俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の女神、酒を造る

 

 ハブと言う蛇には毒がある。これはとても有名な話だが、間違いなく事実である。

 そして同じように有名なのが、ハブ酒と言う酒の存在だ。この酒は強いアルコールにハブを漬けて数年ほど寝かせることで毒などをほとんど気にすることなく飲むことができると言うものだ。

 勿論飲み過ぎれば気分が悪くなることも十分に考えられることだし、同時にあまりちゃんと準備していないハブを使っても美味い物は作れないと言う問題点はあるのだが、それでも実在する酒ではある。

 

 ギリシャ神話には、ヒュドラと言う毒蛇がいることは非常に有名だ。少し調べればこのヒュドラの毒によって多くの巨人が命を落とし、ギリシャ神話においては不死身とも言えるある神の命すらも奪っている。その神はヒュドラの毒が身体に回ったことで起きる激痛に耐え切れずに神性を天界に返上したせいで死んだのだが、それでも神を殺すことができたと言う点において間違いはない。

 しかも、頭を切り落とすと切り落としたところから頭が倍になって生えてくると言う。そんな頭を使えば毒を大量に集めることもできるし、酒に漬け込んでおくことで酒に滋養強壮効果が付く可能性もある。勿論毒性が付くことも十分に考えられるが、それについては仕方がない。ハブ酒であってもつけておく期間が短ければ毒が消えきっておらずに少し飲んだだけで腹を壊したり体調を崩したりする可能性もある。万が一、もし、ヒュドラを酒にするような日が来るのなら、絶対にその中身は飲むなと言っておくとしよう。死んでも知らんからな、と。

 実際に死ぬかどうかは知らないし、そもそも酒で解毒できるかもわからん。だが、ヒュドラの毒の解毒薬は存在しない。ならば何でも試してみるべきだ。最悪、製薬と創造の権能をフルで回せば多分行けなくともないだろうしな。

 まあ、時間を置くと言ってもそのまま放置し続けるのでは時間がかかりすぎるだろうし、時間を遥かに速く進ませるようにしてやれば待つ時間も相当縮めることができる。便利な権能を得たもんだ。

 その場合、酒も選んだ方が良いかもしれん。ただの酒ならわからないが、神の力や魔力などをたっぷりと含んだ酒なら解毒の可能性は十分にある。まずはその酒を造るところから始めなきゃならんかもしれんな。

 

 材料はいつもの実やら世界の果ての黄金の実を使う。そうして作った酒を蒸留し、酒としての純度を上げる。純度を上げた酒はその効果をより強くする。これでまあ何とか中和くらいはしてほしい物だ。毒性を反転させて滋養強壮効果でも持たせてやればそれが一番手っ取り早いんだが、そう言った短絡的な手段を取らず、できれば神としての権能を使うことなく酒を完成させてみたいところだ。

 ただ、現状権能を使わずに権能を使ったのと同じことができるのはカレー作りと一部の鍛冶仕事のみ。それを考えるとある意味動作の正答を導き出して身体を動かす役目を持つ権能を使わずに全てにおいて解答と全く変わらない動作をするのは非常に難しいと言わざるを得ない。例えそれが神であろうと、だ。

 言ってみれば権能とは司る物に対しての知識や動作のアシストであり、アシストが無くともその水準まで持って行くことができるようになってこそ司ったと言えるのではないだろうか。それに、一度完全にものにした技術は神の身体である以上染み付いて取れることは無い。一度完全に思い通りの物を作り上げることができたのなら、いつでも思い通りに物を作り上げることができるのだ。勿論、自身の技術の届く範囲で。

 なお、権能のアシストによる正答とは無数に存在するものの一つでしかない。アシストされたもの以外にも正答は存在し、それを導き出すには自身で試行錯誤を続けるのが一番である。そうしてようやく権能が成長を始めるのだからな。

 


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