俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、流し込む

 

 ギルガメッシュと言う子供は、神の血が混じっているだけあって人間がかかるような病には一切かからずすくすくと成長した。週に一度は両親と一緒に俺の店に来て、俺はその度に子供でも食べられてかつ腹を壊さないようなカレーを作ってやったし、両親の方は相も変わらずいちゃいちゃしながら周りに甘ったるい空気を振り撒いていた。

 いや、夫婦仲が良いことは悪いことではない。特にこの一人と一柱は自身の仕事はきっちりやっているし、やらなければいけないことをやらないままにすることも殆どない。たまに忘れてるが、そう言うのは誰にでもあることだ。わざとではなくかつ致命的でもない失敗にいちいち目くじらを立てるようなことはするつもりはない。やるのも面倒だし、店の雰囲気を壊してしまう。

 だが、ギルガメッシュを間に挟んでいちゃつくのはやめてやれ。カレーは美味いのになんか空気が甘いから味が微妙って顔をしてるだろうが。精神的なものだから見逃してるが、実際に甘くなったら蹴り出すぞ。

 

 ……比喩表現が現実になるのは神話では日常茶飯事だ。いつ空気が甘くなるのかと正直戦々恐々している。ヘスティア様、ヘスティア様、文字の権能を司る神よ。どうかこの比喩表現が現実にならないように抑えといてくれや。

 OK~、抑えるぜ~超抑えるぜ~(自演)。まあそう言う訳で俺はそこまで甘い空気は感じない。物理的に甘くないのだから甘いわけがない。そう言う事にしておこう。面倒だし。

 

 それはそれとしてギルガメッシュ……型月ユーザーなら『子ギル』の方がわかりやすいかもしれんな。子ギルはすくすくと成長し、いつの間にか自分の足で立ち、そして歩くことができるようになっていた。某親バカは初めてギルガメッシュが立って歩いた日を祝日として公布しようとして部下に思いっきり蹴りを入れられていたが、まあよくある光景だ。この時代の、王権が文字通りに神授されている王朝で、王を足蹴にするのが日常に存在していいのかどうかは気にしないことにした。気にしても現実は変わらん。

 子供と言うのは本当に成長が早い。いつの間にか目を開き、いつの間にか言葉を話し、いつの間にか立って歩き、いつの間にか大人になって、いつの間にか死んでいく。……いや、それは人間か。多くの神が人間を子供として呼ぶ理由が分かった気がするな。

 

「まあ、父さんと母さんは置いておいて、カレーくださいカレー。お勧めで」

「激辛と超辛と痛いのとどれが良い」

「お勧めで」

 

 にっこり笑顔と共にそう言われてしまったら、普通にお勧めを出すしかない。選んでくれりゃあかっらいカレーを食べさせることもできたんだが、上手いこと回避しやがる。

 仕方ないので烏賊墨カレー。真っ黒だが味は中々だ。ちなみに具は海鮮系。シーフードは良い物だよ君。

 

「ふむふむ……」

「冷めそうになったら流し込んでやるから安心してゆっくり食うといい」

「安心できない……!あ、でも普通においしい」

 

 そりゃそうだ。客に不味い物出すわけにはいかんだろうよ。そんなことをしたら店としてやってけないっての。

 いや、時には不味い事をアピールして食い切れたら賞金とかやってるところもあるが、不味いのじゃなくて多いのとかで勝負してもらいたいもんだね。この時代だと割と普通にフードファイターが居るからそういう店は相当の盛りにしないと稼げないどころかあっという間に採算取れずに潰れるだろうけど。

 

 ……しかし、本当に最近客が多くなってきた。このままだといつかパンクするな。店は広がったがスタッフが足りん。食品を扱う店だからそこらに居る奴を適当に雇う訳にもいかんし、かといってこのままの状況が続くのはきついしなぁ……。

 

 ……ああ、いや、なんとかなるかもしれんな。ちょっと出かけてくるとしよう。

 その前に、バカップルの口の中にやや冷めたカレーを流し込まなきゃな。有言実行有言実行。

 


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