俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の女神、二つを結ぶ

 

 空間転移。それは人間が古代から夢見る移動方法で、ほんの一歩しか動いていないように見えるのに実際には到底一歩では届かないような遠距離まで移動していると言うものである。縮地やワープと言った名前で知られていたり、あるいは空間跳躍や時空転移などと表現されることもある。

 それは科学的、あるいは魔法的に行われる技術であるが、どちらにしろ俺が人間として生きていた時代ではアニメや漫画など、創作の世界にしか存在していない。実現するには生まれ変わった今、神としての力や魔法を駆使して0から作り上げていかなければいけない訳だが……やればできる、と言うのはやはり至言だな。できる物だ。

 

 俺が作ったのは一つの部屋。その部屋は地上の俺の家にも同じものを作っておいて、二つの部屋を魔力を用いて同期させることで一時的に位置情報を重ねて転移に似た現象を起こす。その性質上、部屋の前と後ろに二つの扉を用意して両方同時には開けられないようにしてある。両方が同時に開いてしまうと術式が壊れてしまい、部屋の中身は不安定な世界に放り出され……たりはしないが、かなり面倒なことになる。わざわざ九日間も落下し続けて地面に激突しなければ行くことのできない別荘など使い物にならない。常識的に考えればすぐわかることだ。

 そう言う訳で作った転移部屋を通って家に戻ってみると、ヘファイストスがカンカンと金鎚で鉄を叩いている所だった。その隣ではギガース達が何人か並んで同じように鉄を叩いているが、その巨体からしてあまり細かい作業は得意ではないらしい。一応神の血を引いているのだから小さくなることくらい簡単なはずなんだが、どうしてこいつらはそうしないんだろうな。不思議だ。

 

 凄まじく集中しているらしいヘファイストスの邪魔をしないように鍛冶場を出て、台所に移動する。十日ほど家を空けてしまったので少し心配だったが、どうやらヘファイストスも少しは料理を覚えたらしく冷蔵庫の中身が少し減っていた。何を作ろうとしたのかは……いや待て、本当に何を作ろうとしたんだ? 減ってるものの種類が少なすぎるし毎食食べていたにしては減りが少ない。と言うか減ってるものを総合して見てみると……調理せず食べられるものしか減ってなくないか?

 家から少し離れたゴミ捨て場を見に行くと、最近捨てられたものの中にトウモロコシの皮やら歯形の残ったキャベツの芯やらが捨てられているのを見て悟った。ヘファイストスが料理を覚えたようだと言うのはどうやら気のせいだったらしい、と。

 

 とりあえず食事を作るべく家の周りで老衰を迎えようとしている動物たちを眠らせて肉を貰う。動物たちはまだまだ元気な時はともかく、自身の死期を悟ると俺の下にやってきて肉を提供してくれる。勿論それ以外で、例えば事故や肉食動物に狩られたりして死ぬこともあるが、それは自然の摂理だ。そうあるべきだ。俺は肉が無くとも……正確には肉どころか食べ物すらも何もなくとも生きて行けるのだから、そういうものに関しては地上の動物たちを優先するのは当然のことだろうよ。

 そしてその肉の筋を切ってから肉叩きで叩いて柔らかくして、摩り下ろした玉葱に漬け込んでさらに柔らかく。所謂『シャリアピンステーキ』と言う奴と同じだな。あれは本来牛の肉を使うんだが、今回使うのは牛ではなくて猪。神代において猪は龍より強いようなものもいたりするが、それはごく少数だ。ケルト神話には無数のルーンを背負った猪が暴れまわっていた時期もあるそうだしな。

 

 ……そう言えば、俺は今までギリシャ神話的な神の権能、日本や中国的な陰陽道や道術、陰陽五行を応用したりする物、仙道や方術を用いた結界術や空間に関わる術、非常に原始的な概念を引き出し、増幅し、時に希釈して使う魔術を使ってはいるが、北欧神話的なルーン魔術やブードゥーのような呪術は使ったことが無い。まだまだ伸ばせそうなところはあるじゃぁないか。

 できる限りはやって見せよう。結果、どうなるかは知らんがな。

 


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