竈の女神、送り出す
ベータテスターとして俺が呼んだのは、ギリシャ神話の黄金時代の土台を作り上げた旧き主神、ウラノス。毎日毎日あまりにも暇で暇で変わらないはずの神格なのに呆けそうになっていたから無理矢理引っ張り出して説明したら一気に元気になった俺の爺さん。婆さんのガイアは来ていないが、正直俺あの婆さんとあまり性格が合わないからお互いに触れない方が幸せに過ごせるんだよな。
それから日本神話から洩矢神の一柱と、すでに役割とかが殆ど無くなりかけている神格をいくらか集めてきた。
ギリシャ最古の海神ポントスや既に死んだ神格の残滓から生まれた神格などのいなくなってもあまり問題の無い奴を筆頭として……いたはずが、何故かゼウスが紛れ込んでいる。
……なるほど、ようするにヘラの眼の届かない所で浮気したいと、そう言う訳か。ほんとこいつ一遍殺しておいた方が良いかもしれんなマジで。いや殺そう。
「ちなみにだが俺が行くまでカレー食えないからそのつもりでなそれじゃあ行ってらっしゃい」
「ちょま」
とりあえず三柱を送り込んだが、権能の欠片に残された残留思念を活性化させて式にしつつヘラに連絡を入れる。お前の夫が俺の作った世界でお前に知られない間に多種族の綺麗所を集めてハーレム作ろうとしているぞ、と言う内容だが、連絡を入れたら五秒後には家のドアが叩かれた。
「詳しく」
「お前本当にこの事に対しての対応が速いよな」
まあそれも仕方ないか。なにしろこいつ基本的に甘えたがりだし。色々あって依存傾向強めのヤンデレ的な思考してるし。俺もできるだけ矯正したんだが、それでも完全に治すことはできなかった。
と言っても被害者は基本的にゼウスだから俺はそこまで困りはしないんだがな。時々ゼウスに手を出された側にも行くことがあるが、それについてはできるだけ抑えるようにしてあるようだし、行ったとしても気付けばすぐに何とかするようにしているのも知っている。よく頑張っていると言えるだろう。
人間もそうだが、神は人間以上に自分と言う物を変えるのが苦手だ。何しろ神とは信仰の生物。信仰によって自身が変わってしまえば、それまでの自分とは全く違う存在となってしまう。複数の神が同一視されて融合してしまったり、同じ神の違う側面が分かれて別の神格として奉られてしまったり、そうしたことはまあそれなりによくあることなのだ。
例えば、中国神話において神に最も近い人間である皇帝を誑かした最悪の妖怪、白面金毛九尾の狐と、仏教における如来の一人である大日如来、そして日本神話の太陽神である天照大御神とインド神話のダーキニーは、語られる地域も所属する神話も違いながら同じ神格であるとも言われている。神格でありながらも妖怪であると言ったことは日本では割とよくあることだし、インド神話においても割と簡単に神格の血が手に入る。しかし中国神話において神の血が入った存在として認められているのは皇帝くらいなもので、それ以外は神の血が流れていたとしてもあくまで妖怪として扱われてしまう。
まあ何が言いたいかと言うと、信仰によって性格や姿が変わってしまう以上は『嫉妬深い』と思われれば実際に嫉妬深くなってしまうのが神格と言う物なのだ。そしてヘラは何度もそう言われてきたために、嫉妬深い神格であるとある程度固定されてしまっている。
……ちなみに俺は何でかそんなことは無い。信仰されている奴らには心優しいとか罪人に厳しく只人に誠実だとか色々と言われていたりするが、それはあくまでも俺としては普通の在り方であって何かが変わったと言う訳では無い。
それに、優しいと言われたからと言っても契約は間違いなく守らせるし、厳しいところは普通に厳しいはずだ。
「で、行くか?」
「……」
愚問かね。