俺は竈の女神様   作:真暇 日間

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竈の巫女、出て行く

 

 クー・フーリンを治す際に若干ではあるが体組織に麻婆由来のものが混じってしまったが、ちゃんと調整はしたので影響は出ていないはずだ。味覚が麻婆を最高級に美味いと思うようになってしまう程度だろう。多分。

 概念的には麻婆が身体になっているわけだから変調が起きないということこそありえないが、それでもその変調を最低限に押さえ込むのが俺のやり方だ。

 残念なことにクー・フーリンは麻婆の虜となってしまったが、多分大丈夫だ。クー・フーリンは早々死なん。死んでもなんでかなんとかなる。実際今も死んでから数百年ほど過ぎているのになんでかここにいるしな。なんでか。

 

「そう言えばお前なんでこんなところにいるんだ? お前もう死んだだろ? 影の国に───」

 

 あ、そうだ、そうだったな。ケルト神話における冥界の立ち位置にあるのは、スカアハの居る影の国だった。生者が死者の国に生身で行けるんだから、死者が道を逆に辿って生者の国に出てくることもあるか。なるほど。

 理解したし納得もできた。なにしろ死者が生者の居る世界に出ようとする話はギリシャ神話にも日本神話にも存在する。その辺りの事を理解できない筈もない。

 どちらかと言えば俺はクー・フーリンが上と下の真っ二つのまま数分生き長らえた挙げ句に俺の行動にツッコミまで入れたと言う方が色々おかしいと思う。普通に考えれば神でも死ぬぞそんなことになったら。俺が死ぬかどうかは知らんがな。

 まあともかくとして、こいつは本当に激流に身を任せ頭がどうかしている。普通死者が生者の世界に来るときには外から連れ出されなければいけないはずだってのに、なんでこいつは当然のように自力で出てきてるんだか。あれか? 影の国の女王を手籠めにしていろいろと頼み事とかしている感じか?

 だが、正直あいつの伝説のことを知っているとよくもまあそんなことができるもんだと思ってしまう。あいつ、自分が見逃した奴に対してクー・フーリンが不快そうな顔をしたというだけで即座にそいつらの後を追いかけて皆殺しにした挙句、殺すのに使った武器を血まみれのまま『これが私の気持ちだ』と笑顔で渡してきたり、クー・フーリンがほかの女に特に意味もなく視線を向けているだけでその女を殺しに行くようなヤンデレ気質。俺、ヤンデレは苦手なんだよな。苦手というか嫌いでもある。

 だってほら、怖いじゃないか。自分のことを何でもかんでも全て調べに調べ尽くしてる奴とか、もう本当に何を考えているのかわからなくて怖い。だからスカアハもできれば関わりたくない。

 

 ……あ、もしかしたらやばいかもしれんな。さっさとこの身体はマーボーでできている男をケルトの影の国に返してやらないと、俺が襲われる可能性がある。あー怖い怖い。

 


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