比企谷八幡のボーダー活動   作:アラベスク

6 / 15
すいません、漸く書きあがりました。


未来が動く時

大規模侵攻終幕、迅悠一は逃げ遅れ救助を待つ市民の救出に奔走していた。一通り自分の持ち場の巡回も終わり、仲間達が待つアジトへ帰還するだけだったが一本の通信が入った。

 

 

 

『迅くん聞こえる?』

 

「どうかしましたか?俺の方はもう見回り終わりましたが」

 

通信の相手は比企谷八幡の母からだった。比企谷夫妻はボーダー結成時の初期メンバーで迅にとっては普段から世話になっていて頭の上がらない存在だ。何やら緊迫した声色に迅の額から冷や汗が流れる。

 

迅には人にはない特別な力がある。高いトリオン能力を持つ人間の場合、トリオンが脳や感覚器官に影響を及ぼして稀に超感覚を発現することがあり、それらの超感覚を総称して「副作用(サイドエフェクト)」と呼ぶ。 迅が持つサイドエフェクトは目の前の人間の少し先の未来を見ることができる未来視だ。

 

大規模侵攻が起こる前にボーダー隊員の行く末を見た迅は最悪の未来に近づけないように各隊員に警戒を促した。しかし、いくら迅のサイドエフェクトとて万能ではない。数ある内の未来を見たからと行って必ずしもいい結果となることはない。それでも迅は見てしまった最悪の結果にならぬように、日々裏で暗躍に勤めていた。

 

だが、今回起きた大規模侵攻で迅はある人物に関しての未来が読めなかった。何故かはわからないがこんなことは初めてだった。その人物とは比企谷と呼ばれるボーダー結成当初からの最古参のメンバーの一人で、夫婦でボーダーに所属する選りすぐりの人物だ。迅は出撃前に比企谷にこう述べた。

 

 

 

『比企谷さん』

 

『ん、どうかしたか迅?怖い顔してお前らしくないぞ。いつものヘラヘラした顔はどうした?』

 

『茶化さないでください』

 

『悪い。緊張してるのは皆同じだな。大方サイドエフェクトで嫌な未来でも見たか?』

 

『あぁ、比企谷さんの未来だけは読めなかった』

 

『お前でもそんなことがあるのか。まぁ先の未来なんてどう転ぶかわかんねーからな』

 

『だから、気休めにしかならないですけど。無理はしないでください』

 

『わかった。肝に命じとく。家族が待ってるからな』

 

『それ死亡フラグだよ』

 

皮肉った笑顔で迅は比企谷を送り出した。彼の笑顔を見るのがそれを最後と知らずに。

 

 

 

『迅くん?』

 

「すいません、ちょっと考え事してました」

 

『大丈夫?無理しないでとは言えないんだけれど、主人からの通信が途絶えたままなの。何か胸騒ぎして』

 

「やっぱりか」

 

『視えてたの?』

 

「すいません、今すぐ比企谷さんの所に向かいます」

 

『お願いするわ。気を付けて』

 

迅は通信を切る。粗方終結した戦いの後、息子と娘を迎えにいくと行ったから自宅の方へ向かうと行っていたのを迅は思いだし、直ぐ様比企谷の元へ急行した。

 

 

 

迅が現場に現着したとき、既に最悪の事態となっていた。片腕を引きちぎられ血の海に沈む比企谷の姿を見た迅は動揺を隠しきれない恐怖した顔をした。比企谷をやったトリオン兵は既に虫の息だったがまだ活動をしていた。すぐ側には比企谷の子供と思われる少年と倒れて気を失った少女が今にも教われる瞬間であった。

 

 

『………!?おいおいマジかよ』

 

 

 

だが、迅は動けなかった。親しい友人の無惨な姿を目の当たりし気負されたからではない。瞬間的に迅のサイドエフェクトが発動し未来が動いたからだった。迅が見た未来とは別の未来。最初に見た光景とは打って変わって、一筋の希望に溢れた世界が今迅の目の前で繰り広げられようとしたからだ。

 

もう大丈夫だ。だが、念のためトリガーで武装したまま迅は行く末を見守った。

 

 

 

迅が見た光景は少年がトリガーを起動し、襲い来るトリオン兵を果敢にも倒した所だった。あれはたぶん比企谷の所持していたトリガーだろう。少年は転がってきたトリガーを咄嗟の判断で起動したのだ。普通なら考えられない、見たこともないものを手にしてあの緊迫した状況下で冷静に対処したのだ。

 

 

 

トリオン兵が倒され機能停止したのを確認して迅は少年の元へ駆けつけた。気が抜けたのか力なく少年は倒れるのを寸での差で受け止め迅は一息ついてまた直ぐに倒れた比企谷の元へ行く。出血は酷いが比企谷にはまだ息のあった。直ぐ様来ていたジャケットの袖を引きちぎり止血をして迅は比企谷を抱える。少年達の安全も大事だが、彼らよりも重度の傷を負った比企谷の方を優先し、少年達の救助には別の隊員に任せこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

全てを話終えた迅はその場にあった椅子にもたれ掛かり疲れたと深い息を吐いて胸を撫で下ろした。

 

「これが俺が見たことだよ」

 

「そうだったの。ありがとうね迅くん」

 

「いえ、俺に出来ることありませんでしたから」

 

「って言うと思ったかしら?「えっ?」」

 

比企谷夫人の顔は笑っていた。ただその笑顔は狂喜に満ちた笑みであった。迅の顔はみるみるうちに青くなり、震えだした。ヤバイ、地雷を踏んだと迅のサイドエフェクトがそう言っている。

 

「あなたって人は!!人様の大事な子供の一大事だってのに駆けつけもせず、ただ見守っていたですって?冗談じゃないわよ

!!もし、もし万が一八幡が殺られていたらどうするっていうのよ!!俺のサイドエフェクトがそう言ってるからって普通そこはすぐに助けにいくのが常識でしょうが!!普段から裏でこそこそ動いて暗躍だがなんだか知らないけれど家の子達に何かあってからじゃ遅いのよ!!!この腐れエリート風情が!!!トリガー起動!!」

 

比企谷夫人がトリガーを起動させる。その顔は修羅と化していた。

 

「あっあぁ……忍田さぁぁん!?っていねぇぇぇ!?」

 

「悪い迅、私はこの人には逆らえないんだ」

 

鬼気迫る迅を他所に既に忍田は病室から退出済みだった。

 

「覚悟は出来てるわよね?」

 

「はっはひ」

 

その後、迅の行方を知るものは誰もいなかった(嘘)。

 




ちなみに迅さん(トリオン体の)は比企谷母に弧月で一刀両断されたのちメテオラで粉砕!玉砕!大喝采!!されました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。