IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい 作:砂糖の塊
11話
「まぁ、本当に困ったときだけ俺の話を思い出してくれればいいから」
「う、うん……」
シャルロットを半ば強引に送り出し、俺はダイニングに置かれたエアベッドに向かってダイブした。ゴシゴシと顔をシーツに擦りながら、先ほどまでの会話を内省する。
いかんな……。
自分でもわかっていた。シャルロットと話すときは意識せずにどうしても高圧的で上から目線な話し方になってしまう。いやこの言い方も正しくない。『意識しすぎて』高圧的な態度を取ってしまうのだ。丁度小学校低学年の男子が気になる女の子に意地悪したり、嫌なことを言ってしまったりする感じに近い。
1ヶ月の間とはいえ、ブロンド髪のフランス美少女と一つ屋根の下で暮らしているのだ。これが照れずにはいられますか?いや、居られない(反語)
それでも小中学生ならまだしも、俺は社会人まで経験し、2周目に入った転生者だ。シャルロットに対する態度が幼稚過ぎるのはわかっていた。
よし、これからはもう少し紳士な態度を心掛けよう。俺は固く決意する。そして、ベッド脇からノートパソコンを取り出し、起動させた。カーソルを動かし、デスクトップ上の『あるソフトウェア』を起動させる。数瞬のタイムラグの後、画面上にのどかな村落の風景が3Dマッピング化されて表示される。正確にはこの家から歩いてすぐの所にある村である。その中を少し早めの速度で移動するオレンジ色の点が一つ。もうお察しの方も多いだろう。これがシャルロットの現在地である。
…………。
どうしてシャルロットの位置情報が分かるのか。正直に話そう。昨日、シャルロットがいつも使っていると言った白い麦わら帽子にGPS発信機を取り付けたからである。勿論、バレないように小型のものをリボンの影に隠すようにして着けた。ついでに半径10kmほどの範囲で使える盗聴器も。
紳士な対応を心掛けようと決意した矢先の、このストーカー紛いの行為。だが幻滅しないで欲しい。これから先、シャルロットが日本に来るまでの安全は紺野重工業が確保することになっている。これもその安全対策も一環なのである。誘拐、拉致等、ISのパイロットには常に危険が伴う。それらから彼女と、紺野重工の情報を守る為にこれは必要なことなのだ。勿論、彼女が署名した契約書にも、小さい字で書かれてある。読んでない?それは私共の責任ではありませんな。
心の中で、散々言い訳をしつつ、俺はパソコンの画面に再び視線を落とした。シャルロットが既にどこかの家に入ったのか、点の動きが非常に細かくゆっくりしたものになっている。どうやらロイさんとやらの家に到着したらしい。
シャルロットの話的にはロイさんとやらは独身の中年男性という感じだった。13歳の少女をお手伝いと称して家に招く中年男性(独身)……犯罪の匂いがプンプンする気がするんだが。俺はパソコン画面の右下に表示されたウィジェットに目をやった。これで盗聴器の受信機のオンオフを変えられる。
聞いてみよっかな……。心の中で好奇心というなのやっかみ根性が頭をもたげる。いやいや、オッサンの魔の手からシャルロットを守ることに繋がるかもしれないですし。……その手段も盗聴という立派な犯罪行為なんだけどね。
俺の中の天使と悪魔が熱くせめぎ合う。聞くべきか聞かざるべきか……。
結局、盗聴装置のテストということで俺の中の天使と悪魔は満面の笑みで手を取り合った。
ポチッとな!
「……ん?」
盗聴器の故障か?いや、昨日付けたばかりだぞ?一応防水だし、バケツにでも突っ込んだならGPS発信機の方も使い物にならなくなるはずだ。
ということは考えられるのは……外的要因による故障。具体的には────────強いショックなど。
「これは……いきなりヒットしたのか?」
俺はタブレット端末の方でソフトウェアを起動させながら立ち上がる。いや、単純に地面に落としたときに壊れたのかもしれない。願わくばそうであって欲しい。だが……他の可能性を捨てきれない。
「いきなり世話が焼けるな……!」
俺は家を飛び出し、村の方に向かって駆け出した。
***
コポコポとお湯の沸く音に私は沈んだ意識を取り戻した。徐々に身体中に感覚が戻る中で、頭に鋭い痛みが走った。反射的に右手で抑えようとするが、何かに引っ張られるかのように手が動かない。
「何……これ……」
右手首には金属製の腕輪が付けられていた。腕輪には鎖が繋がっていてジャラジャラと五月蝿い音を立てていた。
「おや、起きたかい?」
聞きなれた声。慌てて声のする方を向くとロイさんが立っていた。両手にはいつものように湯気の立つティーカップを持っていて、ロイさん自身もいつものようにニコニコとした笑みを浮かべていた。
「ろ、ロイさん……?」
「痛みはないかい?突然殴ってすまなかったね」
やっぱり私は殴られたんだ。そう実感するとともにゾクゾクと恐怖心が背中を駆け上る。
「は、離してください……家に帰りたいです……!」
「それは出来ないな」
「どうしてですか……?」
「どうして?」
楽しそうに部屋の中を歩き回っていたロイさんが突然立ち止まった。そして私の方を恐ろしい形相で睨んでくる。
「お前が悪いんだシャルロット……いつかは私のものになると思って、金もやったし……お前の母親も診てやったのに……どこぞの馬の骨かも分からない日本のクソガキと一緒に暮らし始めて……さらには『もうお手伝いは出来ない』だと……?ふざけてるのか?」
目の前の大人から向けられるはっきりとした敵意。そこに私の知るロイさんの面影はなかった。身体が勝手に震えだし、眼には涙が滲む。それでも何とか震える声で、彼への赦しを乞う。
「ご、ごめんなさい……ロイさんが……そんな風に思ってたなんて……私知らなくて」
「そうだろう、だから教えてあげようと思ったんだ」
彼は冷たい笑顔を浮かべると、私の方に近づいてきた。身をよじって彼から距離を取ろうとする私。だが、節くれだった大きな手によって頬を掴まれ、身動きが取れなくなってしまう。
「綺麗な顔だ……シャルロット。あの売女の母親とは大違いだ」
「お、お母さんをそんな風に言わないで……!」
頬を掴まれ、顔をうんと近づけてくる彼を、私は懸命に睨む。今までずっとお母さんの話を笑って聞いてくれてたのに……。それが嘘だったのだと思うと、ポロポロと涙が溢れた。悔しくて、悲しくて、どうしようもなかった。
「もうずっと一緒だ、シャルロット……今日を忘れられない日にしてやる」
泣き続ける私に彼はそう言い放つと、部屋を出てどこかに行ってしまった。1人残された部屋で静かに泣き続けた私は、ふとあの麦わら帽子を探した。
お母さんが買ってくれてずっと大切にしていた麦わら帽子。それは机の上に無造作に置かれていた。私を殴ったときに着いたのか上部には大きな凹みが出来ていた。鎖に繋がれながら、左手を限界まで伸ばし、麦わら帽子を掴む。抱きしめると少し安心できる気がした。
そういえば……ヒデトが困ったことがあれば麦わら帽子に頼め、と言っていた。あのときは聞き流してしまったが、まさかこんなに早く困り果てることになるとは思わなかった。
「ぐすっ……ヒデトぉ……助けて……ヒデト……」
返事を返してくれるはずもない麦わら帽子を抱きしめながら、私は2週間しか共に過ごしていない少年の名前を呼び続けた。
寝取られはないので御安心を。