俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、叱りつける

 

 右を見る。視界に入る風景はまさに廃墟と呼ぶに相応しい物である。

 左を見る。視界に入る風景の殆どは廃墟としか言いようの無い物である。

 ゆっくりと周囲を見渡せば、建物の多くが倒壊し、それを何とか立て直そうとしている者達が見える。だが、恐らくそのほとんどはもう一度初めから立て直すことになるだろう。

 

 そして目の前を見下ろせば、そこには瓦礫から拾い出してきたギザギザになった石の板の上で正座をしているギルガメシュとエンキドゥの二人が座っていた。

 

「……俺が何を言いたいのかわかるか?」

「ここは(オレ)の国だ。我が何をしようと問題は―――」

「そこじゃねえよ馬鹿」

 

 とりあえず脳天に踵を落とす。ギルガメッシュを中心に数十センチほどが陥没し、クレーターとなった。加減したとはいえ威力が大分散らされているな。しかもそれが無意識のうちの物だから叱るに叱れん。どんな状況でもできる限り被害を小さくすることを考え、実行するのは王としては非常に正しい行動だからな。

 下腿が地面に埋まり、「ぬおぉぉぉぉ……」と呻き声をあげて悶え苦しむギルガメッシュの声が聞こえるが、自業自得と言うことで一度スルー。今度はエンキドゥに向き直る。

 

「何か言いたいことはあるか?」

「周りを見ないで始めたこと以外に後悔も反省も無い」

「なるほど。つまり三日間も食事を抜いて反省も後悔も無いと言うことはいらんと言うことでいいな。明日から主食は豆サラダにするか」

「やめてくださいしんでしまいます」

「大丈夫だ。カレーが食べれなかったせいで死んだ奴は今のところいないからな」

 

 死ぬ前に食わせたからだと言うのは黙っておく。本当にゼウス達に言ったあれは痛恨だった。冗談だったのに本当になるとは……と言うか思い込みで身体が腐るようになるとか予想できるか。当時はまだ神のことについて詳しく知っていた訳じゃないから仕方ないと言えば仕方ないことかもしれないが、まさかなぁ……。

 ……まあ、もしかしたら腐るだけで生き続けるかもしれんしな? 全身の骨肉が腐り落ち、神経と言う神経が腐敗菌から来るガスによって内側から弾けるようなことになっても、神であるならば生き続けることはできるかもしれない。保証はないがな。

 

 さて、俺は別にこの国の神って言う訳じゃないし、メソポタミア神話群の神とされてはいるがはっきり言って外様の神だ。ギリシャ神話の出身だしな。

 だから、この国がいくら壊れようとも個神的には全く問題ない。問題は無いが、だからと言って何をしてもいいと言う訳じゃない。やっていいことと悪い事ってものがある。あくまで個神の意見だから聞き流してくれて構わないが、何の力もない奴を自分だけのために争いに巻き込むと言うのは良くないことだろう。絶対に駄目とは言わないし、力が無いのに自分から巻き込まれに来たりすることもあるのだ。そう言う時には止めなくてもいいと思っている。自業自得だ。

 で、今回こいつらはそう言った者達の多くを巻き込んだ。国は確かに王の物だが、しかし民の全てが王の物と言う訳では無い。民にも好みがある。意思がある。心がある。そう言った物まで侵す権利は王には無い。

 ……そう言った物を侵した結果、暴君ではなく魔王と呼ばれた者もいる。魔王はいつの時代においても勇者と言う名の極少数の反乱者に殺されるものだ。不思議なことに、その多くは魔王が信頼してそばに置いていた者による毒殺と言うものが非常に多いんだがね。

 

 その点こいつらは恐らくもう大丈夫だろう。暴君ではあるが魔王ではないギルガメシュに、やろうとすれば暴君を殺すことのできるエンキドゥ。暴君として民を愛することができるようになった今ならば、そうそう問題らしい問題は起きないはずだ。いや、問題は起きるかもしれんが、致命的な物にはならないだろう。多分。

 


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