俺のカレーの名声はどうやらかなり広がっているらしい。何しろわざわざ王が王宮に呼びつけてカレーを食わせろと言ってくるくらいなのだから、その有名さがよくわかる。
ただ、俺が王宮に行くとなると店には誰もいなくなってしまう。店に誰もいないとなると今日も腹をすかせた奴らにカレーを食わせてやることができなくなってしまう。それは孤児の庇護者で……は、無いんだが、孤児の庇護者であるヘスティアを祀る巫女としては少々見逃すことのできないことだ。
なので、俺は王からの呼びつけに対してこう返した。
「神すら来て食っているんだ。王だって来て食え」
ちなみに、その時カウンター席に座っていたのは最近少々太ってきたことを気にしつつもカレーから離れられなくなってしまったイシュタルだった。そんなイシュタルのための特製の薬膳カレー、具体的には物を食べ、食べた物を消化するのに使うカロリーを数十倍にまで上げる効果を持ったダイエットカレーだが、人間には劇薬にしかならないだろうカレーを食べ、滝のように汗を流しながらカレーと水をどんどんと腹の中に流し込んでいく。
みるみると張っていたお腹がへこんでいくのを見て、ある程度のところで効果を中和するカレーを食わせるようにしたのだが、やはり急激な変化は身体によくなかったらしく数日は空腹を抱えていることになったらしい。まあ、あくまで俺は『いくら食べても太らないカレーを食べたい』と言う要求に応えて痩身薬膳カレーを作って食わせただけだ。俺は悪くない。
……痩身薬膳カレーだが、実は混ぜる物の比率を変えることである程度永続性を持たせた上でどこから落としてどこは残すかを決められたりする。例えば、気に入らない相手に対して相手に合った物を盛ることができると言う事だ。
貧乳で悩んでいる相手に対して、胸からつけて腰から落とすようにすることもできるし、逆に腰からつけて胸から落とすようにすることもできる。俺の胸先三寸だ。
今回イシュタルに食わせたのは、まず腹と内臓から落とすようにしたもの。この二つが落ちるのはそう悪い事でもないし、基本的にはそこから落としていくことになるだろう。もうわざわざこんなものを作ることが無いといいんだがね。節制節制。できないから太ってるんだよな。また作ることになりそうだ。
それで、王に対してそう伝えたのが三日前。そして今日。
俺の前には、カレーを貪るイシュタルと、イシュタルの紹介でやってきたニンスンと言う女神、そしてこの時代の王であるルガルバンダが並んでいた。
「ルガルバンダ……」
「ニンスン……」
「なあ、イシュタル。なんか俺の店に来て突然メロドラマ始めた女神と王がいるんだが」
「むぐむぐ……どうでもいい。むしろそろそろ結婚した方が良いだろうと思って社会見学のつもりで連れてきたからこれでいい。おかわり」
「いいならいいけどな」
毎日のようにカレーを食べているイシュタルだが、毎日カレーばかりで何故飽きないのかよくわからん。普通は二三日続けば飽きるだろうに、半年以上もよく飽きずにいられるものだ。一応ある程度味は変えているが、基本の味は同じなんだから飽きが来るのも早いと思うんだがなぁ。
と言うか、そこでいちゃついている王と女神。店に来たからには何か頼め。カップル用に特別メニュー作ってやるから頼め。少々割高だがな。
そして、カップル用の物を食べているのを見て甘ったるくて仕方のない奴にはこっち。苦み走るコーヒーのようなもの。実際にはコーヒー豆が手に入らなかったのでそこらの野草を選んで焙煎してから煎じたものだが、それでもまあ飲むことはできる。飲めないほど苦くしても、隣の奴らが甘ったるい空気を振りまいていれば不思議と飲めてしまう一品だ。
「で、いる?」
「あー、いらないよ。ちょっとイケメン見つけてくるから」
そう言ってイシュタルはさっさと消えてしまった。金払いは良いんだが、この性格がな。なんと言うか、未来で同じ美の女神に『品性が足りない』とか言われてしまいそうな性格をしている。その辺りで損することになるんだろうな。知ったことじゃないが。