滅びとは、およそあらゆるものに存在する出来事だ。かつての俺のような人間の眼から見れば永遠にも思えるような膨大な時の流れによって滅びたものは数多い。
物質の結晶は風や温度変化、水滴や水流、あるいは接触によって起きる酸化などによって変質し、削られ、元の形を失ってしまう。生きる者はその膨大な時間によって老化し、死に絶え、朽ち果て、残した子も同じように子を作り、死に、朽ち果てる。それを繰り返す間に、環境によって種そのものが変質することさえもある。それを人間は進化と呼ぶが、それについていくことのできないものは死に絶え、あるいは自分達が生きていくことができる環境に移動していく。それさえできなければその種は死に絶えることになり、文字通りの絶滅が起こると言うわけだ。
ギリシャ神話の神にとって、そんな生物の理論は通用しない。およそあらゆる場所で生きることができ、およそあらゆる状況でも死ぬことはなく、自身が不老不死を返上することがなければ死ぬこともできない。神とはそういう存在である。
だからこそ、神は自身の持つ能力や権能について他の神に教えることはまず無い。それは自身の権能を削ぎ落として力を失い、他の神に力を与えることと同じこと。争いの多いギリシャ神話の中でそんなことをするのは自殺行為以外の何物でも無いのだ。
だが、それでも俺はやらなきゃならない。ヘファイストスの今の権能は火山と雷。そこに鍛冶の権能を加えてやれば、色々と面白いものができるようになることだろう。俺もできるが。
火山→地球を炉とした場合、内側の熱の噴射口
雷→プラズマ→火と同じ→太陽と同じ
つまり、現状ヘファイストスにできることはおよそ俺にもできるわけだ。身長の問題でヘファイストスの方が向くこともあるがな。高い所の物を取るとか。
そしてヘファイストスがヘファイストスである以上、鍛冶とは切っても切れない縁がある。現在の権能から考えても、鉱石を見つけて純化することが簡単にできるだろう。鍛冶をやるのに向いている。
もちろん
さて、そんなこんなでヘファイストスにちょっとした鍛冶仕事を仕込んでみることにした。俺もこうして鍛冶仕事をするのは暫く振りだが、やはり身体は覚えているらしい。そこそこ思い通りの物を作ることができる。
作り上げて見せたのは、一振りの剣。俺がいつでも持っている短剣のような剣ではなく、それなりに身長のある者達にちょうどいいサイズだと思われる普通サイズの剣。まあ、どこにでもあるような普通の剣だ。外見上は。
「―――すごい」
「ん? そうか?」
「……」
だが、どうやらヘファイストスにはそうは感じられなかったらしい。俺としては武器を作るのは久し振りと言うこともあって及第点は出せるが傑作とはとても言えない出来なのだが、それでも何か感じるものがあったらしい。きらきらとした目でじっと作られたばかりの剣を見つめている。
まあ、とりあえず基礎から行こうか。俺は教えてくれる奴がいなかったからかなり無茶な知識と我流で何とかしてきたが、ヘファイストスにはもう少し正道のやり方を学んでほしいところだ。俺のように迷走を続けてきていたら時間がいくらあっても足りなくなってしまう。気が付いたら人間達が刀剣から離れて銃を持ち出してきたりミサイルぶっぱしているなんてことにもなりかねない。多少急ぐとしよう。
まずは、金属を熱した時の色と叩いた時の感覚を覚えるところから始めよう。俺には外見とか飾りとかのセンスは無いからその辺りは我流で何とかしてもらうしかないがな。