俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、神に会う

 

 神と言う存在には、大きく分けて三つの種類がある。一つは男神。一つは女神。そして最後に異形の神だ。

 当たり前だがこれはかなり大雑把に分けたものだし、性別以外にも分ける方法は存在する。例えばその神の性質として破壊や悪逆などを是とするようならば邪神や悪神と呼ばれ、秩序や平和、守護などを是とするならば善神と呼ばれる。あるいは人間の都合や他の神との兼ね合い、戦いの勝敗によっても善神悪神邪神などの呼ばれ方は変わってくる。

 古代バビロニアにおいて、知られる神の殆どは善神である。しかし、同時に善ならぬ一面も併せ持っていた人間らしい神でもあった。

 基本的には人間に乞われ、崇め奉られ、加護を与えて国を守るような神も、時には人を滅ぼすような事を平然と行う。有名どころで言えば、イシュタルとギルガメッシュの話が分かりやすいだろう。イシュタルはギルガメッシュに惚れ込んで婚姻を持ちかけるがギルガメッシュに手酷く振られ、腹いせに父親を脅して天の牛(グガランナ)を作らせ、その牛をけしかけて多くのウルクの人間を殺した。

 神の怒りとは大きなもので、大概の場合多くの人間が巻き込まれることとなる。俺は神として産まれてから今までにそこまで大きな怒りに呑み込まれたことは無いのでわからないんだが、もし俺が本気で後先考えずに怒り狂うことになったら同じように関係の無い物まで巻き込んでしまうかもしれないな。

 

 だからと言って俺はその未来を無くそうとは思わない。ここは俺の治める地ではなく、ここは俺の加護の届く地ではなく、ここは俺の加護を受ける者の地ではない。この国、古代バビロニアにおいて孤児の庇護者とされる神は存在しないが、多くの都市にそれぞれその都市を守護する神がいたとされている。

 ここ、ウルクの都市神はイナンナと呼ばれる金星の神であり、基本的に理不尽なことをすることはあまりない神であったと記憶している。怒った時の話が『自分が死んで喪に服している時期であるにも拘らず夫が着飾って遊びまわっていた時』くらいにしか怒っていないのだから、その気の長さが察せると言うものだ。

 気弱であったと言う訳では無い。もしそうであったなら、世界の創造者でもある知識の神エンキから文明の術の根幹でもあるメーを奪って逃げたりはしないだろうし、追手から逃げきって自身の国まで持ち帰ることもできなかっただろう。

 

 ……で、ここで一つ俺とイナンナの間に関係がある話がある。

 イナンナは、アッカド期にはイナンナではなくイシュタルと呼ばれ、ヴィーナスやアフロディテと同一視されることもある女神であるのだ。

 

 アフロディテと、同一視、されることもある、女神なのだ。

 

 まあ、だからと言って本当にアフロディテと同一であるわけではない。後世でそう言われるようになったと言うだけで、実際にはアフロディテとはまた別の神である。

 ただ、同一視されることもあるだけあってそれなりに似ている所も多い。性別や司る物もそうだし、食事の好物も似ている部分がある。そうでなければ―――

 

「ほめめえぅひぁをも、うぃっはいももうぃゃんもょうま」

「無くならないから食いきってから言え」

「……(モグモグモグモグ……ごっくん)。それでヘスティア殿、ここにいったい何の(パクリ)ょうまあっれ(モグモグ)」

「途中で口ん中に追加すんな何言ってるかわからなくはないが聞き取りが死ぬほどめんどいだろうが」

 

 と言うかなんで追加した。会話の途中でなんで思いっきり口ん中に頬張った。まるで意味が分からないんだが。アフロディテですらここまで自由(フリーダム)じゃなかったぞ? 理解できん。そんなに美味いかこれ? 俺からするとある意味型落ち状態だからそこまでの物じゃないと思うんだが……。

 毎回進化させることもなく、進めていくこともなく、ただそれまでと同じものを作り続けるだけの道具をどうしてそこまでいい物だと思うのかがよくわからん。人間なら無限に食料の出てくる釜を後生大事にしたいのはわからなくもないんだが、神がわざわざ大事にする理由がわからん。

 

 ……だが、利用できるものは利用するのが俺のやり方だ。ウルクをカレーで染め上げてやろう。

 


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