ギルガメッシュが暴君になった。三十秒後、エンキドゥがその左の頬に右拳を叩き込んで喧嘩が始まり、暫く国が荒れた。
ただ、暴君になってから初めにしたことが『カレーを毎日昼に献上しろと命令する』ってのはどうかと思う。そうなる可能性があるのは知っていたが、まさか本当にそんな風になるとはな。
予想外だったのはそんなギルガメッシュに対してエンキドゥが速攻殴りに行ったこと。暴力が良くないだとかそんなことを言うつもりは無い。少なくともこの時代においては暴力と言うのは立派な力の一つで、社会的にもよく使われるものでしか無い。国家間では戦争と言う形になるが、今のように個人の間でかつ周りの迷惑にならないような状態ならば問題ないだろう。
つまり、周りに被害が出たら問題だ、って話なんだが。
ギルガメッシュの頬に突き刺さるエンキドゥの拳。
弾け飛ぶように首を逸らしながらもエンキドゥの脇腹に撃ち込まれるギルガメッシュの蹴り。
吹き飛ばされた二人に巻き込まれて倒壊する家屋。
瓦礫の中から同時に飛び出し、拳をぶつけ合っては衝撃波を撒き散らすギルガメッシュとエンキドゥ。
衝撃波に巻き込まれて砕け散る露店や商店。
……まあ、これは完全に周りに被害出してるよな。止めるか?
「イシュタル。止めんのか?」
「敗北を知ること。あるいは同格の存在が居ると言う事を理解すること。それはギルガメッシュにとって成長に繋がるわ。しばらく放置」
「そうか。じゃあ俺もお前の注文しばらく放置することn」
「何をしている!住民を神殿内に避難させなさい!」
掌返しの早いこと早いこと。そんなにカレーが欲しいのかこのいやしんぼめ。
そんなことを考えつつも顔に出さずにイシュタルの前にカレーを置いてやれば、ぱくぱくもぐもぐとそれはまた結構な速さでカレーが口の中に消えていく。代金は払ってもらってるから構わないんだが、もしも俺がここからいなくなったらそれはマジで不味い事になるんじゃないか? カレー的な意味で。
住民の避難は着々と進み、しかし暫く喧嘩は続く。少しずつずれていった結果、喧嘩の中心は町の外に移動しているが……そうなるまでの被害の大きい事大きい事。流石は神話時代の人間と、神格に作り上げられた人形だ。俺が生きていた頃の人間からするとどうにも考えられないな。完全に人外だ。
さて、これは最終的にどっちが勝つことになる? できる事なら最後の最後にまでもつれこんでから全力の一撃をぶつけ合って引き分けてくれるのがこれからの事を考えると一番なんだが……。
ギルガメッシュが勝ってしまうと暴君のままになってしまう。エンキドゥが勝ってしまうと世界がカレーに侵されてしまう。侵してるの俺だから後者に関しては何とも言えないんだが、少なくとも仕事が増えると言うのは間違いない。せっかくそれなりに戦力になる奴を作って来たのにそれでも間に合わなくなるのは困る。結構ギリギリな事をやってたしな。
地平線の果てから聞こえてくる轟音を聞きつつ、俺は帰って来た時のためにカレーを作る。材料は出したが、俺がこうして手作りするのは最近では中々無いぞ? 客が多くなってからは材料ではなくできあがったカレーを出してる事が多いからな。
これが必要な事なのか、それともそうでもないのかはわかりゃしないが、わざわざこっちの神のやることに首を突っ込んだりはしない。人間同士の争いや関係に神が首を突っ込んできたり、あるいは神同士のいさかいの代理戦争を人間を使ってやろうとしてたりするならば止めようとも思うが、基本的にそう言ったことにはならないからな。
神が力を貸していた人間同士が争ったり、あるいは神が寵愛を与えていた者が個人的に争いを起こすのは……良くはないがままあることだし、神が手を出してそうしたわけじゃないから構わないんだが……人間が争っている所に神がしゃしゃり出てきて気に入らない方に一方的に不利な条件を飲ませたりとかは、俺としてはもうアウトと言って良い。多分そんなことがあったらこっそり殺しに行くだろうよ。できるかどうか、そして知れるかどうかは別として。
……終わったようだな。引き分けか。個神的にはよかったよかった。