬に残る感触を確かに感じながら、俺は恐る恐る彼女の方を見た。目の前にしゃがむシャルロットの顔は真っ赤だった。恥ずかしさの為か、その大きな瞳はうるうると潤んでいた。

 

そんな彼女がすうっと息を吸い込み、そして口を開いた。

 

「ヒデト!ワタシもスグニホンにいくカラ!だから……ゲンキでね!!」

 

それは日本語だった。片言で、アクセントも変な日本語。それでも俺が教えていた2週間前より格段に進歩した日本語だった。

 

「お、おう」

『ま、またねっ!』

思わず素の日本語で返事をしてしまう俺。恥ずかしさが戻ってきたのか、またすぐにフランス語に戻ってしまったシャルロットは顔を抑えて走り去っていった。

 

そして……後には俺だけが残された。

 

 

「青春ですねぇ……」

「なっ!?」

 

訂正っ!森本さんもいたんだった!

 

楽しそうな声に慌てて振り返るとこれ以上ないほど口角を上げて楽しそうに笑っていた。

ふと周りを見ると何人かが俺の方を見てニヤニヤと笑っていた。くっ、コイツらもさっきの様子を見てたのか!?

 

「最後にご褒美が貰えて、命がけで守った甲斐がありましたね」

「くっ……」

 

楽しそうに俺をからかいながら、出国カウンターの方に歩き出す森本さん。きっとこの時の俺の顔はさっきのシャルロットの顔の赤さといい勝負だっただろう。

 

その後も日本に着くまでの飛行機の中で散々からかわれ、俺は異常に疲れた身体で日本の地を踏むことになるのだった。




これで主人公のフランス出張は終わりです。次回から2、3話ほど書いたあと、本編に入っていきます(予定)

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