俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の女神、子を育てる

 

 御伽噺と言うのは、色々と無理のある設定から始まるものが多い。例えば、桃太郎と言う有名な御伽話が存在するが、あれば主人公である桃太郎が川から流れてきた桃から産まれると言う凄まじい産まれ方をしている。

 実際には桃から産まれてきたわけではなく、原典においては川から流れてきた桃は西王母の畑の仙桃であり、それを食べて若返った老婆と老爺の間に産まれたのが桃太郎だと言う。

 しかし、子供に聞かせる話としては不適切な表現だと判断されたようで、俺が人間として生きていた時代においては桃から産まれたとされている。

 まあ、垢を固めた人形を作ってみたらいきなり動き始めたと言う始まり方をする垢太郎に比べればまだましな産まれ方かもしれないが。

 彼らの成長速度は非常に早く、一升分の米を食べれば一升分、二升食べれば二升分、どんどんと大きく、そして強く成長していったらしい。

 

 そう言った作品の中の登場人物程ではないが、ヘファイストスはすくすくと成長していった。今まではヘパイストスと呼んでいたが、ヘラのつけた名前を正確に発音するならばヘファイストス。日本ではどちらかと言えばヘパイストスの方が有名だったような気がするが、ヘファイストスと言う呼び名も十分に広まっていたのでそこまでの違和感はない。

 しかし……可能性としては考えていたものの、本当に女として産まれてくるとは。ヘラに聞いた時にはこっそり驚いたし、色々とやることが増えたとも思った。

 とりあえず、昔のように金属資源しかない訳ではないので服は植物の繊維を織って作る。近場には麻があったが、麻では肌に良くないので綿の木を錬金術で作り上げてから急速成長させて綿を取る。紡いで、糸にして、織って、縫って、布おむつと産着、そして服を作り上げた。

 皿は木を削って作ったが、匙やナイフ、フォーク等は金属で。流石に陶磁器は間に合わなかったので暫く使えなかったが、それでも数日後には使わせることができていた。神と言うのは成長が早いし、俺が使っているのを見て勝手に覚えることもするだろう。

 事実、ヘファイストスは産まれてから一月程度。人間で言えば2歳から3歳程度にまで成長し、物珍しそうに俺を見て、そして俺の真似をして食事を取っていた。

 今まではスプーンを使ってヘファイストスに食べさせていたのだが、自分で食べるのは初めてである以上、目の前にいる俺の真似をするのが一番早いと判断したのだろう。デメテルやヘラ、ハデスやポセイドンを見ていて神の成長速度には慣れたが、そろそろやることやっておかないとヘファイストスの足が萎えたままになってしまう。

 

 用意したのは薬。ただ、まともな薬ではない。酒と薬を混ぜ、痛みを感じることなく狙った部位を正しい形に作り替えるようにしておいた。具体的には、脚を普通に歩くことができる形に作り替える。元々の形が奇形となってしまっているので少しばかり手がかかるが……義理とはいえ娘が自分の脚をしょぼくれた目で見つめては何度も叩いたり無理矢理曲げようとしているのを見るのは心が痛む。できることが何も無いならともかく、できることはあるんだからやるしかないだろう。

 ……ちなみに、ちょっとしたサプライズと言うことでヘファイストスには何も言っていない。今日の夜、ぐっすりと眠ることができるようにといつもと何も変わらない食事を用意して、いつも通りに抱き締めて眠る。まだまだヘファイストスは幼い。愛情を感じることが必要な時期だ。裏も表もない、純粋な愛情。俺がそれをちゃんと与えていられるかどうかは少し不安だが、少なくともヘファイストスは今日まで健やかに成長してくれている。俺はこれまで通りにヘファイストスと付き合っていくつもりだしな。健やかに育ってくれるならばそれでいい。

 

 ……近場に生えているとは言え、効果の高い薬草の在庫が根こそぎ消し飛んだがな。一時的に骨やら筋肉やらを柔らかくして、しかし柔らかくなったもの同士でくっついたり融合したりすることはなく、ある程度の時間が過ぎると再び固くなる薬なんて早々できる様なものじゃないからな。失敗もそれなりにしたし、古くなった薬草を一括で使いきれたのは逆に良かったかもしれないが……まあ、時間さえあれば替えはいくらでも生えてくる。のんびりしているとしよう。

 

 


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