現状の認識において、恐らく俺が一番理解しているだろう。この事は、恐らく少々不味い。
俺が
はっきり言ってこれはあまりいいことではない。いや、個神的には全く構わないんだが、ギリシャ神話的にもメソポタミア神話的にも自分たち以外の体系の神格との出会いはまだ早い。早すぎる。これが原因で戦争にでもなったらそれこそたまった物じゃない。
だからこそ、俺はひっさしぶりに本気を出すことにした。使う権能は境界。出力はほぼ最大。溶け合おうとしているギリシャ神話の世界とメソポタミア神話の世界の境界をはっきりと作り直し、統合までいましばらくの猶予を作り出す。
今回の事で俺はどうやら思い違いをしていたことに気が付いた。俺の住むギリシャ神話の世界。それはもちろんここにあるが、同時にメソポタミア神話の神々によって作られた世界や日本神話と後に呼ばれることになる神話によって作られる世界、また、一神教と呼称される唯一神によって作られる世界などが存在し、それぞれが近付き合い、時に離れ、安定していない。
だからこそ、多くの神話で世界を巻き込むような戦争があってもそれが他の世界をも巻き込むことは無く、同時に世界を作り上げたと言う神話がいくつも存在していたと言う訳だ。
しかし、今回の場合は少々話が違う。すでに出来上がった世界同士がくっつき、融合を始めようとしていた。俺はそれを一時的にだが抑え、少しずつ馴染ませながら行おうとしていた訳だ。急な変化には被害がつきものだ。その被害は少ない方が良いだろう。
だが、この動きは止められない。やがていくつも作りあげられた世界は統合され、俺の知る世界に近付いていくことだろう。世界の中には神の作った世界の他にも、神が関与していないまま偶発的に作り上げられた世界も存在する。そういった世界もまた統合の余波を受けることだろう。
小さな世界が統合に巻き込まれれば、その世界の枠組みは圧砕されて中身が溢れ、粉々になった構成材料の一部を失いながらも新たな世界の一部として存続していくことになる。巨大な世界と統合すれば、その巨大な世界の内部に直接的に世界のまま取り込まれ、巨大な世界の中に浮かぶ小さな世界として存続していく可能性もある。そしてそれまで巨大な世界では起きなかった出来事が、突如起こるようになることもある。
俺の知っている出来事で言えば、それまでは世界中のあらゆる場所で研究されていたにも拘らずまったく固まろうとせず、慎重に運ばなければ即座に爆発するグリセリンが、ある日を境に突然世界各地で結晶化するようになったと言うものがある。これはそれまであった世界に突如現れた新たな概念や物質によって世界がほんの僅かに変質した結果、今までではありえなかったことが全世界で同時多発的に起きたのだ。世界では、たまにそう言う事が起きるのだ。人間が知ることばかりではなく、人間が知らないところでも。
まあ、世界と言うのは少しずつ変わって行かなければ衰退するものだ。急激な変化は破滅を呼びかねないが、完全な不変と言うのもまた自然ではない。言ってしまえば破滅もまた自然の一つでもあるのだが、それはまあ俺の居ないところで勝手にやってくれ。俺の居るところには、そう簡単には破滅は起こさせん。
……よし、終わったな。帰ってカレーの匂いのするシチューでも作るとしようか。カレーではなくシチュー。美味いもんだぞ? シチューもな。