俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の女神、思い出す

 

 神話の武器と言って、最も早く頭に浮かぶものは恐らく剣か槍のどちらかだろう。剣ならばエクスカリバーやガラティーン、アロンダイトやアスカロンやデュランダルと言った聖剣からグラム、バルムンク、ティルヴィング、フルンディングにレーヴァテインと言った魔剣まで様々だ。これらの剣は神話において多くは接近戦で使われることが多く、同時に人型の敵と戦った際に止めをさすのにも使われることが多い。

 槍ならば、グングニルやブリューナク、トリシューラ、ロンゴミアント、ピナーカ、ゲイ・ボルグと言ったものが有名だが、その多くは投擲用に使われる。無論、手に持ったまま使う者も居るが、そう使うこともできると言うだけで実際には投げ槍と言うことも普通にある。ゲイ・ボルグが有名だが、ゲイ・ジャルグやゲイ・ボウも実際には投げ槍である事はあまり知られていない。

 その他にも、兜、鎧、靴、盾と言った防御用の武装や、鎌、棍棒、杖、弓矢、投擲具、鞭、ハンマー等の武具。そう言ったものが神話に武器として描かれる。

 だが、殆どの神話において武器でありながら神の手に握られる事が非常に少ない武器がある。非常に扱いにくい鞭や、投げるか握ってメリケンサックくらいにしか使えないチャクラムでさえ神に握られると言うのに、世界のほぼあらゆる場所に存在しながら世界の殆どの神話にて神が握ることのない武器。

 それは、短剣。あらゆる神話に一度は出現し、しかしそのほぼ全てが暗殺用であり、神が使うようなものではない。言い方を変えれば、実力のある神であれば自身と拮抗するほどの腕を持つ短剣使いとの戦闘経験は早々積むことはできないと言うことでもある。まともな戦闘は短剣使いが苦手とするところだが、まともじゃない戦闘と言うことなら話は別だ。

 暗殺が筆頭になるが、それ以外では投擲や真正面からの不意打ち、心臓の上に入れておいて偶然にも刃を防いでくれたりなど、使い道は色々ある。武器でありながら武器として使わない方法もあるし、特に俺の短剣は態々トリッキーに使えるように見えないほど細い糸や鎖をつけておいたりしているわけだし。

 鎖の場合、相手に刺さっていれば電撃を流して行動不能にしたり、そのまま絡め取ったりすることもできる。糸の場合は主に罠を張る時に使うことになるだろう。見えないほど細い糸で作り上げられた糸の結界。それは神の身体すら容易に切り裂けるはずだ。そういう風に作ったのだから。

 

 近接戦闘において短剣の小回りは防御に非常に効果的。特に相手が槍などの長柄の武器を使っていればそれはより顕著になる。某運命な名前に出てきた赤い弓兵のように、相手の攻撃を凌ぐことだけを考えるならば理想的だ。

 勿論現実はそう上手くいく物ではない。いくら耐えることができても、相手を倒すことができなければじり貧。数に押されて少しずつ体力を削ぎ落とされて最後には首を取られてしまう。だからこそ俺はそう言った数の暴力を武器の数でひっくり返せるように短剣に増える能力を付加したのだが、他の神話の神の武器には必中の概念が付いている物もある。躱せず、防げず、受けるしか無い物を投げられてはこちらも困る。数任せなら何とかなるし、力任せでもある程度いなすことができるが、そう言った武器の性能ばかりはひっくり返せそうにない。

 俺が地上を旅することがあるならば、それはそう言った出来事に対して耐性をつけることができるようになってからにしよう。何らかの方法で無傷、あるいは軽傷で済むようになってから行くことになるはずだ。

 

 しかし困った。太陽光の槍ならば全力状態の俺が使っても壊れないと思ったのだが、縮退炉を使っていると光も呑み込まれるし、対消滅炉では放射線によって干渉されて形を保つことが非常に難しい。これをどうにかするにはもう少し研鑽と研究が必要となりそうだ。

 とりあえず、人間や神の目にも見えないような波長の非常に短い光で投槍を作ろう。光速度で動き回る神は割と存在するし、そういった神ならば自身で持っている物理的な武器を振るう方がよほど速いだろうが、殆どの神の場合その動きの比較対象として出てくるのは音や風や雷であって光ではない。まあ、これなら何とかなるだろう。多分。

 


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