俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の女神、泣き付かれる

 

 性癖としてよく聞かれる言葉に、『ホモ』と言うものがある。これはよく男同士の恋愛観において使われるのだが、実際には『ホモ』とは男同士に限らず『同じ物』と言う意味を持っているのだ。

 ちなみにだがこの言葉の語源はギリシャ語。『同一の』あるいは『よく似た物』と言う意味であり、対義語はヘテロ。俺が人間として生きていた頃に恐らく一番よく見かけた物で言えば、人間の血液型だろう。

 人間の血液型は、一部の特殊な物を除いて四種。A型、B型、AB型、O型の四つ。実際にはこの血液型と言うのは二種類の優性の物と一つの劣性の物の組み合わせで表され、AAとAOがA型とされる。同じようにB型はBBとBOの物が。AB型はABが二つ揃って初めてAB型とされる。Oは少々特殊で、どちらも劣性であるOOでしか存在しない。

 この中で言えば、AA、BB、OOがホモ接合型であり、AO、BO、ABはヘテロ接合型と呼ばれる。

 なお、人間を表すホモ・サピエンスにもホモと言う言葉が使われているが、こちらの場合は語源はラテン語であり、人、と言う意味を持っている。この二つの間には何ら関係があるわけではない。そもそも片仮名で書けば同じように見えるかもしれないが、実際には発音が違う。同音異義語ですらないのだから、意味が同じであるわけもない。

 ……しかし、不思議なことに人間の細胞……正確には遺伝子の中には、なんと男同士、あるいは女同士で恋愛関係になりやすくなる遺伝子が存在するようだ。だからだろうか。古今東西で男色の話が存在するのは。

 人間にそう言う細胞が存在する。ならば神にはそう言ったものが存在するのか。それは神の身体をしっかりと調べ、いくつも並べて比較してみないことにはわからないが───細胞を司る神として断言しよう。そういった細胞は『神にも存在する』と。

 そして恐らく、所謂美の神と呼ばれる神にはそういった遺伝子が含まれていると思われる。そう思った理由は簡単だ。ヘファイストスがアフロディテと同衾したら美味しく頂かれたと泣き付いてきたからだ。どうやらアフロディテは男も女も行けるクチらしい。そしてアフロディテは、ヘファイストスが自分を結婚相手に指名してきたのだからてっきりヘファイストスも同じ趣味なのだろうと思っての事だったらしいが、残念ながらヘファイストスにはそう言う事への知識が足りていないからな。そんな気は全く無かったわけだ。

 だが、まあ、実際には色々と美味しく頂かれてしまい、アフロディテに連れられて俺のところにまで来たわけだ。と言うか、アフロディテはよく俺の家を知ってたな?

 

「ゼピュロスに聞きましたの」

「そうかい」

 

 まあ、俺としては俺の目の前でじゃなければこいつが誰と何やっていようが構いやしないんだが、そもそも俺はこいつのことがあまり好きじゃないからな。まあ、ヘファイストスの嫁と言うことだし、軽く茶くらいは入れてやろう。

 

 俺より図体が大きくなったにも拘らず俺の胸に顔をうずめてかなり本気で泣いているヘファイストスの頭を撫でつつ、適当に茶の準備をする。この時代で言えば酒の方が一般的で茶なんてものは実は存在しなかったり、あるいは薬として美味くも無い物を飲むくらいでしかないんだが、俺がそんな不味い物をそのまま飲むわけもない。ちゃんと品種改良してそれなりに飲みやすい茶葉を作り、好みで砂糖も入れられるように甜菜も育ててみた。まさか甘味の権能なんてものまであるとは……おかげで高品質な砂糖が良く取れるから構わないがな。

 紅茶もいいが、俺は緑茶も好きだ。番茶も悪くないし煎茶だって普通に美味いと思える。安い舌を持ってんだよね、俺。

 どうにも高級食ってのは理解しがたい。安く、それなりに上手く作れればそれでいい気もするんだが、どうにもそうはいかないらしい。どこまでも美食を求めるが故にいくらでも金をかけ、いくらでも手間をかける。俺はかけた時間と金額を味と天秤にかけてしまうから、どうしてもそこそこの料理しか作る気にならんのだ。そこそこの料理でも美味い物は美味いしな。

 

「あ、新作の甘味食ってくか?」

「いただきますわ」

 

 よし、それじゃああんみつ出すか。程よく冷えたあんみつの美味さは異常。

 


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