タンドリーチキン。それはインドでよく食べられている鶏肉料理の一種で、ポセイドン的に重要な所を上げるとカレーに非常によく合う食べ物だ。いくつかの香辛料とヨーグルトに鶏肉を漬け込んで、串に刺してから特殊な窯で焼き上げることでできるそれは、カレー好きにはたまらない味となるだろう。
そういうことで俺はまず牛を飼い、乳を搾り、チーズとヨーグルトを作ってから香辛料をヨーグルトに混ぜ込んだものに俺の家の裏庭で老衰していた鶏をさばいて血を抜き、骨を取って一口大に切った肉を漬け込んだ。ちなみにタンドリーチキンはその多くが骨付きであり、骨の無い物はタンドリーチキンではなくチキンティッカと呼ばれることが多い。正直そこまでの差ではないため気にしないでもいいような気はするが、骨は今回は別のことに使おうとしているため取り除いているのだ。
鶏ガラ。塩。小麦粉。とりあえずラーメンは美味い。未来では化学調味料がそこらのスーパーで簡単に買うことができるのでそんなに拘ったことは無いんだが、自分で食べるならともかく他人に食べさせるなら少しは拘りたい。一人で自分のためだけに作る料理はよっぽど嬉しいことでもないと適当に済ませてしまいたくなるから、せめて他人に食べさせる時くらいは……なぁ?
さて、チキンティッカだが、試食役を買って出たヘファイストスとギガースの一人であるエウリュトス、そしてキュクロプスの代表者としてアーウルガースがもっしゃもっしゃと食べ続けている。本来の身体の大きさからするとエウリュトスが一番食べそうなものだが、現状一番食べているのはヘファイストスだ。太るぞ? いや、神なら太らんか。太ろうとすれば太れるだろうが、わざわざ自分から太ろうとする女はよほどの物好きかあるいは格闘家くらいしかいないと思っている。
中世の農民にとっては太っていると言うのは裕福の象徴であったから少しくらい太っていたかったかもしれないし、日本においてはそこそこ昔までは少しくらいぽっちゃりしていた女性が好まれたと言う。恐らく、人間と言う動物が最大限健康に生きた時に出来上がるのがそう言った少しぽっちゃりした姿なのだろう。だからこそ本能的に健康な者と番ってより優秀な子を残そうとするのだろう。
また、あまりにも太りすぎるのは良くないが、ある程度太っていた方が子供の身体を作るのには有利になる。痩せすぎていると子供をしっかりと育てることができなかったり、あるいは子供の分まで栄養を取ることができずに流産や死産することになったり、母親の方も命が危険にさらされることもある。だからこそ、子供を産もうとする妊婦は少しくらい太っていた方が良いのだ。
ちなみにチキンティッカは肉を使っているが鳥肉、それも老衰間近あるいは老衰してから俺の冷蔵保存庫に運び込まれたような老鳥ばかりで、脂がほとんど無い代わりに骨からの出汁がたっぷり出たり歯応えが良かったりする。若鳥の方が肉汁がたっぷりで美味しいと言う奴もいるし、実際にその方が美味しいと思う奴は多いだろうが、食わなくても生きて行ける奴が道楽で食うためにこれから生きて子供を作って増えていくやつを殺して食うのはちょっとなぁ……と思う訳で。
「はぐっ!はふはふはぐっ!んくっ……はむっ!」
「これうんめぇなぁ」
「んだんだ、歯応えもばっぢりでんめなぁ」
まあ、俺としては自分で殺した奴や自分に身を捧げてくれた奴はその全てを使い尽して安らかに眠ってもらいたいと思う訳だ。自然の摂理として、肉も骨も皮も羽毛も、使えるところは余すことなく。可能なら、その魂さえも。
……ああ、魂は食べるわけではない。ハデスに持ってってもらって綺麗に洗って冥界の住人として過ごしてもらうのだ。ちなみに冥界で生き、そして死ぬと人間界でもう一度産まれ直すシステムになっているらしい。ここでも輪廻転生システムがあったとは。