IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい   作:砂糖の塊

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14話

 

俺が目を覚ましてから1週間。気が付けば日本に帰る日が明日に迫っている。思わぬアクシデントのせいで、今回片付けるはずだった要件の多くが未だ終わっていない。

 

だからこうして病室のベッドの上でパソコンとタブレット端末を手に俺は休むことなく作業を続けている。左手が使えないことがこんなに不便だったとは思わなかった。

 

何より気になるのはシャルロットの日本語とISについての勉強だ。1週間意識を失っていた+顔が痛々しすぎてシャルロットが気にするからマシになるまで1週間と、計2週間授業をしなかったせいで予定の半分しか終わらなかった。

あ、顔が痛々しすぎるっていうのは怪我のことだから。決して直視できないほどのブサイクという意味ではないことを強調してお伝えしたい。

 

そんなシャルロットだが、ついに今日お見舞いに来てくれることになっている。同じ病院に入院しているらしい彼女の母親の治療が今日で一区切りつくようなので、まずは母親に会った後、俺の方に来てくれるらしい。

 

ちなみに、シャルロットの母親には初期の肺がんが見つかったそうだ。幸い発見が早かったお陰で完治する可能性が高いとのこと。これでシャルロットは母と死別することは無くなりそうだ。やはり、俺の原作知識は間違ってなかったな、うん。

 

 

若干そわそわしながら、シャルロットを待っていると、ガラッと病室のドアが開いた。パソコンで資料を作っていた俺は慌ててドアの方に顔を向ける。

 

「なんだ、森本さんか」

「デュノアさんじゃなくてすみませんね、秀人さん」

 

森本さんが苦笑しながら病室に入ってくる。森本さんに手痛くお説教を受け、そのあと褒められるという典型的な飴とムチを頂いた俺は、以前より森本さんと砕けた会話をするようになっていた。

 

「体調はいかがですか?」

「大分良くなりました。少なくともシャルロットに会えるくらいには」

 

俺は待機モードにしたパソコンの画面に映る自分の顔を改めて見る。まだ絆創膏や湿布が貼ってあるが大分腫れや切り傷は治ってきたと思う。

 

「それは良かった。……明日の帰国のことで相談に来ました」

「あぁ……なるほど」

森本さんに幾つか資料を渡されながら、俺達は明日の帰国までの打ち合わせと、今回フランスで達成した目標の説明を受ける。本来なら俺がしようと思っていたデュノア社に対する働きかけも森本さんがしてくれたり、多大なる迷惑をかけてしまった。つくづく今回の旅で森本さんには頭が上がらなくなってしまったと思う。

 

「なかなかハードスケジュールでしたよ」

「すみません……帰ったらボーナス出しますから」

「期待していいんですかね?」

「そういえば森本さん……あの日、銃撃ってませんでした?」

「撃ってましたね」

ふと気になった質問に、何でもないことのように答える森本さん。

 

「大丈夫だったんですか?」

「あぁ、フランスは銃規制はありますが、完全に違法ではないんですよ。だから警察には正当防衛の範囲だと説明しました。それに技術面なら、ロシアで要人警護をしていたことがありますので外すことはないと思ってました」

「……それはいつ頃の話ですか?」

「大学の頃のバイトです」

 

ケロッとした笑顔で答える森本さん。人生経験豊富すぎるだろ、とか学生のバイトで要人警護って出来るの!?とかツッコミどころは多々あったが、怖いので聞かないことにした。もしかすると森本さんこそ転生者なんじゃないだろうか。

 

『あのぉ……』

 

室温が2、3度一気に下がったような気がしたところで、再び病室のドアが開き、今度こそシャルロットが顔を覗かせた。やばい、タイミングもあるけど、久しぶりに見たせいで……めっちゃ可愛く見える。

 

『ということで、秀人さん。私はこれで失礼しますね。デュノアさん、ごゆっくり』

『あ、あのっ……』

『?なんでしょうか?』

 

足早に病室を出ていこうとする森本さんを慌てて呼び止めるシャルロット。

 

『あの……助けて頂いてありがとうございました!』

 

そう言って頭を下げる彼女に、森本さんは少し驚いた表情を浮かべる。そしていえいえ、とクールに受け流した後、

 

『ロイ・コークス氏の気持ちが少しだけ理解できますね』

 

意味深な言葉を残して森本さんは病室から去っていった。ロイ・コークスってシャルロットの誘拐犯だよね森本さん!?いや、確かにシャルロットは可愛いけど……。

 

病室に2人残された俺達。シャルロットはもじもじと両手を身体の前で合わせたまま、一向に話そうとしない。あれ?お見舞いに来てくれたんだよね。

 

ベッドの上で身動きが取れない分、居心地の悪い俺は、自分の方から何か話すことにした。

 

『お、お母さんの方にはお見舞い行ってきたのか?』

『う、うん!』

『どうだった?』

『元気そうだった。病気なのに、入院する前より体調がいいみたい』

 

シャルロットがそう言って嬉しそうに笑う。久しぶりに見た彼女の笑顔に俺はドキッと心臓が脈を打ったのが分かった。

 

『そ、そうか……『あの』』

『な、何?ヒデト?』

『いや……俺のは大したことじゃないから。シャルロットが話せよ』

『う、うん……』

 

口を開くタイミングが被ってしまい、お約束のような譲り合いをした後、シャルロットから話してもらうことになった。いや、俺は本当に間を繋ぐ為の世間話でもするつもりだったから、シャルロットを優先するべきだ。

 

『あ、あの……怪我はどう?ま、まだ痛いよね?』

『大体治ってきたぞ。アザも目立たなくなってきたし……まぁ骨折は治るまでまだ掛かりそうだけどな』

 

ヒラヒラと固定された左腕を振って応えると、『そっか……』とシャルロットは申し訳なさそうに俯いてしまった。

 

『べ、別にシャルロットのせいじゃないから。俺が勝手に立ち向かって怪我しただけで──』

『ね……ねぇ』

『ん?』

『どうして私が捕まったって分かったの……?ロイさんの家の場所も教えてなかったよね……?』

『えっと……』

 

俺は言い淀んでしまう。チラッとシャルロットの顔を伺うと、疑っているというよりは単純に不思議に思ったことを聞いてみたという感じだ。

 

『……シャルロットの白い帽子にGPS発信機と盗聴器を付けておいたんだ。ほら、契約書に『テストパイロットの安全を守る』って文があったろ?その一環で』

『そ、そうだったんだ。私、てっきりテレパシーでも使えたのかと思ったよ』

 

あはは、と頭を掻きながら笑うシャルロット。全く俺を疑っていないその笑顔を見た瞬間、俺は本当のことを言うことにした。

 

『ごめん、嘘ついた』

『えっ?』

『シャルロットの身の安全のために発信機を付けたのは本当。だけど、あの時盗聴器のスイッチを入れたのは……お前が知らないオッサンと何話してるのか気になったからだ』

 

言いながら俺は自分の頬が赤くなっていくのが分かった。自らストーカーに近い行為を打ち明けたのだ。恥ずかしい告白をしている自覚はある。別にシャルロットが誰と話そうと俺には関係ないはずなのに……。

 

『そ、それって要するに……ヤキモチってこと?』

『……そうかもしれない。ホントにごめん』

 

俺は素直に頭を下げた。シャルロットからの返事はない。これは変態野郎の認定待ったなしか……。

 

しばらくして恐る恐る顔を上げると、シャルロットは奇妙な顔をしていた。例えるなら、にやけるのを必死に我慢しているような……そんな顔。

 

『ほんとにごめんな?』

『えっ?あっ、いや私っ全然気にしてないから!ちょっとびっくりしちゃっただけで……』

 

俯いたまま話すシャルロット。とりあえず絶交されるような雰囲気ではない。俺は内心、胸を撫で下ろしつつ、気になっていたことを訊くことにした。

 

『そういえば、日本語とISの勉強はどうしてる?テキストは置きっぱなしになってると思うけど』

『え?う、うん一応やってるよ?』

『一応!?』

『ご、ごめんなさいっ!でも最近あんまり寝られなくて……』

 

申し訳なさそうに話すシャルロットの目元には確かに薄く隈ができていた。そういえば俺が怪我したことを気にしてあんまり寝れてないと森本さんが言っていた。

 

そのことを思い出した俺はそれ以上何も言えなくなってしまう。

 

『ま、まぁあと2年あるから。何とか覚えられるだろ?』

『で、でもヒデトはもう帰っちゃうんだよね?』

『あぁ、明日な』

『……やだなぁ』

『ん?俺の教える方が厳しいし嫌だろ?』

『えっ!?あ、あぁ、うん!で、でもそっちの方が覚えやすくていいかなぁって!』

 

慌ててブンブンと両手を振りながら答えるシャルロット。何この反応。俺のスパルタを嫌がってたよな?

 

『でも大丈夫だ。俺が帰ったあとのシャルロットとお母さんの面倒はデュノア社に任せてあるから』

『……えぇっ!?』

 

シャルロットが驚きの声をあげた。

 


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