俺は竈の女神様   作:真暇 日間

36 / 330
大海の神、戦慄する

 

 俺が産まれて初めて惚れた相手は、太陽のような女だった。

 親父に呑まれた先に居た、一人の女。傷だらけでバサバサになった黒い髪を適当に金属の輝きを持つ花の形をした髪留めで後ろに纏め、手にも足にも傷がたくさん付いた、外見だけならどうして惚れたのかわからないような女。近場には他にも美しい女神が居たし、そんな背も小さい傷だらけの女を気に入るとは思っていなかった。

 名前はヘスティア。俺の一番上の姉貴にして、一番小さく一番大きな姉だ。

 

 ロリ姉貴の傷は日々増減していた。それは火傷であったり、切り傷であったり、恐らく自分の骨が内側から貫いたのだろうと思わせる傷もあった。どうすればそんな傷になるのかわからないような傷すら存在していた。

 まるでアダマスの鉱石でも触っているかのような硬質な感触に、しかし肉がついていることを表すような弾力性を持ち合わせたその手は、常に俺達のために振るわれていた。

 

 畑を耕し、水をやり、太陽の調子を整え、熟れたものから収穫し、その日の献立を考える。

 料理に使う包丁やまな板、鍋にフライパン。それらは全てロリ姉貴が自身の手で作り上げた物。俺達が使う皿やスプーンやフォークも、全部ロリ姉貴が作り上げていた。

 どんどんと大きくなっていく身体に合わせた服や靴も作ってくれた。

 ロリ姉貴は、親父に呑まれた中でもこうして俺達の事を想っていてくれていた。

 

 そんな生活をしているうちに、俺は少しずつ変わっていった。ロリ姉貴の手足についた傷を見ても醜いと思うようなことはなくなったし、それどころか絶対に嫁にもらってくれる相手なんていないだろと思っていたロリ姉貴にかなり本気で惚れそうになっていた。

 だが、ロリ姉貴の性格は知っているし、俺はショタ兄貴のように可愛がられるような性格はしていない。可愛がられるショタ兄貴ですらロリ姉貴には軽く袖にされてしまっているし、俺でも同じように袖にされるだろうことは間違いない。

 だからこそ俺は、姉貴達に相談することにした。ロリ姉貴に惚れたんだが、きっとロリ姉貴は俺の想いもはいはいと受け流しちまうだろうから、どうにかしてロリ姉貴と結ばれたい、と。

 姉貴達の協力を得て作戦を実行。姉貴たち……今回は上姉貴に協力してもらったんだが───ロリ姉貴の逆鱗だったらしく、トラウマ刻み付けられた。

 ああ、確かにロリ姉貴はアダマス砕いてたよ? だからってあの拳でモツ抜きパンチとか洒落にならない。モツの代わりに筋肉を持ってかれたし、暫く傷が治らないまま放置までされた。超痛かった上にロリ姉貴がなんかやったようで怪我が全く治らない。顔はぼっこぼこになったしまぶたが腫れて暫く前を見るのにも苦労したし、呼吸するだけで衝撃通しでズタボロにされた内蔵が軋むような感覚。正直やばい。

 発狂しそうでできないままの時間。神であるがゆえに意識を失うこともできないまま激痛に苛まれる中、俺は心に決めた。

 

 ───二度とロリ姉貴を怒らせるようなことはしねえ。例え主神に逆らうようなことになっても、絶対怒らせねえ。

 普段からあまり怒らない奴ほど怒った時には怖いって言われているらしいが、少なくともロリ姉貴に関しては間違いない話らしい。正直言ってやばい。素手で皮膚を切り裂かれて肉抜かれた。マジでどうやってんのかわっかんねえな。

 

 ……まあ、誰が相手でも許される範囲と許されない範囲があることを学べた。それに、あまり知識として持っていなかった女から見たそっち系統の知識も貰った。あんなきついもんだとは思ってなかったし、最終的にはロリ姉貴も許してくれたし『やって良かった』とは言わないがやる意味はあった。そうでも思ってないとやってられない。

 何しろロリ姉貴は俺が上姉貴と仲良くしていたり、上姉貴にロリ姉貴のことでからかわれてるのを見て俺が上姉貴に惚れてると本気で思ってるからな。泣けるぜ……。

 

 そんな俺達も、この場所から出る日がやって来た。今まで作ってきた物や必要な物を全員で持って、準備完了。どうやって出るのかと思っていたんだが……

 

「俺の右腕が輝き燃えるッ!クロノス(クソオヤジ)を殺せと輝き吼えるゥ!」

 

 ロリ姉貴が突然一番でかい竈をぶち壊したかと思うと、中にあった太陽を取り込んで輝き始めた。

 

「灼!熱!」

 

 そして、その輝きが右腕一本に集まったかと思うと、おもむろにそこにあった壁に手を触れさせ……

 

「サンシャイン・フィンガーァァァァァァァァァッ!!!」

 

 竜巻のように渦を巻きながら突き進む金色の槍が顕現した。イミガワカラナイ。

 ロリ姉貴は竈の女神。そう聞いていた。で、なんで竈の女神が太陽を作ったり太陽を取り込んだりしてんのかを考えていたら、いつの間にか身体が引っ張られて外に居た。……まあ、考えるのは後回しだ。ロリ姉貴に言われた通り、親父のケツに太陽炉を突っ込んでこなくちゃならない。カレーが俺を待ってるぜぇ!

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。