俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、地上を歩く

 

 地上に降りてしばらく行動していると、この身体のことについて色々なことが分かってきた。

 まず、休息は必要だが睡眠は不要であること。これは恐らく精神が神の物であると言う事が関係しているのだろう。神が睡眠を必要としないのだから、神が動かす身体も睡眠を必要としない。無論、睡眠が取れない訳では無いのでその辺りは臨機応変に、と言ったところだ。

 また、睡眠中でも周囲に何かが近付いて来ればそれに反応できる。獣であったり、人間であったり、魔獣であったりするが……まあ、問題ない。殺そうとすれば殺せるし、相手がよほど飢えていない限りは敵対的な感情を向けられることもない。

 そして、人間として作ったためにこの身体は食事を必要とする。これには少々困ったが、ヘスティア()が作り上げた神器をベル()に下賜することで解決した。

 ちなみに、俺が作った神器には原典が存在する。原典と言っても、案はそこから出したと言うだけで実物はまだ存在していないのだが……『ダグザの大釜』だ。

 ダグザの大釜はケルト神話に存在する、無限に食料が湧き出てくる神器である。これを使えば権能が増える以前のやや中途半端な腕でしかなくなってしまった人間の俺の技術でも魔力と呼ばれることの多い力を流せば料理が溢れ出してくるようになっている。これで飢えて死ぬことは無くなった。

 ちなみに名前は『へす印の大釜』だ。まるへすマークがついているため、俺の物ならすぐわかる。このマークを削って無くそうとしたり、全体を土か何かで塗り固めたり、新しく印を刻もうとしたりすると全体が自壊して土塊になるので奪われても安心だ。

 こう言うのを奪って自分達の神話に組み込んで自分達を上げつつ他を貶めるのが大得意な神話があるからな。そう言う奴らに使わせてやる気は無い。向こうから『お願いします』と頭を下げるのならともかく、無理矢理武力で奪い取ってしかもそれを自分たちの神が作ったとか平気で言うからな。

 まあ、その宗教も今は確立されていない。だからもしも本気でやるならその宗教が確立されないようにそう言った思想を作ろうとしている奴が自立しないうちにさっさと殺してしまうのが一番手っ取り早いんだが、流石にそれは未来への影響が大きすぎる。それに、その思想を広めようとした存在は恐らく本気で世界の人類の救済を求めていた狂人か、あるいはそうして広めた結果としてお布施やら何やらで楽に暮らそうとするクズかの二択。そして広め始めたばかりの頃にお布施なんてもらえるはずもなく、まず間違いなく前者であると思われる。

 勿論他にも可能性はある。神と呼ばれるような存在、あるいは悪魔と呼ばれる存在が自身の力を増すために人間にとって唯一の神であると吹聴し、それを力を持って人間達に信じさせ、信仰されることによって神になり上がる。神とは信仰を受けて存在を変えるものだ。つまり、元が悪魔であろうが神であると思われ、神として信仰されれば元の存在から乖離したそう言う神が産まれてしまう。

 要するに、やろうとすれば俺がヤハウェの神官と名乗ってヤハウェの奇跡として様々な救済を行っていけば、俺自身がヤハウェとして立つことも可能となるわけだ。

 ……後々の被害を抑えるためだとするならここでそうやって俺が一神教の神になって細々と過ごしていくのが一番である気がするが、そうなると色々面倒な事がついてくるんだよな。俺自身はあまり人を率いるとかそう言うのは得意じゃないし、正直言ってやりたくない。そもそもできるかどうかわからないし、やったとしてもしっかりと管理していなかったらその信仰だけ別の存在に取られてしまうと言う事すらあり得る。別口で信仰を受けている俺は、そう言うのに鈍いからなぁ……。

 それに、俺のスタンス的にはどうしようもないやばい失敗でもしない限りはできる限り人間相手に神として振舞うことはしないつもりだし、加護を与えたとしてもそれはあくまで理不尽に対する防壁のようなもので、自業自得な出来事に対しては反応しないようにしてある。つまり、人間相手にガンガン加護を与えたり、天使を使わしたりすることは俺の性に合わないと言う事だ。絶対どこかで破綻するだろう。

 


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