俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、奢る

 

 ルガルバンダの事はよく覚えている。なにしろ純粋な人間の身でありながら神にまで成り上がった奴だからな。ニンリルの奴と結ばれてから暫くは人間のままだったが、関係を続けているうちに少しずつ人間の部分が神へと変わって行き、気付けば本当に神になってしまった。

 その報告に俺の店に現れ、またイチャイチャと睦み合っては店にたむろする独神に舌打ちされているのは……もう一種の恒例行事のようなものだと思っていいだろう。一部からは『爆発しろ』と言う言葉も聞こえてくるが、その言葉を教えた身としては有効活用されていてとても嬉しい。言っている方も本気で言っているわけじゃないようだしな。

 

 そんな感じで色々とやることをやって来たルガルバンダだが、この度子供ができたらしい。ふっくらと膨らんだ腹を撫でるニンリルを連れてカレー屋に来るかね普通。ムードってもんが欠けてると思うんだが。カレー屋だし。

 連れてきてもいいが、一応王なんだから護衛の一人や二人連れて来い。ニンリルが神だからと言って、絶対に堕胎しないと決まったわけじゃないんだぞ? 何か事故や事件でも起きたらどうする。確かに俺は孤児の守護者であると同時に孤児の数が増えることを良くないことだと思う神としては変わり者だが、孤児が減るからと言って流産や堕胎が増えるのは良くない。まったくもって良くないことだ。

 子供の名前は……まあ、まず間違いなくギルガメッシュだろう。この辺りの発音に近くするならビルガメシュと言うのだったか? 何にしろ良いことだ。ここは一つ祝いの席でも設けてやるか。具体的には今日食べた分の金は貰わないってだけだが、神から物を貰うって時点で結構なことだ。俺は神じゃなく神に動かされる人形のようなものだが、中身に関しては同じだ。そう変わらんだろう。

 

「あら、おめでとう。いい男の子だったら私が筆卸ししてあげてもいいわよ?」

「お前、男に対しての理想が高すぎるんだよ。お前の理想の男とか、全ての神話世界を十万年巡ってもそういないからな? 自覚しろ?」

「どうせ老いない身なのだから、別にいいじゃない」

「俺は別に構いやしないが、お前の理想であるかどうかを確かめようとして無数の試練なんて出されたら大概の男は面倒くさくて離れてくっての。俺には見えるぞ、お前の昔の所業を知ったルガルバンダの息子が結構本気でそいつに惚れたお前の告白をにべもなく振り払う姿が」

「おいやめろ。お前が言うと本当に起きそうで怖いだろうが」

「確信している。まず間違いなく起きるだろう」

「やめろ

 

 やめろ」

 

 二度も言われてしまったのでやめることにする。まあ、俺には予言の権能は…………あ、うん、そう言えばガイアから貰ってたか。慰謝料代わりに。

 やばい、どうしようか。マジで起こるかもしれん。本当は起きない未来があったかもしれんのに、その未来を塗り替えてしまったかもしれん。これはまずい。

 

 ……仕方ない。(ヘスティア)の方で予言の権能をひっくり返して、今の言葉を無かったことにしておこう。それに加えて遊戯の権能で今の言葉を言葉遊びとして意味の無い物に変えて、これで良し。未来が変わったかもしれないと言う可能性の存在を限りなく薄くした。これでも振られたらもう偶然としか言いようがないな。八当たってくるかもしれんが。

 その時のために美味い酒でも作っておくとしようか。酒造の権能が無くとも酒は作れる。自然界で作れるくらいなのだから、その作り方を知っている俺が作れない理由は無い。それに、(ベル)はともかく(ヘスティア)は酒造の権能持ちだ。知識だけなら持ってこれる。技術についてはまあこっちで何とかしよう。

 ……蒸留酒を美味くするためには樽が欲しいんだが、この近くには森が無い。一番近くの森にはフンババとか言う神獣が住んでいて木を使えないし、どうしたもんかね。

 


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