八幡がボーダーへ入隊して半年の月日が過ぎた。漸くと言うか急ピッチで進められたボーダー本部の工事も終了し、ようやくボーダーが組織として公に認められ起動に乗り出した。その間に隊員や職員の募集も進められていく中で、八幡は隊員として今日も任務、また訓練に勤しんでいた。
「ようやく1勝か」
模擬戦のブースから出て八幡が呟いた。今日は防衛任務がなく非番なため本部で訓練しようと来たら、そこには同期入隊し、現在防衛隊員の中で一番の有望株と呼ばれている男と遭遇してしまった。
「はぁ、はぁキツすぎ」
「なんだなんだ、まだまだこれからだろ比企谷?あと50戦くらい余裕だろ?」
「あんたみたいに元気じゃねーんすよ」
肩で息をしている八幡をよそに涼しい顔でブースから出てきた男の名は太刀川慶。忍田に見いだされてボーダーに入隊し弟子入りして瞬く間に頭角を表した期待のエースアタッカーである。
「比企谷、大丈夫か?」
「これが大丈夫に見えるのか、本牧?」
八幡に付き合う形でボーダー本部に来た本牧は模擬戦の観戦をしていた。本牧はタオルと八幡の元気の源とも呼ぶべきMAXコーヒーを手渡す。
「よう本牧、お前も模擬戦すっか?」
「遠慮しておきます」
なんだ連れないと太刀川は辺りを見渡して他に暇そうな隊員を見つけると無理矢理引っ張って模擬戦を強要し回っていった。あれがなければいい人なんだが、如何せん彼の強引で自分勝手な性分に逆らう勇気や度胸がない。八幡は本来本牧と軽めに打ち合うくらいの気持ちでブースに来たはずなのに、太刀川に目をつけられた瞬間にドナドナよろしく引っ張られて模擬戦をさせられてしまった。彼を諌めるような人が生憎今日に限って防衛任務についていたのが運のつきだったのかもしれない。
「どうする?本来の目的だった訓練するか?」
「いや、今日はもう無理」
近場の椅子に横たわってギブアップ宣言する八幡に同情する。あと、太刀川に無理矢理連れてかれた名も無き隊員に合唱する本牧だった。
太刀川慶の襲撃から一週間後のことだ。俺と本牧は防衛任務についていた。今回の防衛任務に参加しているのは俺と本牧、そさて先日俺を恐怖に陥れた太刀川さんに、そのお目付け役として太刀川さんが頭が上がらない風間蒼也さん。小柄だが歳は俺らより4つ年上だと聞いたときは驚いて開いた口が塞がらなかったのを物理的に塞がれた。それ以来風間さんには頭が上がらない。と言うより、ボーダーに入った同期の同年代が少ないから年上ばかりと言うのもあるし、八幡自信がコミュ症で慣れるまでに時間がかかるのも理由のひとつだ。
『皆、警戒して門が開くわ。エリア西4-2』
「了解、月見サポート頼む。太刀川と比企谷は前衛、本牧は援護に迎え」
「「「了解」」」
今日の防衛任務の指揮は年功序列で風間さん。オペレーターには八幡の母の元町が本部で後身育成中のなか月見蓮が担当することとなった。これで幾度になるかもう数えるのをやめた防衛回数。何時ものようにボーダーが門の誘導を警戒区画に限定しているため市街には被害はほぼ出なくなった。
「比企谷、状況報告を」
「こちら比企谷、現在出現したトリオン兵を全機撃破。太刀川さんの方もそろそろ終わると思います」
「よし、粗方片付いたな。帰還するぞ」
本日の防衛任務も無事終了、
『待って!まだ門が開く、嘘……』
「どうした月見?」
『警戒区画内だけど市街地よりに門発生!!』
「なんだと?すぐ現場に急行する。近くにいる他の隊員にも通達を」
『了解。北東部よ』
「比企谷、本牧は先行しろ。お前らならグラスホッパーですぐに向かえるだろ」
「「了解」」
八幡と本牧のトリガーにはオプショントリガーのグラスホッパーが備わっている。空中に足場を作り移動を補助すし、高速移動に適し、現場に急行するにはもってこいだった。
「本牧、補助頼む」
「わかった。先にいくつか展開する」
本牧はたまたまサブトリガーにもグラスホッパーを設定していたので複数の足場を展開できる。ものの数分で八幡と本牧は現着することが出来た。
「比企谷、本牧現着した」
『了解、トリオン兵は5体、バムスター3、イルガ―2よ』
「了解、あれは……月見さん!!」
『どうしたの比企谷君?』
「どういうわけか一般人、学生がいる。まずい、トリオン兵が一般人に気づいた」
「比企谷、お前は一般人の救出に迎え。援護は任せろ」
「わかった!」
八幡は駆け出すと一般人の救出に向かう。本牧はアステロイドでトリオン兵に牽制し意識をこちらに向けさせ太刀川達が来るまでの足止めをした。
『本牧、あと1分耐えろ』
風間と太刀川があと少しで現着する、1分たえるのはまだ訓練して半年の本牧では耐えるだけで精一杯なのかもしれない。しかし、そんな窮地に一人の隊員が上空から舞い降りた。
「よう、本牧」
「迅さん!」
迅悠一が風間の通信を聞いていち速く現場に駆けつけてくれた。
「いやー間に合ってよかった。もう大丈夫だ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる。お前は八幡の援護に向かえ、俺が風間さん達が来るまで凌いでやるよ」
迅は弧月を抜いて近くにいたイルガ―に一閃。急所である目を真っ二つにしてこれを撃破し、比企谷へと通じる道を作ってくれた。
「さぁて、やりますかね」
一方、八幡は襲われそうになっていた一般人の学生の元へ向かっていた。幸いトリオン兵からは遠く先に八幡の方がついた。それと同時に迅も現れてひと安心した。
「立てるか?」
トリオン兵に襲われそうになっていたのは二人の女子中学生だった。制服から察するに八幡と同じ学校の生徒だが、何故こんな所にいたのかはまず置いといて、今は彼女らの身の安全が最優先だった。八幡は手を差しのべると彼女らは手を取り立ち上がる。
「嘘、比企谷?なんで比企谷がこんなところに?」
「お前は、折本かおりか?」
折本かおり、この先の未来で彼女らとチームを組むことになるとは今の八幡は知るよしもない、運命の出会いであった。
-小ネタ-
「八幡のあだ名」
空閑「王子隊長に変なあだ名つけられたな、オッサム」
修「よしてくれ、恥ずかしいじゃないか」
八幡「お前だって変なあだ名だろ。クーガーとか仮面ライダーかと思えばアイコンはポンデライオンだし」
空閑「そう言うハチマン先輩はなんて呼ばれてるの?」
八幡「いや俺はだな」
王子「あれ、オッサムにクーガー、それにハッチマン珍しいじゃないか」
「「ハッチマン?」」
八幡「だぁぁぁぁあ!?だから嫌だったんだ!なんだよハッチマンって、チャッカマンの親戚かよ!!」
たぶん王子隊長ならこう呼ぶはず。