冠婚葬祭。日本にて古くから行うことが多い四つの行事を集めたものをそう呼称する。
冠。それは成人の義のことであり、成人した瞬間から冠位を得るための資格を持つことができることからそう呼ばれる。また、成人の義において人生で初めて冠を被る者が大半を占めることからもそう呼ばれていた。
婚。言わずと知れた婚姻のことである。冠婚葬祭として纏められた四つの行事のうち、自身の事で複数回行われる可能性のある行事である。
葬。葬式であり、自分以外の家族の物ならば数多く参加したり主催したりする可能性があるが、自身のものは一度きり。あるいはその一度すら開かれることなく終わる可能性もある。家族にどう思われているのかが決め手となる。
祭。祖先の祭儀を行うもので、開きたくなければ開かなくともいい。ただし、自身の分が開かれなくとも良いならば。
だが、現代においての祭りと言えば、そう大したことのない事でもよく起きるもの。だが、この時代において、祭りと言うのはある種の特別な物であったことは間違いない。
例えば―――主神の代替わりが起きたりすればそうした祭りが開かれると言うことになる。
今までの古い神々から時代は移り、新たな神々の王が君臨する。時代は生まれ変わり、新たな時が始まる。そんなことがあれば、この神代でも祭りと言うものが起きてもおかしくないわけだ。
神代の祭は中々に派手なもので、様々な物が用意される。神食と呼ばれるアンブロシア。神酒と呼ばれるネクタル。そんな中では俺の作った料理など埋もれてしまうだろう。それは実に当然のことだ。
「ビーフシチュー!」
「ホワイト!ホワイト!」
「カレーだルォ!?」
「ポトフもいいよ」
「みんな美味しいで良いと思うのだけど~?」
不思議なことに超人気。何故だし。
それに祝い酒も出したんだが、酔い潰れる奴多数。確かに口当たりは良くて飲みやすいのに異様に強い酒だが、神なら平気だと思ったらそんなことは無かった。
ジョッキで飲もうとする馬鹿もいたが、一口目で急性アルコール中毒になりそうだったそいつに錬金術と調薬技術で作り上げた凄まじく苦いアルコール分解剤を飲ませて事無きを得る。この酒は強いと言っておいたのに、何でジョッキで飲むかね。馬鹿なのか? 最悪死ぬぞ? ギリシャ神話の神だから死なんだろうが。
祭りとも宴会とも勝負とも戦争とも言えない、しかし同時にその全てであるとも言える一度きりの行事はこうして続く。気付けば酔い潰れた者も復帰し、そしてまた酒に溺れたり料理に溺れて潰れていく。作る側は大忙しだ。
「……やるねえ、異様なるジンガイ」
「ん? ああ、ばーさんか。飲んでる?」
「少しずつね。……いやしかし良い酒だねこいつは」
「自信作だよ」
「そうかいそうかい」
ガイアのばーさんは明るくカラカラと笑いながら俺のとなりに座る。逆隣には俺に飲み比べを仕掛けて酔い潰れたティターン神族が山になってると言うのに、まったく豪胆なばーさんだ。
「……ほんとはね。あんた達の弟が主神になるには、とても大きな戦争が起きるはずだったのさ」
……そう言えば、予言の神はガイアの血族だったな。現在過去未来の三つの時を司る三女神もそうだった気がする。司る神がいるなら、ガイアがその権能を持っていてもおかしくはない。
俺は黙って先を促す。周囲は未だに五月蝿いが、この場所だけは少しだけ周囲から切り離されたような奇妙な状態にある。
「本当は、もう少し後になってから……オリュンポスの神々が十二柱揃ってからのことさ。
「そんな面倒事をやるわけないだろうに。負ける気はしないがまともな方法じゃ時間がかかりすぎる」
「だろうね。あんたは面倒なことは嫌いな性格だろうよ」
「よくわかってんな」
「……狙ったね?」
「一番楽だからな。争うにも後腐れの無い方が良いし───ばーさんを相手にするのは正直面倒だ」
……まあ、面倒事を初めから無かったことにできるんだ。多少はやるさ。神話からは大分離れたが、それは大して重要なことじゃない。平和が一番だ。
そう言うわけだ。平和に、乾杯。