俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、国を見る

 

 笑顔で満ち溢れた国。誰もが暗い顔をしている国。古代バビロニア、ギルガメッシュの治める時代では、その二つの顔のどちらも持っている。

 ギルガメッシュは暴君であり、そして同時に賢王でもあった。その二つの顔の境界に存在していたのは、やはりと言うか彼の唯一の友、エンキドゥとの出会いであったことは間違いない。

 その出会いの際、国の様々な物を粉砕して回るほどの大喧嘩となったと言うのは有名な話だが、その喧嘩が無ければ恐らくギルガメッシュがエンキドゥを友として認めることもなく、同時にギルガメッシュが賢王として国を治めたと言う話もなくなっていただろう。

 

 ……だが、その戦いが起こるのは恐らく今から見れば未来の話。ざっと数十年……数百年? 以上も未来の話だ。俺の意識からすれば、ここは過去。およそ三十六万……いや、一万四千年だったか? まあいい。俺にとっては過去とは全てが昨日の出来事であり、未来とは全てが明日の出来事だ。無限の寿命を持つ存在にとっては、明日も一年後も百年後もそう変わった物じゃない。少なくとも俺にとっては百年なんてのはあっという間の事だったし、千年でも変わらない。それはきっと俺が生きている限りは変わりゃしないことだろう。

 そう考えれば、現在のこの国の状態にも納得は行く。俺が暮らしていた頃の日本の首都と比べるとあまりにも少ないが、それでも現在の国の中では非常に多くの人間が暮らしている。ここには黒髪の人間も金髪の人間もそれなりの数が存在するから俺が居てもそう目立たないし、ついでに二つの河に挟まれ、更に海まで近くにあるためか現代からすれば非常に進んだ文明を持っているように思える。良い国だと言えるだろう。

 しかし、この国を治める神は何を考えているんだろうな。この国の守護神は……イシュタルか。いったい何がどうすればこんな歪んだ国ができるのやら。神と言う上位者が存在しながら、神から王権を受けることの無い王が立ち、そして人間を治めて国家を運営する。そこまでは未来における国家と同じようなものだ。

 しかし、神は時に人間の国家に対して要求をしたり、少々無理難題と言われる類の無茶振りを行う。ちなみに俺はそう言った無茶振りはしたことが無い。人間達に対して要求しているのは、自身の行動に責任を持つこと。喧嘩を売って、反撃されたからと言って守ってやる気は無いと言う事。そして俺に対しては年に一度の祭りでその年に取った材料を使って作る最高の料理を一つ提出すること。それくらいだ。

 ただ、そんな僅かな物でも出した結果飢えて死ぬ者が出ることもある。そう言う事にならないようにするために俺は少々科学的なアプローチに入る。今の俺に豊穣神の権能は無いからな。だからデメテルに頼むかガイアのばーさんに頼むかしなくちゃならんのは仕方のないことだ。できねぇんだもの。

 ……絶滅の権能を反転させても繁栄になって種類が増えたりはしても絶対数はあまり増えないし、破壊の権能をひっくり返しても再生とか再誕とかにはなっても豊穣とかにはならないからなぁ……。

 農作の権能は持ってるから少しのブーストを付けることはできても、それはあくまで農業に関わる作業についての加護であって作業に必ず結果をついてこさせることはできない。本当にただ農作を行うだけの権能だ。

 だからこそ自身で農作を行うことができるし、農作に関しての技術改革やら何やらが行われる機会も増えることになる。技術はそのまま、作る奴の勝負になるわけだ。

 

 なお、バビロニアにも都市の守護神である神は存在する。どの都市、ではなく、あらゆる都市の守護神だ。立ち位置としては俺と似ているかもしれないが、実際には俺とは全く違うものとなるだろう。相手は創造神で、俺はちっぽけな竈の神。ついでに俺は女神だがあっちは男神だ。同じ事と言えば、権能に都市の守護が入っていると言うところくらいなものだ。

 ……神殿を見付けたら挨拶に行くかね。

 


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