三週間後。そう、三週間もかかってしまった。エンキドゥに基礎の基礎と、基本の味を覚えさせるところまではできた。逆に言えば、そんな基礎の部分にすらそこまで時間がかかってしまったと言う事だが、それでも俺にとって、そしてエンキドゥにとっては大きな進展だと言える。
結果的に完全とは言わないがエンキドゥにも理性や感情と言った人間らしいものが芽生えたし、言葉を覚えさせることもできた。実際には言葉を覚えさせるのが先だったんだが、そう考えれば三週間で言葉と最低限の調理を覚えたエンキドゥの頭は実に吸収が良い物だと言えるだろう。人間の物じゃない。まあ実際人間ではないが。
そう言う事で最低限必要なことは頭に入れたはずなので、次は実践するために店に戻って来た……のだが。
「カレー……カレーが足りねぇ……力が……でねぇ…………」
「……」ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ
「かれーかれーかれーかれーかれーかれーかれーかれーかれーかれー」
なんか凄いことになっていた。おかしい。このカレーには別に中毒を起こすような成分は入っていなかったはずなんだが……どうしたんだ?
と言うか『カレーが足りなくて力が出ない』とか、どこのカレーパン男だ。あんパン男と一緒に黴菌男殴り飛ばしてろ。
……ん? なんかあそこでかれーかれー呟いてる奴……イシュタルじゃね? その隣で虚ろな目をしてる奴はこの国の未来の英雄王じゃないか?
…………いや本当に何があったし。俺は今回は口には気を付けてたから変な副作用とかは出ないはずなんだが……。
……まあ、いいか。俺はこれからいつも通りカレーを作るだけ。このカレーが何とかしてくれるだろう。きっと。
なんとかならなかったら? 何とかするんだよ決まってるだろ。
そう言うわけでヘスティアカレーを再開したら、五秒で全席埋まった。そして凄まじい量の注文が舞い込んできた。
「一番席中辛3甘口2プレーンナンとサラダのセット5つトッピングチーズたっぷり、二番席中辛ライス8甘いナン2プレーンナン2辛いナン4アイスハーブティーピッチャー、三番席メガ盛りカレー丼サラダセット1、四番席唐揚げカレー風味定食1───」
「ハイハイお待ちどう、どんだけカレーに飢えてんだこいつら」
呆れたようにぼやいてみるが返事がない。……そう言えば、カレーに使うスパイスの多くがメソポタミア世界では取れないのか。だったらカレーは作れないだろうし、そもそも真似して作ってみようとしても材料もない訳で……まあ、飢える理由もわからないではない。
現代人だった頃の俺もたまにカレーが食べたくて食べたくて仕方無くなることもあるし、美食の限りを尽くそうとしても基本的に材料がないなら無理。つまり、カレーに飢えるのはある意味で当然のことだと言えるわけだな。
「……」ハムッ、ハクハクハクハク……ムグッ!?
「お水です」
「ゴキュッ、ゴキュッ……ぷはぁ。ありがとう」
「……いえ。ごゆっくり」
お、エンキドゥもそういった気遣いができるようになったか。成長が早くて結構結構。できることならいつか友達でも作って家に呼んでくれや。歓迎してやるからよ。
だが……名前は同じでも存在は違うはずだし、ギルガメッシュと親友になって盗んだバイクで走り出す的なことにはならないと思うんだが、少し不安だ。エンキドゥは純粋だからな。作りたてだし、精神の未熟さで言えばそこらの五歳児とそう変わらん。
成長して、できることなら大成してほしいものだ。ならなくても構わないが、なってくれるのならそれは嬉しい。友人を沢山作る必要は無いが、親友と呼べる相手を作れるのなら作っておくべきだとも思う。
それもまだ少し早いか? 成長が早くともできることとできないことがある。できないことを無理強いはしたくないが、できることならば自由にやらせてやりたい。
作った俺が言うのもあれだが、エンキドゥは優秀だからな。