IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい   作:砂糖の塊

12 / 35
12話

シャルロットの位置情報が表示されたタブレット端末を手に、俺は村へと繋がる向日葵畑を走る。既に森本さんへは連絡をしておいた。自分1人で解決しようなんていうヒロイックな考えは既に捨ててある。シャルロットの身に何も起こっていなかったとしても、俺が謝れば済む話だし。

 

やがて俺はオレンジ色の点が表示されている地点までたどり着いた。目の前には1軒の大きな家がたっている。玄関にはフランス語で『コークス診療所』と書かれたプレートが掛かっていた。位置情報を頼るならば、少なくともシャルロットの帽子はこの中にあるはずだ。

家の周りを歩きながら、こっそりと窓から家の中の様子を覗き込む。シャルロットの姿は見えないし、誰か家の中にいるような気配もない。……ここじゃないのか?

 

そう思い始めた俺の目が、見覚えのある白い麦わら帽子 を捉えた。オレンジ色のリボンが着いた発信機と盗聴器付きの麦わら帽子。それとよく似たものが床の上に落ちているのが見えた。ただ、昼見た時とは違い、大きな凹みがあった。

 

……この家で間違いないらしい。俺はそう結論づけ、開いている窓を探す。森本さんが到着するまで待っていた方がいいんだろうけど、事態は一刻を争うような状況かもしれない。そう思うとじっとなんてして居られなかった。

 

幸い、キッチンのある部屋の窓が鍵が掛けられていなかった。俺は物音がしないよう細心の注意を払ってコークス診療所へと忍び込む。これでもしシャルロットが見つからなかったら、盗聴に不法侵入と今日だけで大分悪事を働いたことになる。

 

こそこそと家の中を歩き回り、全ての部屋を探してまわる。途中、カルテらしきものが散らばる部屋に落ちていた麦わら帽子を回収しておいた。それと万が一に備えて帽子の近くにあった小さめのビンも拾っておく。

 

シャルロットの話から、この家に住んでいるのは中年男性であることは分かっている。つまり、丸腰では犯人とエンカウントしてしまった際に勝ち目がなくなってしまうのだ。こんなことなら時計型の麻酔銃やサッカーボールが飛び出してくるベルトを用意しておくんだった。俺は準備不足を後悔しながら次の扉を開けていく。

 

だが、シャルロットはどこにも見つからなかった。改めてタブレット端末を見ると、シャルロットの位置情報を示す点は丁度俺と重なりあっていた。……あ、そうか。麦わら帽子は俺が持ってるんだった。

 

これでシャルロットを追う手がかりがなくなってしまったということだ。

 

「どこに行ったんだよ……」

見つからない不安と苛立ちを誤魔化すようにそう呟いたとき、微かに女の子の声が聞こえた気がした。

 

慌てて耳を澄ますと、どうも床に近い辺りから聞こえてくる気がする。……地下室か?

 

少しでも声が大きく聞こえる方へ移動していくと、先程のカルテの散らばった部屋に戻ってきた。

 

「……っ!もしかして!」

 

俺はあることに気付き、急いで床に散乱するカルテをどける。するとそこには案の定、50センチ四方ほどの取っ手の着いた板があった。床に耳を近づけると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

『……ゃぁ……!……けて……ヒデトぉ!』

 

泣き声と共に俺を呼ぶ悲痛な叫び声が聞こえた瞬間、カッと頭に血が上るのが分かった。なりふり構わず蓋板を外し、地下に踏み込みそうになるのを理性によって何とか踏みとどまる。

 

落ち着け……下手をすると本当にシャルロットが危ないんだ。失敗は出来ない。

 

俺は短く深呼吸をしてタブレットとシャルロットの白い麦わら帽子を傍らに置いた。これで森本さんが来た時に俺とシャルロットがこの中に入ったと気づいてくれるはずだ。でもあの人ポンコツだしなぁ……いや、今は彼を信じよう。

こうして覚悟を決めた俺は静かに、だが出来るだけ早く蓋板を外し、地下へと繋がる梯子を降りた。

 

地下室はどうやらワインセラーだったらしい。ひんやりとした空間に背の高い棚が並んでいる。暗くて周りがよく見えないが、自分の存在がバレてしまう為、灯りも着けられない。

俺は目を凝らしながら、薄灯りを放つ方へと気配を殺して進む。

 

灯りは隣室から漏れていたらしい。地下にふた部屋もあることに驚きながら薄く開いたドアに近づくと、中からは2人分の声が聞こえてきた。

 

『……ほら、これで準備も終わりだ、シャルロット』

『い、いや!離してっ!』

『僕らの初めてをしっかり記録しておくからね』

 

中からはシャルロットの声と共に、低い男の声が聞こえてきていた。悲痛な声を上げるシャルロットとは対照的に、男はどこか楽しそうな様子だった。

ドアの隙間から中を覗き込むと、部屋の中央にあるベッドに寝かされたシャルロットの姿が見えた。右腕に繋がれた鎖がベッドから垂れているのも見える。

 

その手前に、背の高い男の姿が見えた。ベッドの上のシャルロットの方を向いている為、俺からは後ろ姿しか見えない。だが、上半身裸で、三脚に乗るカメラを操作する男の姿は、これからシャルロットに何をしようとしているのか丸わかりであり、俺の怒りを極限まで高まらせた。

 

やがて男がシャルロットの方に近づく。ギシッ……と男の体重が加わったベッドが軋んだ音を立て、少女の泣き声が大きくなる。だが、まだ出ては駄目だ。13歳の俺にできのは一撃必殺の奇襲。充分に近づく前にバレてしまえば、シャルロットを人質に取られてしまう可能性もある。

 

やがて、男がシャルロットに覆い被さるようにしてベッドの上に膝立ちになり────────今だ!!!

 

部屋に転がりこむようにして飛び込んだ俺は、一気に男までの距離を詰め、右腕に持ったビンを振りかぶる。物音に反応した男が俺の方を振り返るのが、まるでスロー再生のように見えた。

獲物を捉える蛇のように左腕が俺の方に伸びてくる。だけど────俺の方が速ぇっ!!

 

男の手が俺を掴むのより一瞬早く、遠心力と腕の力で目いっぱい加速させたビンが男の首の付け根の辺りを捉えた。

 

 

ゴン!!と鈍い音が室内に響き、男が横向きに崩れ落ちる。そのまま彼はズルズルとベッドの脇に落ちていった。ピクピクと痙攣している様子から気絶しているだけらしい。死んでいないことに少しホッとしながら、俺は呆気に取られるシャルロットの方に向き直る。

 

紫の瞳からは大粒の涙が零れ、頬には涙の筋が幾筋も走っていた。チャンスを作る為とはいえ、余計に怖い思いをさせてしまったのは事実だ。俺は泣き腫らした彼女の顔に申し訳なく

なってしまい、頭を下げる。

 

『……遅れてごめん……怖かったな……』

『……ヒデ、トなの?』

『あぁ……俺で間違いない。助けに来た』

『あぁ……ヒデト……怖かったよぉ……!』

 

ホッとしたせいか、余計に涙を溢れさせたシャルロットが俺に抱き着いてくる。女の子らしい良い匂いに心臓が高鳴るのを感じながら、俺は彼女の背中をポンポンと叩いた。

 

『もう大丈夫だから……泣かなくていい』

『うぅ……誰も……ぐすっ、助けてくれないと思ってた……』

『俺は契約は守る主義なんだ。それに……』

『……?』

 

思いついた言葉を言おうか迷っていると、シャルが首を傾げてきた。涙に潤んだ瞳が真っ直ぐに俺を捉える。あぁっ、もう!

 

『それに……シャルロットは友達だから。……友達は助ける』

 

途端に顔を赤らめるシャルロット。いや、絶対に言った俺の方が絶対恥ずかしいから!

 

『……ありがとう……ヒデト』

 

頬を赤く染めながら真っ直ぐに俺の方を見つめてくるシャルロット。先程まで抱きつかれていたせいで、鼻先がくっつきそうなほど俺達の距離は近いものになっている。

 

『は、はやく帰ろうぜ。こんなとこいつまでも居たくないだろ?』

『う、うん!』

 

気恥ずかしくなってしまった俺は、シャルロットの肩を掴んで無理矢理に距離を取った。これ以上見つめあっていれば、何かとんでもないことをしてしまう気がしたからだ。

 

『えっと……鍵は』

 

ちっ……あのオッサンの所か。俺はしぶしぶ立ち上がり、ベッドの脇で気絶してるであろうオッサンの方を向く。

 

『ヒデトッ!!!』

 

シャルロットが悲鳴を上げる。それとほぼ同時に俺は頬に衝撃を感じ、身体が宙を舞うのが分かった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。