IS 女尊男卑の世界に転生しちゃった俺は兵器開発で逆転を狙いたい   作:砂糖の塊

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IS学園に入学するまで、もう少し序章らしきものが続きます。20話までには本編に入るのでもう少しお待ちください。あと、もしかしたらR-18タグを取るかもしれません。何らかの形で正確にお伝えできればと思っています。


10話

ヒデトが家に来て2週間が経った。日本語とISの勉強は相変わらず続いているけど、あんまり上達した気はしない。勉強はあんまり苦手じゃなかったんだけどな……。

それに比べて家の中、特にダイニングの様子はガラリと変わった。お母さんが座って編み物をしていた窓際の揺り椅子は部屋の端に移動させられ、ヒデトが使うエアベッドが置かれている。モリモトさんに頼んで持ってきて貰ったらしい。

あと、突然うち宛に大きな冷蔵庫が届いたのは驚いた。毎日村まで材料を買いに行くのを面倒くさがったヒデトが注文したらしい。冷蔵庫が大きくなってお料理が楽になるのは

私も嬉しいけど……ヒデトもうすぐ日本に帰るんだよね?

 

そういう訳で着々とうちの中にヒデトの領土が広がってきている。もしお母さんが今すぐ帰ってきてダイニングに置かれた機械類やベッドを見たら、驚いて腰を抜かしてしまうだろう。お母さんと私の寝室だけは何としてでも守らないと……。私は心の中で固く誓う。

 

 

「これ、シャルロットのか?」

ダイニングに置かれたエアベッドに寝転んでいたヒデト。ふと目に止まったのか、玄関扉の脇に掛けていた白い麦わら帽子を手に取った。

 

「う、うん。お母さんに買ってもらったんだ」

「……いつも着けてるのか?」

 

白をベースにワンポイントで私の好きなオレンジ色のリボンが着いた麦わら帽子。お母さんが誕生日に買ってくれたもので、私はとても気に入っていた。

 

「そうだね、外出するときはいつも着けていくかな」

「ふーん……」

 

ヒデトは私の返答にうわの空で返事をすると、やけにジロジロと帽子をひっくり返したりして眺めていた。何さ、聞いてきたのはヒデトじゃないか。折角お気に入りの帽子を自慢できると思ったのに……。そういえば少し前からヒデトは完全に私が敬語を使わないのを気にしなくなった。友達として認めてもらえたんだろうか?

 

そっけないヒデトにむくれていると、突然家の電話が鳴った。

 

「はい、もしもし」

「シャルロットかい?私だ、ロイだよ」

 

受話器からは聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「ロイさん、お久しぶりです。どうされました?」

「明日、家にまた手伝いに来て欲しいんだ。いいね?」

「あ、あの、私──」

「頼んだよ」

 

私が何か応える前にブツッと音を立てて電話が切れてしまった。

 

「知り合い?」

 

私が受話器を置くのを待ってヒデトが話しかけてくる。

 

「う、うん……村の人。明日お手伝いに来てくれって」

「シャルロット、お前そんなことまでやってたのか?」

「だ、だってお母さん働けないから……私が頑張らないと……」

私のはっきりしない言い方に、お金のやり取りがあることを察したのか、ヒデトは一瞬バツの悪そうな表情を浮かべ、ポリポリと頭を掻いた。

 

「それなら余計にもう手伝いなんてしなくてもいいんじゃないか?」

 

そう言って彼は部屋の隅に置かれたアタッシュケースを指さした。中には50万ユーロが手付かずの状態で残っている。お母さんの入院費と治療費に当てる大切なものだ。

 

「あれはお母さんの為に使わないと……それに、これからもし断るにしても1度会って謝らないと駄目でしょ?」

「まぁ……それはそうか」

 

私の言い分に納得してくれたのか、ヒデトが小さく頷いた。

「なら、明日の分の勉強は今日やるか」

「えぇっ!?今日は日曜日だからお休みって……!」

「事情が変わった。休みは明日に変更することにする」

「私はお手伝いに行くんだけど……」

「えぇ?そうなのか?まぁ頑張ってくれ」

 

白白しく答えながらベッドから降りたヒデトは、どこからか分厚いISの解説書とノートを取り出した。どうやら本気らしい。

 

「はぁ……」

 

私は大きな溜め息をつき、彼の隣の椅子に腰掛けた。

 

 

***

 

翌日。

お昼すぎになり、ロイさんの家に出発する時間になった。いつもロイさんがお手伝いを頼むのはこの時間だからだ。

 

「それじゃ、ヒデト。行ってくるね」

「おう、まぁ適当にやって帰ってこい」

「そこは応援してよ……家の中、汚さないでね」

「分かってるよ」

 

まるで親子のような会話をした後、家を出ようとした私はあることに気がついた。

 

「あれ?私の帽子は?」

 

いつも掛かっているはずの場所にあの麦わら帽子がない。キョロキョロと辺りを見回すと、ヒデトが思い出したようにベッドの陰から白い麦わら帽子を取り出した。

 

「すまん、忘れてた」

「もう!雑にしないでよ!」

 

私は彼から受け取った麦わら帽子をひっくり返したりして汚れが付いていないか確認する。良かった……特に何も変わった様子はないみたい。

 

「何もしてないよね?」

「別に?……匂い嗅いだくらいかな」

「最っ低!」

 

ヒデトに向かって抗議の叫び声を上げながら、私は自分の頬が熱くなるのが分かった。べ、別に臭くないよね……?

 

「嘘だ、素で置き忘れてた」

「!?……どっちにしても駄目でしょ!」

「悪い、とっとと行け」

「もうっ!知らないから!」

 

全く反省した様子のない彼に背を向けいよいよ出発しようと靴を履き替える。

 

「そうだ、1つだけ」

「何!?」

 

後ろから聞こえてくる声に振り返ることなく応える。

 

「その帽子はお前を守ってくれる。何か困ったことがあれば帽子に頼め」

「はぁ……?」

 

突然、不思議なことを言い出すヒデト。言っている意味が分からず首を傾げる私を見て、彼は楽しそうに笑った。

 

「まぁ、本当に困ったときに俺の話を思い出してくれればいいから」

「う、うん……」

 

ヒデトに押し出されるようにして私は家を出た。時々だけど、ヒデトが言っている言葉の意味が分からないことがある。

 

そういえば初めて会ったときも私に「奴隷になれ!」って言ってきたんだった。あのときは本当に危ない人が家に入ってきたと思った。結局その認識はそこまで間違えてなかったけど。

 

「ふふっ」

 

派手なシャツを着て、家に飛び込んできたヒデトの姿が脳裏に浮かんで、私は思わず笑い声を上げてしまったのだった。

 

村には15分ほどで着いた。ロイさんの家を目指しながら、今日伝えるべき内容を頭の中で復習する。

 

まず、お母さんが倒れたけど、命に別状はないこと。これは噂によって村のかなりの人が既に知っているだろうけど、ロイさんにはお母さんを見てもらったこともある。娘である私の口からちゃんと伝えるべきだろう。

 

もう一つは、テストパイロットとして働くことになるからもうお手伝いは出来ないということ。私を頼りにしてくれていたお婆ちゃんもいたりするので心苦しいが、仕方がない。私の雇用主が非常にうるさいのだ。だからこれからはお金を貰わずに、出来る範囲のことをやりたいと思う。

 

そんな考え事をしている内にロイさんの家に着いた。呼び鈴を鳴らすとすぐにドアが開き、ロイさんが顔を見せた。

 

「やぁ、シャルロット。よく来たね」

「こ、こんにちは」

「中へお入り」

 

ロイさんに促され、家の中へと入る。2週間振りに訪れた診療所兼家の中は、またカルテや医療器具らしきものが床に散らばっていた。

 

「今日も片付けてくれるかい?」

「は、はい」

 

ロイさんに言われ、床を綺麗にしながら私は用件を伝えることにした。

 

「そういえばお母さんのことなんですけど──」

「あぁ、都会の病院に運ばれたそうだね。夜にヘリが飛んできていたから村中驚いていたよ……よくそんなお金があったね」

笑顔で話すロイさんの目が僅かに光った気がした。

 

「あ、あの……そのことなんですけど。実は私……日本の会社のテストパイロットをやることになって」

「へぇ……凄いじゃないか」

「それで、あの……勉強することも多いですし、日本語も覚えなきゃいけないので……これからお手伝いはお断りさせて頂こうと思います」

「そうか……それは残念だ」

 

しょぼんと、目に見えてロイさんが項垂れる。頼りにしてもらえてたんだという喜びとともに申し訳なさが頭をもたげる……。私はそんな申し訳なさを振り払うように床掃除に全力を注ぐことにした。

 

「ま、また時間に余裕があればお掃除しに来ます!」

「そうか、それはありがたい……ところで一緒に住んでる男の子とは仲良くしているみたいだね」

後ろに立つロイさんが話しかけてくる。男の子とはヒデトのことだろう。

 

「は、はい……はじめのうちは中々仲良くなれなかったんですけど……最近は─────」

 

そこまで話したところで、ふとあることに気づいた。そういえばロイさんはどこでヒデトのことを知ったのだろうか?ヘリで運ばれたお母さんのことならまだしも、家に来てからほとんど外に出ないヒデトのことを村の人が知れるとは思えない。

それに私も『日本の会社のテストパイロットをやる』としか言っていないのだ。どうしてロイさんはヒデトのことを知っているんだろうか?

 

「あの、ロイさんはどこでヒデトのことを───」

 

ロイさんの方を振り返った私の目前に迫っていたのは、茶色い何かだった。

 

ガツン!と頭に鈍い痛みが走り、視界がぼやける。

 

「君がいけないんだよ……シャルロット……」

 

徐々に暗闇に落ちていく意識の中で、ロイさんの呟きだけがぼんやりと聞こえてきていた。


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