俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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14:30頃に一話投稿しています。まだ読んでいない方はそちらからどうぞ


竈の女神、完成させる

 

 北欧神話では、神々の持つ武具には名前がついていることが多い。それは最高神であるオーディンの神槍グングニルであったり、雷と戦争の神トールの持つ雷槌ミョルニルであったりと名前も形も様々だ。

 また、別の神話においても神の持つ特別な武具には固有の名称が与えられる。ヒンドゥー教の主神、インドラの持つ金剛杵ヴァジュラ。日本神話の武の神、建御雷の持つ十握剣。ケルト神話の主神、ルーの持つ魔弾タスラム。その他にも多くの神々の持ち物に名が存在する。

 しかし、ギリシャ神話において神々の武器に名が付くことは殆どない。後に主神となるゼウスの武器である雷霆はそのままゼウスの雷霆と呼ばれているし、クロノス(クソオヤジ)の武器である大鎌もただアダマス製の鎌としか呼ばれていない。名が無いからこそその武器が敵に奪われても戦いに赴くことができるのだろうが、その前に個人認証機能の一つや二つは作っておけと言いたくなる。

 そういった点では、某作品の宝具と呼ばれるそれは非常にいいシステムだと言える。武器を奪われようともその真名を発して最大の性能を発揮するには本人である必要があり、それを覆すには非常に特殊な事例を作らなければならない。そんなセキュリティを用意しておくのは、専用の武器の一つの在り方としてはありなのではないかと考える。

 そして、今回俺が作った武器は間違いなく俺専用の、ほぼ俺以外は使うことのないものだろう。大きな鎌や投槍や弓矢を武器とする中で、わざわざ短剣を使おうとする神は存在しないだろう。人間なら話は別だが。

 

 そう言うことで、俺用の武器の試作品が完成した。炉の温度の調節を権能で行いながら、太陽炉の熱で解けたアダマスをある程度の形に整えてから丁寧に打ち上げていく。アダマスは残念ながら刀のように加工することはできなかったが、それでも十分に固く丈夫な物を作ることができた。真金と刃金を作り分けることができなかったのだから仕方無い。正式な日本刀の作り方も知らないし、仕方ないと言えば仕方ないんだが。

 作り上げたのは、ただひたすらに頑丈なだけの短剣。取り敢えず作れるだけ作ってみたが、よくよく考えればわざわざいくつも作り上げるよりも作った武器が分裂増殖を繰り返すようにできれば早かったんだよな。個数も一つで済むし。次回作ることがあったら、近接用の物と投擲用のを作ろう。投げたら手元に戻ってくるようにするよりも、相手に刺さったら抜けにくくしたい。具体的には細くて鋭い返しが刀身に何十何百とある棒状のやつがいい。切れ味は求めないからとにかく刺さりやすくてついでに刺さった先で先端だけ残して折れるように工夫したい。それができれば相手にいつまでも痛みを与えられる。殺せない存在を相手にするなら殺すのではなく壊すか狂わせればいい。封印するのも一つの手だが、俺は竈の女神様ってこともあって封印すると中身が保存できない。なにしろ俺が封印しようとすると封印の中身が炉になるからな。困ったもんだ。

 まあ投擲用のはともかくとして、近接戦用に作ったのはそれなりに良い出来だ。折れず曲がらずよく斬れると言うのが日本刀の真価と言われているが、この武器は本当に折れないし本当に曲がらない、だからこそいつまでもよく斬れる、と言ったところか。

 ……どこかで聞いたことがあるな、このフレーズ。まず間違いなく前世で、刀の類が良く出てきた作品だったと……刀語か。一本目の鉋とかいう刀のキャッチフレーズだったか。丈夫さをとことんまで突き詰めた、ただひたすらに頑丈なだけの刀だったはずだ。

 刀ではないが、目指している先はこの短剣と同じだったようだ。俺はそこにさらに増えると言う能力を付加させたいのだが、流石に難しいところがある。竈の女神が未来の知識の逆輸入とか、まあ無理だ。そういったことができるのは、ギリシャ神話においてはアポロンと、そもそも神託を出すことができるガイアだけ。それにアポロンの場合は自身で未来を見るのではなく、ガイアからの神託を受けることによってでしか未来を知ることはできなかったはずだから、事実上ガイアのみと言うことになる。ヘスティアの実の祖母ってことになるな。

 …………可能性としては、ありえる……のか? 未来予知はガイアの権能にははいっていないはずだが……ギリシャ神話には時間神はクロノス(NOTクソオヤジ)しか存在しないはずだし、そのクロノスも存在はしているものの誰から産まれたとか誰との誰の間の子だとかそういった話がないために、もしかすると原初神カオスから産まれた存在であるかもしれないと言われている。

 もしそうだとすると、ガイアやタルタロス辺りと同じように有名になっていておかしくない筈が、ギリシャ神話においてクロノスと言えばクソオヤジの事として語られていることが非常に多いほど知られていない。

 となれば……未来にてカオスから産まれ、時を遡って来ていると言う可能性があるわけだが、それは俺には関係のないことだ。時を遡っていようが未来の神格だろうが知ったことではない。時を操られるのは正直に言ってきつすぎるが、クロノスと言う神はクソオヤジと違って非常に理性的だ。同時に引きこもりでもあるがな。神話に全然エピソードがないと言うだけでもその引きこもりっぷりがわかる。まあヘスティアもヘスティアで相当あれだが。

 

 ……まあ、なんにしろ今の俺には関係のないことだ。仮の武器は完成したことだし、本番といこう。

 


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