ヘファイストスが一つ黒歴史を作り、俺の家から出て行ってから暫くしてからの事。ヘラが俺に相談をしに来た。
その内容は、ヘファイストスが男を相手にするより女を相手にするようになってしまったのはどうしてだろうかと言う物だったが、そんなもの俺に聞いてどうするんだよ。本神に聞け本神に。
だがまあ、予想するだけなら十分できる。ヘファイストスがここで暮らしている間、あいつは様々な男に出会ってきた。ほとんどは俺の弟妹達だが、一部父親や母親、それに加えてそう言ったところから話を聞いたのか様々な神が俺のところにカレーを食べに来ている。そしてその時、ヘファイストスはそいつらと顔を合わせていると言う訳だ。
だが、ヘファイストスの顔にはまるで顔に火でも着けたのかと思わせるような痕がある。それを見た神の多くが顔をしかめ、眉を顰め、見たくも無い物を見たと言う反応をしたのだ。その多くは男であり、更にそう言った男神はその感情を全くと言って良いほど隠そうとしない。そうなれば当然、ヘファイストスにもその感情は伝わる。俺が一応そう言った感情は隠す努力くらいはしろと言ってから口に出す者はいなくなったが、それでもどういった風に思われていたのかはわかっていただろう。
そんな中で、男神に比べて大分そう言った感情を隠すのが上手いのが女神だ。男神には出来ない内心の隠し方は女神特有のもの。俺の場合は自分の保護下にある子供に対して嫌悪感を抱くことは殆ど無いし、外見だけで相手に対する感情を決めることもそうそうない。だからこそ、男神よりも女神を相手として選んだのではないか、と、そう俺は思う訳だ。
まあ、その相手にある意味で百戦錬磨のアフロディテを選んだのは趣味が悪いと言うか色々と問題が出てきそうな気もするが、それは俺の業務範囲外だ。俺は今回のことでヘファイストスをある種大人になったと思っている。孤児カウントからは外すことにして、これからはヘファイストスが誰かを愛していけるようになればいいと願っている。
「……で、それだけじゃねえだろ。具体的には……そうだな、ゼウスとの間に新しく子供ができたけど育て方は良いとして教育がちゃんとできるかわからないし、どんな子供になるか不安だから相談に乗ってほしいってところか?」
「……そう、だけど……よくわかるね」
「妹のことだからな。集中して顔を見てればだいたいわかるぞ」
「……」
「腹の中に子供がいるのに酒は飲ませんぞ」
驚かれた。わかると言ったのをあまり信じられていなかったようだ。まあ、普通は冗談だと思うよな。実のところ冗談じゃなく、なんとなくわかる程度の物なんだが。
まあ、時間的に考えるのならば今回産まれてくるのは戦争の神アレスだろう。次が青春の神ヘーベー、そしてお産の神エイレイテュイアの順だ。青春の神ヘーベーは本来神の若さを保つ神酒ネクタルや神食アムブロシアを生み出す役割を持っているんだが、実のところそんなものなくとも神は老いないし死にもしない。もしも俺がカレーの権能を持っていなければ生粋のカレーの女神になっていた可能性もあるが、それももうなくなった。
で、アレスだが……恐らくヘラは成人の状態で産むだろう。その方が色々と楽ではあるし、やろうとすれば人間のように産むのではなくもっと簡単にポンと産むこともできるのだから。
ただ、それだと代わりに教育の機会は失われるし、ついでにアレスと言えばアフロディテとの不倫がとても有名だ。産むのは構いはしないし、どんな形態で産むのかも構わないが、とりあえず今の状態ではあまり良いことにはならないような気がする。そうなったとしても今回のことはヘファイストスの黒歴史レベルの大失敗が元になっているわけだし、助けを乞われたら多少の手助けはするだろうが基本的に自分の力で頑張ってもらう。俺から独立したのだから、それくらいはな。
ちゃんと大人として、自分のとった行動の責任くらいは取れるようになってもらわなくちゃ困る。無責任なのは良くないからな。
「そう言えば、ヘファイストスがお前になんかやったらしいな。何やったんだ?」
「……言いたくない」
「わかった、じゃあいいや」
どうやらよほどのことがあったらしい。ほんと、何やったんだか。