俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の女神、妹を弄る

 

 別荘と自宅を行き来して、新しく野菜を作ることに成功した。そうした野菜を使って、カレーに合うサラダを作る訳だが、俺のカレーは基本的に実家で食べたい優しい味を基本としている。いわゆる『三口目で美味しいと感じる味』と言う奴だ。

 『一口目で美味しいと思わせる味』を出すのもできなくはない。人間だった頃は色々な所で短期のバイトを繰り返していたし、そのくらいのことはできる。拉麺を正式な作り方で作ることもできなくはない。何の意味があるのかは置いておいて。

 

 まあ要するに何が言いたいのかと言えば、結婚式で作る料理は家庭で作るような三口目で美味しいと感じる料理より、一口目で美味しいと思えるような料理の方が求められる。いわゆるよそ行きの料理と言う奴だが、この時代において料理という文化が発達していない以上、美味い物を食べたいならば俺が納得するまで試行錯誤を続けるしかない訳だ。

 

「しかし前に『男としての魅力をほんの少しも感じない』と言ってたヘラがなぁ……」

「……ほっといて」

「ドレスはいらんのか?」

「…………いる」

 

 まったく、母親としての自覚が出てきたと思ったら、次はちゃんと女として惚れた相手ができるとはなぁ。まあ、相手はゼウスなんだが。

 一度関係を持ってから、少しずつ相手のことを知っていく。とても正当な恋愛とは言えないが、そうしてはいけないという理由は無い。やるのは自由だし、結果的に納得できればそれで問題は無い。ゼウスはもう結婚していたはずだがどうやら以前にも別れていたらしいし、今回の離婚と結婚でバツ2と言うことになる。

 正直、俺にはゼウスが男として魅力的にはどうしても見えないんだが、それをわざわざヘラの前で言う意味もないし、ヘラを怒らせる趣味もない。からかって恥ずかしがっている姿を見るのは悪くないが、それもやり過ぎると怒られるしな。

 

 ……さて、問題はヘファイストスだ。ヘラに会わせていいものか、会わせない方がいいのか、非常に難しい問題だ。親子の間に入り込むのは血族だったとしても非常にやりづらい。ヘラはどうにもヘファイストスに対して罪悪感を抱いているようなのでヘファイストスと会わせても無言を貫くだろうし、ヘファイストスはヘファイストスでヘラが目の前に居てもいないように扱うことが多い。

 ヘファイストスの脚や顔について馬鹿にしたり嘲笑ったりした奴は少々痛い目を見てもらったが、それでもそれまで受けた心の傷はそう簡単に癒えるわけもなし。子供心に付いた傷は深い。

 ちなみに大爆笑したポセイドンはもう一度心に傷を負ってもらった。まさか一度しかやってないのに催眠の権能を得られるとは思わなかった。この権能は夢や記憶の権能にも多少干渉できる便利な権能だ。とりあえず軽く悪夢を見てもらうことにしたが、まさか泡まで噴くとは。

 

 だが、俺は別にどうだろうが構わないんだが、ゼウスに離婚させられた方はどうなんだ? あっちもちゃんと納得しているのならいいんだが、もしも納得していないのに無理矢理にゼウスが別れ話を押し付けたりしたのならもうそれは色々とまずい。俺が知る人間の戦争で最も下らない戦争の理由は『呼ばれて出たパーティーで出された料理の盛りが仲の悪い国のそれよりほんの僅かに少なかった』と言うものから始まった戦争だが、婚姻を結んでいたにも拘らず男の方が別の女に惚れたからという理由で突然女性側の意思を無視して離婚した、ということになれば戦争の一つや二つ起きたとしてもおかしくはない。

 それが起きなかった理由は、ゼウスがギリシャ神話の主神であり、ギリシャ神話の神々の中で最も強大な神だからだろう。つまり、力任せに黙らせると言うまるで躾のなっていないやくざの下部組織のような有様だ。まったく、俺にはそれはどうにもできんぞ? 恋心やらはエロースあたりの権能だからな。

 


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