俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の女神、作り上げる

 

 箱を用意する。その中に土や水、植物、虫などを入れてやる。蓋をして、それらの中身の増減をなくした状態で、しかし中の生物の数が早々増減を起こさないようなもの。それをビオトープと呼ぶ。

 地球とは、ある意味では巨大なビオトープのようなものだ。ガラスでできた透明の蓋の代わりに目では見ることのできない重力が蓋をして、無数の動物や植物が食物連鎖を起こしながら進化や退化を繰り返し、時に突然変異し、時に環境に適応するようにしながら生き続けている。

 キリスト教……正確にはユダヤ教と呼ばれる宗教ではそれらの始まりは全てが唯一神と呼ばれる神によって現在の形で作られたということになっているが、もしもその記述が正しいとなるとキリスト教における世界では『世界五分前説』が実際に使われているということになる。実際に五分と言う訳ではないが、唯一神が世界を作り上げた時に化石や進化の過程を示す全ての物を作り上げたと言うことになり、年代的に世界が作られるより以前の物は死んだ状態で生まれ出でたということになる。

 そして恐らくそうして作られた時代は、25万年から3万年ほど過去。これはおよそだが旧人と新人の転換期であり、現在の姿で人間が作り上げられたというのならばどれだけ遡ったとしてもそれ以前にホモ・サピエンスを見付けることはできなくなる。つまり、最大でその程度までしか時代が存在しない訳だ。もう少し深く考えるとすれば、全ての人間が神によってこの姿で(ホモ・サピエンスとして)作られたとするなら、全てのネアンデルタール人は絶滅した後でそう作られていたということになる。となると、人間どころか宇宙の歴史が最長二万と数千年程度しか無いことになるのだが、そうであったとしてもそうでなかったとしても面倒なことだ。

 それに比べて今、俺が生きている時代で地上に生きる生物の多くは人間ではなく知恵を持たない動物だ。一部の動物は知恵を持ち、永く生き、魔力などを身体に宿し、時に神の座にまで成り上がりそうなモノすら存在するが、大半の動物たちはそう言った強力な群れの長に率いられたりして何とか命を繋いでいる。時代的に見れば……間違いなく億年単位で過去の事だろう。

 

 それだけの時間があれば俺は様々なことができる。例えば十万を超える権能を掻っ攫って人間や獣人など(居ればの話だが)によって作り上げられる文化の権能を手に入れたり、くじ引きの結果ハデスが支配する事となった冥界よりもさらに地下深くに存在するタルタロスに太陽と月を浮かべて川と海のように巨大な湖と植物とちょっとした動物を放してビオトープを作り上げたり、ギガンテス達を連れてタルタロスで祭りを開いて漸く祭儀の神としての一面を見せることができたり、鍛冶神の技能をヘファイストスに叩き込んで鍛冶神としての座をヘファイストスに譲ったりすることだってできる。

 ちなみにだが、ヘファイストスが雷を投槍として打ち上げることができるようになった頃には俺も太陽の光そのものを槍として形作らせることができるようになっていた。鍛冶を真似させていたギガースやタルタロスを命溢れる世界にしている途中で見つけたキュクロプスを助手として鍛冶仕事をするヘファイストスの姿は、昔の姿からは考えられないほどの成長と言う形で俺の記憶に残されている。

 初めの頃は金属を抑えていた金鋏を間違えて叩いて熱い銅と融合させちゃったりしていたヘファイストスも、本当に大きくなったもんだ。子供の成長は早いと聞くし、何度も実感しているはずなんだが、それでもやっぱり予想以上に子供の成長は早く感じるもんだ。まだ俺は若いつもりなんだが、もしかしたらこれが歳を取ったって感覚なのかもしれんな。少なくとも身体はまだまだ若いんだがなぁ……。

 

 まあ、いいさ。俺はこれからものんびり生きて行く。争いとかそういうのがあったら話は別だし、もしも他の神話体系の神々に喧嘩を売られたりしたらよほどのことが無い限り喧嘩を買って後悔させてやるつもりでいるが……平和は掛け替えのない物だ。それさえ理解していれば日常に戻ることが十分できる。

 それに、他の神話体系に積極的に喧嘩を売ってきそうな奴らは限られてるしな。

 


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